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平塚ライジングバードさん

今生の私の実力では無理ですが、 来世かその次の来世においては、 物語で世界を変えたいと強く思っています! 制作者の皆さんが「こんな発想もあるのか…」と 目から鱗が落ちるような作品作りに努めます!!

性別 男性
将来の夢 将来の夢を堂々と語れるようになること
座右の銘 圧倒的物量は質を遥かに凌駕する

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Next Blue Phenomena

13/05/27 コンテスト(テーマ):第九回 【 自由投稿スペース 】 コメント:4件 平塚ライジングバード 閲覧数:1838

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ラムネのビンの中にあるビー玉がとてもきれいで、もっと近くで見たくなって、取りだそうとするけど、カチャカチャ振っても全くビー玉は取れなくて、むしろ、このきれいな物が傷つくんじゃないかと悲しくなり、思いきって物陰でビンを割って、その勢いでコロコロ転がるビー玉を拾い上げたけど、それはあまりきれいじゃなくて。ビンから透かしたあの球形は、あんなにも美しかったのにって溜め息をついた。

中身を飲み干したあと、ラムネの瓶を何気なく陽光に透かして見たあの宝石のような青の美しい色彩が、隣の芝の青さなんだって、その時私は思った。



「大きくなったらお父さんのお嫁さんになるんだ。」
その言葉を十年たった今でも信じている父は、私のことを娘として見ていない。一人の女性として見ている。「娘」と書いて「いいなずけ」と読もうとする父を初めは面白がっていたが、今となっては何も面白くない。意味不明だ。
意味不明…。その言葉を私は何度父にぶつけただろうか。その度に父は恥ずかしそうに、赤裸々な自分の思いを私に伝えてきたが、その行為自体がもはや意味不明だった。いつしかそのやり取り自体が非常に無意味であることを学び、「意味不明」・「ナンセンス」といった言葉が父と私の二人だけの家庭から消え去った。
代わりに登場したのが、かのフランスの革命家の辞書には存在しなかった「不可能」という言葉だった。ある時から、「女性の結婚は16歳から」ということを示す法律のコピーや私が15歳であることを証明する戸籍抄本の写しや「そもそも親子では結婚できない」ということを記したネット記事やらをさりげなく父親の枕元に置くことが日課になった。

「お父さんの夢を壊しちゃってかわいそう。」
と友人は言うが、その前にまず私の夢を大事にしてほしいと心から思う。
そうそう。一番解せないのは、父親には子持ちでも再婚してくれるという素晴らしい女性がいるというのに、全く決断に踏み切ろうとしないということだ。
「あの人は僕にとって妹みたいな存在なんだよ。」
という父の発言に、どこから突っ込んでよいものか悩ましいところだけれど、まず実の娘のことを一人の女性と見ようとする人の言葉ではないと思う。そして、40手前の人間の台詞だと思うとますます頭が痛くなってくる。

―いっそ家を出ようかな。

最終的な結論は決まってこれだ。行く当てもないし、根性もない私のことだから、きっとプチ家出で終わってしまうんだろうけれど、それでも自らの貞操を守るためにも、家族の秩序を守るためにも、16歳になる前にこの家を出なければならない気がする。
一度決断すると、周囲の人が引くぐらい突っ走る父のことだ。私の16歳の誕生日には、他人の戸籍を入手してでも、私との結婚を成立させにかかるだろう。携帯のアドレス帳に前もって登録しておいた相談センターを利用するのも手だが、そうなる前に私自身がいなくなることが親孝行な感じもする。定期的に安否を知らせればいいだろうし、その間にあの女性と幸せになってくれれば素晴らしいことだと思う。
そうだ。父親が、私と結婚するというよく分からない理由で、戸籍を変えて、どこの誰だか分からない人になってしまったら、絶対にいやだ。あんな人でも私の唯一の身内なんだから。

