1. トップページ
  2. チャイニーズ・ヌードル

ポテトチップスさん

20代の頃、小説家を目指していました。 ですが実力がないと自覚し、小説家の夢を諦めました。ですが久方ぶりに、時空モノガタリ文学賞に参加させて頂きます。 ブログで小説プロットを公開してます。ブログ掲載中のプロットを、小説練習用の題材にご自由にご利用下さい。http://www.potetoykk.com

性別 男性
将来の夢 小説プロット提供家
座右の銘

投稿済みの作品

0

チャイニーズ・ヌードル

13/05/21 コンテスト(テーマ):第三十二回 時空モノガタリ文学賞【 ラーメン 】 コメント:1件 ポテトチップス 閲覧数:1613

この作品を評価する

「はい、どーも! チャイニーズ・ヌードルです。皆さん、僕たちのこと知らないと思いますので、簡単に自己紹介すると、僕がツッコミ担当の板橋で、僕の隣にいるこの金髪の彼がボケ担当の和山と言います。僕たちは高校時代の同級生なんです。おい、オマエもなんか言えよ!」
「客少ないな」
「それ言っちゃ駄目だろ。ごめんなさいね、お客さん。和山君はいつもこんな調子なんです」
15分間の漫才が終わり内幕にさがると、板橋は和山の襟を掴みあげて壁に体を打ちつけた。
 「おい、和山! オマエやる気あんのかよ!何だよあのやる気の無さ」
 「ああ、わりぃ」そう言って、板橋の手を振りほどいて楽屋に向かった。
 怒りのおさまらない板橋は、拳を壁に打ち付けた。その様子を離れた位置から黙って見ていた同期で女ピン芸人のヒメ薫が
 「板橋、どうしたの?」
 「なんでもねえよ」
 「お客さん結構笑ってたけど、和山と何かあったの?」
 「なんでもねえって言ってるだろ。薫はお節介焼きなんだよ」
 「ごめん……」
 この日、バイト先のファミリーレストランの店長に残業を頼まれ、仕事が終わったのは深夜1時を過ぎた時間だった。
 自転車の鍵を開け乗ろうとした時、携帯電話が鳴った。相手は事務所の社長からだった。
 「どうもすみません。今後はこのようなことがないように和山に注意しときますので。本当に申し訳ございません」
 電話を切ると、駐車場に誰かが捨て置いた缶コーヒーの缶を思いっきり蹴り飛ばした。その缶は夜の静寂さに反抗するように、いつまでも転がりながら存在感を表していた。
 板橋は自転車のペダルを強く漕ぎながら、新宿で営業している深夜のタクシー洗車場に目を吊り上げながら向かった。
 新宿通りに洗車待ちのタクシーが数台、ハザードランプを点滅させ停まっていた。その先の照明が照りつける一角で、複数の若い男達がタクシーを洗車していた。その中に和山の姿もあった。
 「おい、和山! ちょっとオマエに話がある」
 「いま、仕事中だよ」
 「何時に仕事が終わるんだよ?」
 腕時計を確認し「あと40分で上がれる」
 板橋は道路の向こう側に建つマクドナルドを顎で指し、「終わったら、来いよ。待ってるからな」と言った。
 100円で注文したカップコーヒーを飲みながら、2階の窓からタクシー洗車場を虚ろな面持ちで窺った。

 「なあ板橋、お笑い芸人を目指さないか?」
 「お笑い芸人?」
 「うん。吉本興業が主催するスクールがあるんだよ」
 「でも俺、来年の3月から製鉄工場での就職決まってるし、和山だってガス会社へ就職決まってるだろ」
 「でもさ、考えてみろよ。高校を卒業して製鉄会社に就職して、楽しい毎日が待っていると思うか? 俺は学校の斡旋でガス会社の内定もらったけど、今は疑問に感じているんだ。本当にこれでいいのかってね。なあ板橋、頼む俺と吉本興業の養成スクールに入ってコンビを組もう。そして売れっ子お笑い芸人を目指そうぜ!」
 「確かに楽しそうだな。よし、和山の夢に付き合うよ。どうせやるなら日本一のお笑い芸人を目指そう」
 「ありがとう板橋。実は俺、もうコンビ名を決めているんだ。俺たちのコンビ名はチャイニーズ・ヌードルだ」
 「なんだよチャイニーズ・ヌードルって?」
 「日本語でラーメンのことだよ」
 肩を叩かれて目が覚めた。後ろを振り返ると疲れた表情の和山が立っていた。どうやらウトウトしながら高校時代の記憶に浸っていたらしい。
 「何だよ話って? バイト上がりで疲れてるから早くしてくれよ」
 「2時間前に、事務所の社長から電話があった。オマエ、事務所に黙って勝手に仕事キャンセルしたらしいな」
 「ああ、そのことか。黙っててごめん」
 「どう言うつもりだよ。なに勝手なことしてるんだよ」
 「ごめん……」
 「何がごめんだよ。反省してるのか?」
 「ごめん……。もう俺と解散してくれ……」
 静かな店内に、4人の若い男女が笑い声を響かせながら入って来て、すぐ近くのテーブル席に腰掛けた。
 「はっ? 本気で言ってるのか。 何で解散なんだよ。オマエがこの世界に誘ってくれたんじゃないかよ」
 「ごめん……」
 「ごめんじゃ理由になってないだろ!」。荒げた声に反応して、若い4人組の男女がこちらに視線を向けてきたのを感じたが、気にせず再度声を荒げて理由を問いただした。
 「子供が……、子供が出来たんだよ」
 「……」
 「来月、彼女と籍を入れることを急きょ決めたんだ。子供も生まれるし、売れない貧乏芸人をいつまでもやってられないんだよ。バイト先の店長が社員で雇ってくれるって言ってくれてるんだ」
 板橋はマクドナルドの2階の窓から、遠ざかる和山の後ろ姿をずっと見つめていた。
 今宵の夜空に浮かぶ星が、チクチク目に刺さった。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン