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鮎風 遊さん

この世で最も面白い物語を見つけ出したい。 そう思って書いて来ましたが、老いは進んでいます。 されど諦めず、ひとり脳内で化学反応を起こし、投稿させてもらってます。 されど作品は、申し訳ございません、次のシリーズものに偏ってしまってます。 ツイスミ不動産。。。 刑事 : 百目鬼 学(どうめき がく)。。。 未確認生物。。。 ここからの脱出を試みますが、なかなか発想が飛ばせなくて。。。老いるということはこういうことなんだと思う今日この頃です。 が、どうかよろしくでござりまする。
性別 | 男性 |
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将来の夢 | この世で最も面白い物語を見つけ出したい。 |
座右の銘 | Do what you enjoy, enjoy what you do. |
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このストーリーに関するコメント
13/05/19 光石七
拝読しました。
着眼点がいいですね。名古屋は確かに中間地点です。
名古屋駅を行きかう人の群れを思い出しました。
13/05/19 クナリ
名古屋という土地自体の特性というよりも、精神的・位置的な特徴に着目されたのですね。
面白かったです。
13/05/19 泡沫恋歌
鮎風さん、拝読しました。
名古屋は関西と関東の丁度地中間点だから、ふたつの文化が混ざり合い、
また、男女の出会いと別れの場所でもありますね。
そういう名古屋駅を着眼点にされたのは面白かったです。
13/05/19 笹峰霧子
名古屋は自分にとって全く知らない駅なので、私は作品が書けませんでした。たしかに関東と関西の中間点ですね。
ここを境にして繰り広げられる男女のありようを見事にとらえた物語でした。Part2のご夫婦のような立場に居たいなあと思いました。
13/05/19 草愛やし美
鮎風遊さん、拝読しました。
名古屋は、確かに東西関係からいって、中間地点。そこには、男女の交差点がありますね。中間地点なのに、名古屋は、東西が混ざらない独特の主義主張を持っています。ということは、名古屋は、どっちの味方もしないということになります、かもね。織田信長が目を付けたのは、尾張名古屋の地。その尾張は、終わりに通じるものかもしれません。その地に、拠点をおけば、東(とう)も、西(ざい)も、そこで終わる……と考えた。なんてことまで、考えてしまった私です。面白かったです。
13/05/20 そらの珊瑚
鮎風さん、拝読しました。
私にとって名古屋というと通過地点というイメージなのですが
なるほど東西の中間地点というか、境なのですね。
きっとそこで今日もいろいろなドラマがありそうです。
13/05/28 鮎風 遊
光石七さん
ありがとうございます。
名古屋、そこには不思議な人の交錯があるような感です。
13/05/28 鮎風 遊
クナリさん
読んで頂き、ありがとうございます。
名古屋はこんなイメージでした。
13/05/28 鮎風 遊
泡沫恋歌さん
ありがとうございます。
確実に男女の出逢いと別れのドラマがある地かなと思ってます。
13/05/28 鮎風 遊
笹峰霧子さん
ありがとうございます。
普段は通り過ぎるだけですが、
よく見れば、Part2のような夫婦がプラットホームに一杯いるような感じがします。
13/05/28 鮎風 遊
草藍さん
確かに名古屋は東西のとは違う文化や風土があるような……。
国盗りには地勢上最適かもですね。
13/05/28 鮎風 遊
そらの珊瑚さん
新幹線での通過地。
だけどいろいろな人間ドラマが、そこを起点にして始まっているような感ですね。
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日曜日の午後六時、名古屋駅の新幹線プラットホームは人たちで溢れている。そんな中に、目に涙を浮かべた一人の女性が……。
年の頃は三〇歳前だろうか、若くて張りのある肌に、初夏をイメージさせるマーメイドブルーのワンピースを着こなしている。その洗練されたたたずまいに柔らかくカールされた髪が纏わり、いかにも都会的なセンスが窺(うかが)われる。
そんな女がおもむろに向かいのホームに目をやり、その焦点を右から左へと移していく。そして探し出したのか、腰の辺りで小さく手を振った。
その対象は背が高く、精悍そうな男だ。きっと恋人なのだろう。
いや正確に言えば、ほんの三〇分ほど前までは、だ。
この二人は一年前に知り合った。そして熱い恋に落ち、情を交わす仲ともなった。
その決着にと、京都で生涯暮らして行くつもりの男は、東京との中間地点の名古屋で女と落ち合い、「君を娶りたい、ぜひ京都にお嫁に来て欲しい」とプロポーズした。
東男に京女、それは古い時代から吉兆な組み合わせとされてきた。だが、その反対の京男に東女、これはいささか縁が薄い。果たして女からどんな返事が返ってきたのだろうか?
