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草愛やし美さん

時空文学コンテスト開催100回、おめでとうございます。思えば、初めて私が、こちらに投稿したのは2012年5月のこと、もう4年近く経ったのですね。時空モノガタリさまが、創作の場を与えてくださったお陰で楽しい時間を過ごすことができました。感謝の気持ちでいっぱいです。 また、拙い私の作品を読んでくださった方々に感謝しております。 やし美というのは本名です、母がつけてくれた名前、生まれた時にラジオから流れていた、島崎藤村作詞の「椰子の実」にちなんで……大好きな名前です。ツイッター:草藍やし美、https://twitter.com/cocosouai 

性別 女性
将来の夢 いっぱい食べて飲んでも痩せているっての、いいだろうなあ〜〜
座右の銘 今を生きる  

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籤に当たった新人

13/05/15 コンテスト(テーマ):第三十回 時空モノガタリ文学賞【新人】 コメント:13件 草愛やし美 閲覧数:2362

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 毎日、妻は泣きあかしていた。一月前に夫が、死んでしまったのだ。朝になっても起きてこない夫を起こしに行った妻は、変わり果てた夫と遭遇した。急いで救急車を呼んだが、夫はすでにこと切れていた。通夜も葬式も、妻にとっては、嘘のように思え、泣き暮らす妻の姿は憐れだった。それでも、時間だけは、過ぎていった。ある晩、痩せ細った妻が、夫の遺影を見て泣いていると声がした。
「泣かないでくれよ」
「その声は! あなた」
「すまない、一人お前を残して死んでしまって……」
「あなた逢いたかった、戻ってきてくれたのね、嬉しい」
「そうじゃないんだ、聞いてくれよ、俺は、あの日、黄泉の路を歩き、閻魔に会った。丁度、抽選会をしていてさ、俺だって地獄や閻魔の知識くらいあるから、おかしいなとは思ったんだ。だけど、行ったことのない世界、あの世でもこういうのあるのかなって、単純にガラポンを回したんだ。そしたら、大当たりが出てしまって」
「大当たり?!」
「そうなんだ、俺は、お前のもとに帰れるんだと思って喜んだんだ。ところが、これが、ちっともめでたくない当りだったんだ」
「めでたくないって……」
「死神になれるって当りだったんだ」
「えっ! 死神……」
「死にたいように誘って死人をあの世へ送るのが仕事なんだ。何百年かに一度、お役目御免になる神が出るそうなんだ。神様の仕事は重労働だから、どうしてもやめたいって神がいるそうなんだが、その代わりを務める新人を抽選で決めているとかで、それが、丁度俺の死んだ日だった。俺は、閻魔から、死神就任おめでとうと言われただけで、何も教えられず、突然、死人を連れて来いと命じられた。嫌だ、できない、人の命を奪うなんて、とても俺にはできそうもない」
「あなたは、虫も殺せない人なのに」
「無茶苦茶だろ、何で俺なんだ。生きている時には、たわし一個だって当たったことがない俺が、よりにもよって」
「酷い、当りじゃないわ」
「けど、当りなんだ。地獄に行くことは免除され、死神といえども仕事として一応給金も出るというんだ。生前、お前にはずっと貧乏暮らしで苦労ばかりさせてしまったから、俺、引き受けたんだ。せめて死んでからでも、お前に樂をさせてやれるならって、だけど、いざ、仕事についたが、どうしても死ねって誘えないんだ。どうしたらいいんだろう、明日までに死人を連れて行かないと、無間地獄に落とされてしまうんだ」
「私のために、あなた……」
 憔悴しきった夫を見つめて何もできない妻は、悲しそうな顔をしていたが、突然、顔をあげた。
「あなた、私を連れていって下さいな、私を死者にして、死神としての初仕事してください」
「何だって! お前を死なせろというのか、そんなこと俺にはできない。第一、お前が死んでしまったら、俺は、何のために死神になったかわからないじゃないか」
「でも、無間地獄なんかに、あなたを行かせたくないの、だから、私を連れて行って、お願い」
「お前、それだけは、俺にはできないよ」
 抱き合って泣く夫婦の声が、狭いアパートの部屋に響いている。その泣き声とは、別の泣き声が聞こえた。
「ウワーン、泣けるよ、あんたと代ってわしが、死神やってやるよ」
 壁の中から、みすぼらしいボロボロの薄着物を纏った男が泣きながら現れた。
「何者だ?」
「わしは、貧乏神だ。あんたの家に住んでもう彼是二十年になる。そうじゃよ、あんたらが、結婚した時から、この家に住んでたんだ。貧乏神なら、家に住むだけの仕事、あんたにだってできる。家は、貧乏になるけど、命まで取ることはない。実は、わしも、二十年前、地獄で当りを引いたんだ、わしは、貧乏神の当りだった。地獄に行かなくてすむから引き受けたが、新人だというのに、何の教えもなく、突然、この世に降ろされて貧乏神やれって命じられた。思い出したら、腹が立ってきたよ、新人には研修くらいやれっていうんだ。神様の仕事なんて、一般人にわかるわけないよなあ」
「代って貰えるのはありがたいが、死神だ、あんたに、悪い、できないことだ」
「貧乏神さん、安心して下さい。私が、死ねば何とかなりますから。あなたにご迷惑おかけできないです」
「なんて、いい人たちなんだ、それなのに、わしはお前さんたちを貧乏にしてすまなかった。あんたまで死ぬことない。わしと旦那さんが、代れば済むことなんだ、そうさせてくれ。それに、わしは、生前、葬儀社に勤めていたので、死人には慣れているんだ」
 貧乏神は、衣装を交換して、夫と仕事を交代した。
「閻魔には、わしから、断りいれておくから、安心しろ」
 死神になった貧乏神は、夫婦に見送られ外に出た。
「さて、久しぶりに勤務していた葬儀社に出向くとするか。昔取った杵柄、頑張るぞ」
 新人の死神は、大きな鎌を脇に抱えるとヒョロヒョロと彼方へと飛んでいった。


