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鮎風 遊さん

この世で最も面白い物語を見つけ出したい。 そのために、ひとり脳内で化学反応を起こし、投稿させてもらってます。 テーマに沿った個別物語の他に、いくつかのシリーズものをコツコツと書き続けさせてもらってます。 その主なシリーズものを紹介させてもらいます。  ☆❤☆❤☆ 新シリーズ 『ツイスミ不動産』 __ 2017.07.16よりスタートさせてもらいました。 カサリンとクワガタ野郎があなたが求める終の棲家を紹介いたします。  ☆❤☆❤☆ 『刑事 : 百目鬼 学(どうめき がく)』 __ 2017.05.21 ただ今、27話 __ 1話完結の2000文字推理小説です。この少ない文字数の中で、百目鬼刑事と部下の芹凛(せりりん)がいかに事件を解決していくか、その醍醐味を味わって頂ければ、光栄です。 これからも引き続き難しい事件に挑戦して参りますので、よろしくお願いします。  ☆❤☆❤☆ 『漢字一文字の旅』 __2017.04.04 ただ今、連載41__ 漢字にまつわるエッセイです。  ☆❤☆❤☆  『歴詩』 __歴史上の人物になりかわって、その波瀾万丈の生き様の思いを詩に綴らせてもらってます。 本作品については、フォト音(on)小説という形で、you tubeにもUPさせてもらってます。 詳細はこちらHPです。  ☆❤☆❤☆  http://ayukazeyuu.net/index.html  ☆❤☆❤☆                         よろしくお願いします。              

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減らないラーメン

13/05/31 コンテスト(テーマ):第三十二回 時空モノガタリ文学賞【 ラーメン 】 コメント:10件 鮎風 遊 閲覧数:2893

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 仕事の第一線から退いた高見沢一郎、今は妻の夏子と穏やかに、いやそれなりに波瀾万丈に暮らしている。
 そんなある日、長女の真奈美が可愛い孫娘、愛沙を連れて、還暦夫婦の陣中見舞いにと遊びに来てくれた。

「お父さん、お母さんに我がまま言ったらダメよ」
「おいおい、いきなり注意かよ、そんなの陣中見舞いにならないよ」
 ちょっと不愉快な昼前だったが、「グランパ、ラーメンが食べたいの、連れてって」と愛沙がすり寄ってきてくれた。やっぱり頼りにしてくれているのは孫だけだ。
「えっ、愛沙、ラーメンて? お寿司の方が良いのに」
 娘の真奈美から不満の声が飛んで来たが、「ヨッシャー、愛沙ちゃんが食べたいラーメンをご馳走しよう」と四人で近場の店へと出掛けた。

 それぞれに注文したラーメン、大人たちは食べ終えた。だが今、愛沙一人が目の前のラーメンと格闘している。
「愛沙、どうしたのよ、早く食べなさいよ」
 母の真奈美にこう急かされて、愛沙はほっぺをぷーと膨らませた。
「愛沙ちゃん、いいんだよ。お腹が一杯だったら、残しても」
 一郎は見兼ねて、孫に優しく声を掛けた。
「お父さん、そんな甘いこと言わないで。愛沙が食べたいと言ったのだから……。さあ、どっちにするの、食べるの、残すの?」
 母親にこう追い詰められた愛沙、目には涙が。そして一本の麺を箸で摘まみ上げ、訴えるのだ。
「ママ、これ……、ぜんぜん減らないの」
 こんな事態に陥ってしまった愛沙を眺めていて、一郎と夏子は思わずぷっと吹き出した。
 二人は思い出したのだ、娘の真奈美にも同じようなシーンがあったなあ、と。