身内か。ふと考え込んでしまう。私が小さい頃に亡くなった母は気丈な人だったと聞いている。
それを語るエピソードが私の名前だ。
「さんご」。
3時5分に生まれたから私は「さんご」という名前になった。「珊瑚」から想像される青い海や南の島は関係ない。デジタル時計に無機質に表示された「0305」が私の名前のルーツだ。
でも、この時間には一つの伝説が残されている。思い出すだけで笑いがこみ上げてくるような、母親の屈折した愛情を物語るエピソード。
初めて聞いたときは、耳を疑った。意味不明だった。ワンワン泣いたのを良く覚えている。それが今では笑い話。時が経つにつれて、だんだん面白くなくなってきた父親の屈折した愛情とは正反対だ。
私が母親のお腹から出てきた正確な時間は、3時4分だった。出産を確認した医者と助産婦が母親から出ようとする私に触れようとしたその時、病室のデジタル時計の表示が目に入った母親は思わず叫んだ。
「三枝になっちゃう。今この子を産んだら名前が三枝になっちゃう!!」
もう本当に荒唐無稽だが、母親は全身全霊、必死で抵抗したらしく、出産は3時5分。めでたく私が誕生した。後で父から聞いた話によると、本来なら3時7分まで頑張って「みな」という名前にしようと考えていたが、さすがにドクターストップがかかったらしい。私としては、3時6分に生まれて「ミロ」という女神的な、健康飲料的な名前にならなかっただけ良かったと思う。

ふふっと笑った後、今の二人だけの家族の状況を思い浮かべ、はぁあーあと連続してため息をつく。同世代の間では、かなりため息をついている方ではないだろうか。
「これからどうしようか?」なんて考えると頭が痛くなってくる。
悪い流れの思考を停止させようと、努めて別のことを考えようとした。
そして、ふと、この前読んだ本のことを思い出した。

いつも一緒に過ごしていた幼馴染の少年が病に倒れ、命が一年もたないかもしれないということを医者に知らされ、少年の病気を治すことができる高度な文明を求め、一人の少女が宇宙人を探しに行くというストーリー。
とりあえず、物語が破綻するほどに、全く次の展開が読めない作品だったということは、良く覚えている。
そうそう、この人の来月出る新刊がまた傑作だ。
気が弱く、学校にあまりなじめなかった少年は、ひょんなことからクラスのマドンナのことが好きになり、その思いを成就するため、少しでも学校で注目される人間になろうと、秘密結社に所属して死海文書の解読に着手した…。
っていうあらすじなんだけど、もう本当に成長しないよね、この作者。
タイトルは、「ネクストブルーフェノメナ」。隣の芝が青く見える現象を英訳したんだって。
馬鹿だよね。ホント馬鹿。中学生でも分かるよ。「ネクストブルーフェノメナ」の本当の意味ぐらい…。



「いわゆるネクストブルーね。お父さんの症状。本来隣にあるべきだったもの、近くにあるべきだったもの。そういうものを失うことって本当につらいのよ。」
お父さんを好いてくれた女性は、臨床心理士だった。
運命の再会というか何というか。かつてお父さんの部下だった彼女は、できちゃった婚で寿退社し、離婚、シングルマザーとなり、大学時代の専攻を生かし、今の職についたのだそうだ。
「失ってしまったものを何によって埋めるかは人それぞれだけど、あなたのお父さんは同化を選んだようね。さんごちゃんのお母さんが亡くなって、そしてある時点から、あなたは彼にとって娘であると同時に妻になった。」
彼女は、初めて会った当時、中学校1年生だった私にもしっかり話をしてくれたし、いつでも相談に乗ってくれた。正直、彼女ならお父さんと再婚してもいいと思う。それに彼女の小学生の息子が弟になるならぜんぜん構わない。父親と二人きりだった家族が、その倍になるなんて夢みたいだ。
「さんごちゃん家みたいに少人数の家庭だと、閉鎖的になりがちで、ネクストブルーは急速に悪化し、もはやそこで培った感情が当たり前のもの、普通のものとなってしまう。それが、ネクストブルーフェノメナ。」
彼女は非常に献身的に父に尽くしてくれた。もう、何でっていうくらい。きっと過去に色々あったんだと思うけど、あまり詮索はしなかった。大事なのは未来であり、私と父と彼女といういびつな三角関係の解消にある。
「お父さんを治すためには2つ方法がある。1つは、彼に喪失を認識及び理解させること。そしてもう1つは、空白を補完すること。お父さんのことを思うと2つ目がいいんじゃないかな。今までさんごちゃんしかいなかったスペースを他の誰かで埋めるの。正直に言うとね。私、あなたたちと一緒に暮らしたいの。勝手な発言かもしれないけど、あなたの家の食卓をさんごちゃんとさんごちゃんのお父さん、そして私と私の息子で囲めたらどんなに幸せかって。そう思うの。」