「大輔さん、私、京都に遊びに行けるのだけど……、嫁ぐとなればね、ごめんなさい、やっぱり越えられないのよ」
断られることもあるかと覚悟をしていた大輔、しかしもう一つ言葉の意味がわからない。
「麗莉(れいり)、その越えらないって……、何が越えられへんねん?」
焦りか、最後は関西弁の問い詰めになってしまった。それに女は淡いピンク色のハンカチで涙をぬぐい、ぽつりと一言呟く。
「箱根の山が」
これは理屈ではない。この現代にあっても、東京の女が文化の異なる関西に嫁ぎ行くことは困難なこと。要は箱根の山が越えられないのだ。
それでも一大決心し、たとえ越えたとしても、次のバーチャルな障壁、関ヶ原がある。そこが突破できない。
とどのつまりが、京男と東女は結ばれない宿命を背負っているとも言える。
こんな運命に支配されてしまった大輔と麗莉、後は不幸な結末しかない。しかし、その割には別れはそう悲劇的なものではない。
大輔はその宿命に逆らうこともなく、「しゃーないなあ」と一言漏らし、麗莉に最後の手を振って、西への新幹線に乗り込んだ。
麗莉の方ももう涙はない。この一年の愛の遍歴を名古屋にすべて置き去りにして、18時03分発の東京行き、のぞみ244号のドアに駆け寄った。後はツンと澄まして乗車する。
名古屋という地には、いつもこんな男と女の生々しい物語がある。もちろんこれだけではない。
夜はいつも通りに明け、月曜日の朝を迎える。
朝八時、名古屋駅新幹線ホームは黒っぽいスーツで身を固めたサラリーマンたちでごった返している。そんな中に、五十路を越えた、人生も佳境であろう一人の女性がのぞみを待っている。そして目を走らせる向かいのホームに男がいる。それは紛れもなく夫だ。
ビジネス戦線への出陣なのか、ピリリと身が引き締まっている。だが、その勇姿とは不釣り合いだが、キャリーバッグの上に紙袋が置かれてある。
夕べ、駅前のホテルで妻から渡された肉じゃがなどが詰まったタッパーが入っている。
妻の由美子は京女、そして夫・貴志は東京生まれ。今年銀婚式を迎えるこの夫婦、典型的な東男に京女だ。
貴志は今大阪に単身赴任中。役職にも就き、まことに忙しい。そのためそうそう家族が暮らす東京へとは帰れない。一方由美子は子育て真っ最中であり、猫の手も借りたい。
こんな二人が時々、東京と大阪の中間点である名古屋で会う。仕事や日々の暮らしの煩わしさを忘れ、二人だけの時を過ごす。そして月曜日の朝、西と東にそれぞれが帰って行く。
「あなた身体に気を付けてね」
由美子が貴志に向かって口をパクパクと動かした。当然貴志はそれが読み取れる。「ああ、そっちもね」と声を発せず答えた。
そして由美子は「じゃあーね」と小さく手を振り、後は無表情で、8時03分発ののぞみ106号に乗って行った。
たったそれだけのことだ。
しかれども、名古屋駅の新幹線プラットホーム、そこは男と女の交差点。
語り尽くせない愛のジャーニーの途中に、男と女はのぞみに乗ってやってきて、それぞれの思いを抱いて、再び東西へと去って行く。
そして今日もまた……。
真っ赤なマニキュアの、いかにも派手な女が向かいのホームの男を憎しみの目で見つめている。それから拳を握り締め、西へと旅立って行った。
一体何があったのだろうか?
いやはや……。
いずれにしても、名古屋駅の新幹線プラットホームは男と女の交差点。
そこから先は、そのまま同じ道を進むか?
それとも右折するか?
いろいろな選択があることに間違いはないのだ。