 あれは随分と前のことだ。そうそう、真奈美がちょうど今の愛沙と同じような年頃のことだった。一郎は仕事の関係で、家族とともに南カリフォルニア、サンディエゴから約120マイル東に入ったエルセントロという小さな町に住んでいた。
 サンディエゴはアメリカ西海岸に位置し、海のある風景の中で、光がいつもキラキラと降り注ぐ美しい町。その港町から国道8号線で東に向かう。緑は徐々になくなり、ついには草木の生えぬ岩だらけの山となる。その地獄峠を越えると、眼前に荒涼たるデザットが広がる。
 その灼熱と広漠さの中に、エルセントロの町が忽然と現れる。同じ南カリフォルニアでありながら、サンディエゴとエルセントロはまるで天国と地獄。
 そんなエルセントロの町で暮らす一郎たち、二週間に一度、日本食を食べるのが楽しみでサンディエゴへと出掛けて行った。
 そんなある日、子供たちの要望でラーメン店へと入った。そしてそれぞれに一杯ずつ注文した。
 久々のラーメンだ、美味しい。一郎も夏子も、そして息子も夢中となって、一気に食べ終えた。
 しかし、真奈美だけがいつまで経っても終わらない。元々食べるのが遅い真奈美だった。
 それにしても……。
「真奈美ちゃん、次に日本スーパーに行くから、早く食べなさいよ」
 妻の夏子がそう急かすと、真奈美がふくれて反論した。
「お母さん、このラーメン、ぜんぜん減らないの」
 こんな母と娘のやり取りを聞いていた一郎、それを取りなすためにも、真奈美のラーメン鉢を覗く。するとどうだろうか、確かに店員が運んできた時と同じで、減っていない。いや、むしろ汁面が上昇しているではないか。つまり増えているのだ。
 この時、一郎はピンとくる。
「真奈美、それって……、麺がふやけて、膨らんでるんだよ」
 こんな解釈を聞いた夏子、目を丸くして言う。
「えっ、それって、食べる早さより、ふやけて行く方が速いってこと? 真奈美ちゃん、そうなの?」
 真奈美は母の夏子にそう問い詰められてもわけがわからない。それでも首を傾げながら「うん」とだけ答えた。

 子供の真奈美が格闘する[減らないラーメン]、それは単に日常の些細な出来事だった。だがそこには、外地暮らしの苦労を忘れさせてくれるほのぼのとしたものがあった。そして、家族みんなはお日様のように笑った。
 一郎にとって、また夏子にとっても、それは忘れられない思い出となっていたのだ。

 今、そんな[減らないラーメン]の、かっての真奈美のシーンが蘇り、二人の顔に柔らかい笑みが零れる。
 しかし、当の本人の真奈美、そんなことは忘れてしまっているのだろうか、娘の愛沙をまた急かそうと……。
「早く食べな……」
 一応、ここまでは発した。しかし、後は口ごもる。
 やっと真奈美は思い出したのだろうか、今度はいきなりぎゅっと愛沙を抱き締める。
「愛沙は私の娘だもんね。ラーメンが減らないのも……仕方ないわ」
 こう囁かれた愛沙、やっと笑顔となる。
 そして、そんな微笑みの前には、店員が運んで来た時のままの量、すなわちふやけ切ったラーメンの鉢が……。
 ただただ鎮座してるのだった。


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このストーリーに関するコメント

13/05/31 光石七

拝読しました。
なんとも微笑ましい^^
子供の困った顔と笑顔を想像すると、自然ににやけてしまいます。
幸せの1ページ、ほんわかするお話をありがとうございました。

13/05/31 泡沫恋歌

鮎風さん、拝読しました。

微笑ましいですね。
麺類は食べるのが遅いとどんどんのびて膨らんできます。
小さな子供は仕方ないです。

ほのぼのとして、美味しいラーメンを食べた気分です♪

13/05/31 草愛やし美

鮎風遊さん、拝読しました。
なるほど、子供って食べるのゆっくりですものね、減らないラーメンになってしまうんですね。まるで、SFのように。笑

微笑ましい思い出に、家族の方の笑顔が目に浮かびました。

13/06/01 鮎風 遊

光石七さん

読んで頂き、またコメントまで頂きありがとうございます。
ほんわかしてもらえば、光栄です。

13/06/01 鮎風 遊

泡沫恋歌さん

ありがとうございます。

子供はこういうものかなと。
場面により、ラーメンは格別に美味しいものになるのかも知れませんね。

13/06/01 鮎風 遊

草藍さん

ありがとうございます。

SFですわ。
決して減らないラーメン、実在します。

13/06/04 そらの珊瑚

鮎風さん、拝読しました。

家族で囲む「減らないラーメン」
これからもその言葉を思い出すたびに
幸せな気持ちになるでしょうね。

13/06/04 鹿児川 晴太朗

拝読いたしました。
「減らない」とはどういうことかと思いましたが、読んでみて納得、実に微笑ましい愉快な物語でした。
ラーメンを媒体として脈々と受け継がれていく血筋と、遠い異国の空気感が混然と融和して、情緒あふれる作品だと思いました。

13/06/15 鮎風 遊

そらの珊瑚さん

ありがとうございます。
減らないラーメン、
きっとこの家族の心に刻まれていることでしょう。

13/06/15 鮎風 遊

鹿児川 晴太朗さん

ありがとうございます。
繋がる縁まで深読みして頂き、光栄です。

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