そう言われたのが三日前。嬉しかったけれど、凄く不安だった。うちの家庭で実際に一緒に過ごしても、あの人は心変わりしないのだろうか。
そんなことを途方もなく悩んで、私が出した結論がこれ。
昨日すべて彼女にぶつけてきた。

「色々考えたんですが、私、中学を卒業したら家を出ようと思います。先日聞いた2つの解決策ですけれど、どちらも誰かが辛い思いをすることになります。一つ目のなら父が。二つ目のなら父以外が。」
それなら大丈夫、覚悟はできてるよ、と彼女は言った。
でも、違うんだ。確かに彼女は凄い苦労してきたし、色々な経験を積んできた。人間的にも非常にできた方だと思う。
でもね。
「まず、自分の家族を大事にしてください。私たちは大丈夫ですよ。10年ぐらいずっと二人で暮らしてきたんですから、もう慣れっこです。むしろ、こんな長い間続けてきたお父さんとの妙な関係にそろそろ私自身が決着をつけないと。だから、私たちのことより、お子さんのことを一番に考えてください。いきなりこんな環境に飛び込ませるなんてかわいそうですよ。私もお父さんも精一杯頑張りますから。私たちの家族の準備ができたら、その時は。その時は…」
―他人が羨むような家族を一緒に築きましょう。

いのしし年の父といのしし年の母の間に生まれた向こう見ずなねずみ年の私は、気づいたら涙が溢れていた。あの日、あの時、お母さんが「みよ」という名前を思いつき、何事もなく3時4分に出産していたら、もっと可愛らしいねずみ年の私になっていたかもしれない。でも、私は「さんご」だから。「みよ」じゃないから。

他人が羨むような家族…。
私が言った発言を呟きながら、彼女の顔がだんだんと優しくなっていくのが分かった。私が何でそんなことを言ったのかといえば、例の問題作を思い出したから。「『ネクストブルーフェノメナ』のタイトルは、隣の芝が青いを英訳した。」というインタビューの一節を思い出したからだ。
そして、ふと気付く。
彼女の優しい表情を見ていたら、私の涙がいつの間にか止まっていたということに。



友人からの電話が、部屋でぼーーっとしていた私を我に返した。
着信音が鳴った瞬間、驚いて、一瞬正座してしまった。「もしもし」の声も上ずっていた。正座で取った電話の内容は、いたって普通だった。
来週末の古典の試験範囲の話。5分で終わる内容だったけど、1時間以上通話した。友人に私の家族事情を話したからだ。大半は私が一方的にしゃべって、それに対してうんうん頷くだけだったけど、友人は最後にこう言った。
「さんごも大変だね。でも、ごめん。本音を言っちゃうと、刺激的で何か楽しそうだなって思っちゃった。少し羨ましいかも。」
私は答える。
「知ってる?そういうのネクストブルーフェノメナって言うんだよ。」

いつか、そう遠くないうちに、私は家を出るだろう。
秘密結社の指示の元、死海文書を片手に、宇宙人を求めて色々な場所を放浪するんだ。目的は、もちろん、他人が羨むような家族を築くために。
そうそう。友人から古典の試験の話を聞いて、思い出したことがある。「娘」と書いて「いいなずけ」って読むことはないけれど、「妹」には「妻」という意味があるらしい。妹にしか見えないあの人が、いつか別の意味での妹として受け止められるようになるといいなと心から思う。
少しずつ、少しずつだけれど、私の心の整理がつき始めていた。
私は、飛びはねるようにベッドから立ち上がって、居間の冷蔵庫からラムネを取り出した。付属のプラスティックの器具で勢いよくビー玉を落とすと、飲み口から大量の泡が吹き出した。急いで床を拭くものを探していると、窓の外に光るものがあった。
「嘘でしょ…」
思わず、こぼれていることも忘れてラムネを口に入れる。甘味と酸味と炭酸飲料独特の風味が口内を満たした。
「何なのあれ。」
私は、その日生まれて初めて未確認飛行物体を見た。
謎の光はすぐに消えたが、私は変わらず立ち尽くしたまま、窓の外を眺めていた。
ふと飲み干したラムネの瓶を窓越しに空にかざす。コロコロと転がるビー玉は、あたかも先ほどのUFOの軌跡をなぞっているようだった。
初めて「さんご」という名前の由来を父親に聞いた日、私は思わず家を飛び出し、駄菓子屋でラムネを買って今と同じように空を眺めていた。その時の私は、きれいな青の光を取り出すために瓶を割った。でも、飛び出した球形は、傷だらけで、濁ってて、とても美しいとは呼べない代物だった。

