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草愛やし美さん

時空文学コンテスト開催100回、おめでとうございます。思えば、初めて私が、こちらに投稿したのは2012年5月のこと、もう4年近く経ったのですね。時空モノガタリさまが、創作の場を与えてくださったお陰で楽しい時間を過ごすことができました。感謝の気持ちでいっぱいです。 また、拙い私の作品を読んでくださった方々に感謝しております。 やし美というのは本名です、母がつけてくれた名前、生まれた時にラジオから流れていた、島崎藤村作詞の「椰子の実」にちなんで……大好きな名前です。ツイッター:草藍やし美、https://twitter.com/cocosouai 

性別 女性
将来の夢 いっぱい食べて飲んでも痩せているっての、いいだろうなあ〜〜
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でら名古屋のえぇ嫁

13/05/31 コンテスト(テーマ):第三十一回 時空モノガタリ文学賞【 名古屋 】 コメント:8件 草愛やし美 閲覧数:2156

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「ホテル安いとこ、ネットで見つけたよ。名古屋まで出てくる交通費高いやろ、滞在したほうが、安くつくし、ミルクちゃんの体も樂やで、そうせぇへんか。うちも見舞い行くね」
「ほんまか! 彩ちゃん言うんやったら間違いないそうするわ」
 姉は、通称ミルクちゃん、色白で、走ると顔が蒼白になるのでついたあだ名だ。戦後すぐの昭和に、標準の半分の重さしかない未熟児で生まれたため、体が弱く成長もいたってのんびりになった。姉は五十歳になってローマ字を覚えた。
「あんな、アパートの上の四生のアーちゃんな、学校でローマ字習ってる言うねん、教えて言うたら気よぅ教えてくれてん。ほんで、これ読める。えーと、AYAKO! あんたの名前、彩子や」
 姉は、毎朝スーパーにほぼ定時に行く。数少ない自分の持ちメニューの中から献立を考え、必要な物を、順番に揃えていく。だけど一つでもその品が揃わないとなると、今、籠に入れたばかりの品を棚に返しに行き、そこから、また違う献立を考え直し、入口から買い直して行く。そんな気の長いことを毎日している。パチ(パチンコの略)が三度の飯より好きで、ついには、故郷の京都を出て、パチの本場の名古屋に行きパチ屋に就職し、そのままそこで大工さんの、お嫁さんになった人だ。

 その姉の旦那さんが、病気で手術することになった。聞いたこともない病名に、私は、すぐにネットを開いた。厳しい病状とは予想していたが、検索画面の説明文に、大変なことになったと戸惑ってしまった。皮膚にできる癌──悪化して、足を切断した──同じ病気をした体験者のブログを読み、暗い気持ちになる。今、姉夫婦はどんな気持ちでいるのだろうか……。入院日が決まり、その日に合わせて名古屋のホテルをネットで予約してやり、ネットで主治医のことを調べ、電話で姉に伝える。
「皮膚癌専門で有名な先生やで、よかったな」
「そぅいうのん、カリスマ先生言うんやろ、どえりゃ安心したが」
 嫁いでから時々名古屋弁が混じるようになった姉は、そう言ってたいそう喜んでくれた。

 病院に着くと、姉が走ってきた。
「あんな、カリスマ先生のお蔭で、六時間もかかってハラハラやったけど手術うまいこといってん」
「よかったな、ターさんはどないしてはるの?」
「それがな、足を動かしたらあかんって、ほんで、起き上がられへんから、ご飯食べにくいねん。毎回、うちが食べさせてあげてるけど、ここの飯がまずい言うし困るわ」
「まずいってかあ、寝たままでは美味しないわな」
 病室に行くと、義兄は、少しやつれてはいたが、元気そうで、声もしっかりしている。姉にコソコソと耳打ちしている。何やら、お菓子を買って来いという話のようだ。転移の不安はあっても、手術が成功したので、安堵している様子が伝わってきて、ほっとした。
 
