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リアルコバさん

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紅の花柄

12/04/25 コンテスト(テーマ):第四回 時空モノガタリ文学賞【 傘 】 コメント:0件 リアルコバ 閲覧数:2592

時空モノガタリからの選評

最終選考

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 いつもの何気ない通勤経路である。判を押したような時間と線で引かれた如き順路、ただ違うのは毎日の感情の起伏であった。
 駅の階段を上りコンコースを望む頃、上からの視線にふと眼を合わせた。 自分より確実に若いと云う事とスーツの着こなしが崩れた私と同類と思しき男の視線が私の眼をえぐった。どうしてかは解らないがごく希に外せなくなる視線と出会う。それが女なら期待を込めた本能がウズくのだが、こと男であると始末の悪い本能が持ち上がる。
 
 案の定我々は振り向いてもなお外せない視線に縛られてしまった。(無視しよう)向き直りコンコースを歩くとやはり足音は追ってきた。
「おいこら」振り返るとギラついた眼がつかつかと肩を怒らせ近付いてくる。「なんか文句あんのかえっ」彼の視線が私の体を下から上へと舐めて据えられた。(やめとけ) 正常な右脳は本能の海馬を抑制するが「なんか言えよこら・・」《ゴンッ》一瞬にして本能が勝った。彼の声が「グギャっ」と歪んだ響きを出して目線から身体が消え、俺は額の痛みと後悔と云う心の痛みに苛まれた。「キャー」映画のように辺りが騒がしくなる。

 (あぁまたやっちまった)これ以上関わりたくないから俺は歩き出したのだが、朝の混雑を警戒していた警備員が帽子を押さえて走ってくる。(俺を無視してくれれば良いのだが)そんなことは都合のよい幻想で、直ぐに腕を捕まれた。「ちょっと来てください」振り向くと鼻血をしたたかに流した男が涙眼に怯えを浮かべ、それでも執拗に俺を睨んでいる。俺は溜め息をついて心の貝を閉じた。

 鉄道警察の事務室の奥は無機質な窓の無い空間で、そこで加害者として事情聴取を受けるのだが話す程の事情などなく、ただ降りかかる火の粉を払っただけなのだ。それは言い訳にもならず何の理解も得られないであろう。今頃別室ではさも被害者面して、いきなり頭突きを喰らったと喚きまくる男の顔が眼に浮かぶ。(うんざりだ)自宅と会社に連絡を入れてもらい、今夜は拘留されることを覚悟して黙りを決め込んだ。 あの時もそうだった。

「痛てぇ何すんだこら」雨を避けてバス停の軒下に走り込んだ時、目の前を歩く女性の傘の端が後から追い越す男の顔に当たったらしい。「すいません大丈夫ですか」花柄の傘に負けない、可憐で清楚な女の顔はみるみる蒼ざめた。
「くぅら、どうしてくれるんだ あ〜眼を掠めたぞ 失明でもしたらお前のせいだ。」鬼の形相で捲し立てる男の悪意は明らかだった。
 鉛色の空から降り続く雨が、白地に紅の花柄の傘を叩いていた。「病院いくぞ、それとも警察か 今払うなら慰謝料10万で・・・」「おい、いい加減にしろよ」何の因果か全てを目撃した俺は黙ってはいられなかった。「なんだてめぇ関係ねぇだろ それともてめぇが・・・」品定めをするが如く奴の視線が俺の足元から舐め上がった。「お節介は怪我の元だぜ」薄笑いの悪意が俺の顔の前につき出された時、「ガゴン」奴の眉間に頭突きを喰らわせた。悲鳴を上げて固まる花柄の傘と、遠巻きに避けそれでも一瞥していくビニール傘と、雨ガッパをきた警察官が一度に視界を埋めた。雨が真っ直ぐ落ちていたあの時。

(これからが面倒なんだよな)ポツポツと掻い摘んだ俺の声が適当に調書に纏められ、ありもしない犯罪の絵が描かれ、俺はまた反論にもならない言葉を繰り返す。別の警官がやって来て担当に何か耳打ちして出て行った。「被害届は出さないとさ」「は?」「まぁ被害無しじゃしょうがねぇな帰っていいですよ」
 半日と云う時間で済んだのは何より有りがたい。会社に電話して事情を詫び今日の休みを貰った。いつの間にか外には雨が落ちていた。

「お馬鹿さん」声に振り向くと、白地に紅い花の咲く傘がくるりと回った。「またやっちゃったのね」可憐で清楚な白い微笑みは一瞬にして俺を暖めてくれる。「あぁすまんな」 差し出された傘を受けとり二人は花柄に収まり街中へと歩き出す。
「休みになったから飯でも食べて映画でも行くか」「いいわねぇ何観ようか」
二人の傘を持つ手に腕を絡め身体を寄せるのは妻である。「お馬鹿さんで居てね」
 
 俺は雨の日が嫌いでは無い。


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