うちの家族が割れてしまったのはいつだったろうか。
あんなにきれいだった光が傷だらけになってしまったのはいつだったろうか。

あの日、私は隣の芝の青と決めつけ、その色彩から目を逸らしてしまった。
いつも隣にあったはずのものを喪失した気になり、むしろ自ら積極的に喪失させてしまった。
お父さんが私のことを娘として見ないのと同じぐらい、私はお父さんの目を見ていなかった。向き合おうとしていなかった。
だから、今度こそあの青を見つけなきゃいけないんだ。



「珊瑚を探しに行きます ̄∇ ̄ゞ」
そんな書き置きを残して、私は家出を決行した。
根性の無い私のことだからきっとプチ家出になるだろうし、何より来週末の古典の試験までに帰って来ないとまずい。
でも、それでいいのだ。これは一種の練習。
いつの日かあの美しい青を取り戻すために、他人が羨むような家族を築くために少しでも前へ進む。私にもう迷いはなかった。
「確かあっちの方だったような…」
なんて呟きながら、私は未確認飛行物体を見た南の方角へとひたすらに駆け抜けて行った。


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このストーリーに関するコメント

13/05/28 泡沫恋歌

平塚ライジングバード 様

拝読しました。

Next Blue Phenomena という言葉を初めて知りました。
何だか、カッコイイですね。
ちょっと、特異な親子関係のお話でどういう風に受け止めたら良いのか・・・
自分くらいの年齢のオバサンには難しかったです。

ラムネのビー玉のくだりは詩的で美しく、散文詩的な様相でしたね。
文体はとてもしっかりと書かれているので、かなりの実力者だと推測しております。

若い人の感性に触れて、勉強になりました。
ありがとうございますO┓ペコリ

13/05/28 平塚ライジングバード

泡沫恋歌さん、いつもコメントありがとうございます。

まず、すみません。ネクストブルーフェノメナは造語です。
僕の作品の設定は8割以上がフィクションですので、あくまで創作として読んでやってください(>_<)

話の内容は、ギャグと真面目の中間の微妙な線を狙って若干迷走した感じですね。
それにしても、文章力を誉められることは、今まで全くなかったので、恐縮すると同時に本当に嬉しいです。

あまり若くもないし、実力者でもないですが、泡沫さんの完成度の高い物語レベルに到達できるよう、これからも頑張ります☆
ありがとうございました♪

13/06/02 そらの珊瑚

平塚ライジングバードさん、拝読しました。

冒頭に引き込まれました。そしてそれがモノガタリの中でどう回収されていくのだろう、と期待に胸ふくらませていたら、
さんご! でびっくりです。(たまさか私の名前が出てくるとは)
すっかりさんごちゃんの見方になってしまいました。
いい子ですね!
そういえば、「フェノミナン」という米映画がありましたね。

13/06/04 平塚ライジングバード

そらの珊瑚さま
コメントありがとうございます♪

実験的に書いた作品ですので、一貫性がなかったかもしれません( ̄▽ ̄;)
意欲作ということでご容赦ください。
自分は学生時代から英語が不気味なぐらいできなくて、ネクストブルーフェノメナはテストの誤解答の一つです。教師から映画のタイトルかっ!!と突っ込まれたのをよく覚えています。
そらの珊瑚さんが、そらの三枝さんでなくてよかったです(笑)☆

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