 お菓子を買ってくるなり、姉は、急に今日は早めに帰るのだと義兄に言い出した。姉は、さっさと用意してホテルに戻るやいなや、これから、パチ屋に行こうと言い出した。
「あんた、なんぼパチが好きやいうても、こんな時に……」
「今夜は特別や、あんたが来てくれたから」
 何だか、言い訳のように聞こえる。姉はパチあっての人、旦那さんが大変な時でも、遊びたかったかと考えやりきれない思いになった。ホテルへ戻る道すがら、私は、あちこちの通りの角ごとに大きなモニュメントが建っているのに驚いた。
「凄いなあ、そびえてるわ」
「名古屋の人はな、どえりゃ〜どでかいもんが好きなんや。でらなもんや。名古屋の人は、心もみぃんなでらあったかい。ターさん、入院する日、大工仲間のウーさんが車で送ってくれた。近所には病気のこと秘密やったけど、親しい人だけにこっそり言うたら、きっちゃてんいつも一緒に行ってるサチさんな、パジャマくれてん」
「デラな人ばっかりやねんな、ミルクちゃん、名古屋来てよかったね」
 私の顔をじっと見ていた姉が、急に泣き顔になった。
「みんなデラやのに、うちあかんわ。ほんまはな、うちな、ターちゃん治るまで、神さんに、お願いしたんや。パチ断つからターちゃんの病気治してって、そやのに、今夜してもうた、ううう、どないしょう」
「そうやったんかいな。うちがやりたい思うたんやな、大丈夫神さんもわかってくれはるって」
 パチしか知らない姉は、パチすることが、私を歓待する唯一の方法と思ったのだろう。
「うちな、阿呆やけど、気だけ強いんや、けど、ターちゃんすごぉ気弱い人やから、うち病気身代わりなったげたい思うたんや。けどそれ無理や。そんなん、阿呆でもわかる、うち、何もできん嫁や」
「そんなことないって、ミルクちゃんは、ターさんのいっちゃんでらな嫁や、誰が何と言おうとうちはそう思うよ」
 私は、モニュメントを眺めるふりをして空を見上げた。堪えていた涙が、毀れて幾筋も流れていった。


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このストーリーに関するコメント

13/05/31 草愛やし美

名古屋どえりゃ難しかった……。
画像は、今池の交差点にある、東海の大きなモニュメントです。これ以外にも名古屋には、多くの芸術的な大きな像が飾られています。

13/06/01 鮎風 遊

姉妹の強い絆を感じました。
名古屋を舞台に、良い話しでした。

ところで、デラって言うんですか?
名古屋はエローデラですな。

13/06/01 ハズキ

どえりゃぁでかい って名古屋弁で言うと、すごくでかく感じますよ。

パチンコで歓待するって、この姉さんは、気取らず、飾りっけのないいい姉さんだなぁって、微笑ましいですよ。

13/06/01 kotonoha

切ないけどいいご夫婦のいいお話でした。
ミルクさん、ターちゃん頑張れ!!

13/06/01 名無

このお姉さんの心根の優しさと、思うように自分をコントロールできないもどかしさ、葛藤が切なかったです。名古屋はそんな様々な思いを包んでくれる、デラな街なんだろうな、という印象を持ちました。

13/06/02 泡沫恋歌

草藍さん、拝読しました。

姉妹愛と夫婦愛が伝わる物語でした。
ターさんの手術が成功して、回復されて良かったですね。

これからもミルクさん頑張ってください。

13/06/02 そらの珊瑚

草藍さん、拝読しました。

お見舞い来てくれた妹のことを歓待するために、パチに誘ったんですね。
パチ断ちしていたのに…。
切ないけれど、心が優しい気持ちになりました。

デラって言葉、初めて聞きましたが、デラな嫁っていいですね!

13/06/05 草愛やし美

鮎風遊さん、コメントありがとうございます。
愛知の片田舎に住む姉のことを書きました。事実にフィクションも加えて書いています。大切な人が、病になった時、人はどういうことを思うのでしょうか? もし、私が同じ状況になったらどう思うだろうかなど考え複雑になりました。
デラは、どえりゃぁと同じような意味合いの「とても」という言葉を指しているようです。全国的に有名になった、「デラベッピン」は、デラックスのデラなので、名古屋弁と異なるという意見もあります。私自身、名古屋人でないので、検索しながら、この作品を書きました。今回の名古屋では、言葉の壁にぶつかって苦労しました。苦笑

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