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このストーリーに関するコメント

13/05/15 草愛やし美

お断り:画像は、沖永良部島の浜辺で偶然見つけた珊瑚のアートで、私が撮ったものです。

この作品は、草藍が創作しました、フィクションです。死神は、仏教にある日本様式のものでなく、大きな鎌を持った西洋式の死神を設定しています。

無間地獄 意味:大悪を犯した者が、死後絶えることのない極限の苦しみを受ける地獄。仏教でいわれている八大地獄の八番目にある。八大地獄とは、仏教で説かれている最も有名な八つの地獄のこと。等活(とうかつ)・黒縄(こくじょう)・衆合(しゅごう)・叫喚(きょうかん)・大叫喚・焦熱・大焦熱・無間の八つをいう。

13/05/16 泡沫恋歌

草藍さん、拝読しました。

いやいや、死神が当たっても全然嬉しくないですよね。
まだ、貧乏神の方がマシだと思うけなあー。
貧乏神になっても愛する妻といつも一緒に暮らせて、この男は良かったです。

いつも、草藍さんの頓知に富んだストーリーを面白く読ませて頂いています。

13/05/16 そらの珊瑚

草藍さん、拝読しました。

神様がくじで当たっているとは! なんとも面白い発送で楽しめました。
引き続き貧乏でも、また夫婦そろって暮らせる結末で、ハッピーエンドですね!

13/05/17 草愛やし美

泡沫恋歌さん、いつもコメントをありがとうございます。
死神がどういう経緯でなるのか、知らないので、フィクションで書いてみました。
貧乏神も、歓迎されないものですが、この夫婦に限っては、喜びに繋がるというのも、いいかな、「病める時も、貧しき時も、共に力を合わせて」という牧師の言葉から思いつきました。でも、このご夫婦、結婚して二十年ですから、愛情的には、理想のご夫婦でしょうね。笑

13/05/17 草愛やし美

そらの珊瑚さん、お読みくださってコメントをありがとうございます。
神様が、籤で当たるとして、どんな神様になっても、人間だった者には、仕事は結構、辛いものかもしれませんね。人を裁いたり、判断したり、神でなければできないことを、するわけですから。
そうそう、貧乏は生涯ついてまわるけど、一応ハッピーエンドなんです。字数制限で、それ以降のことが書けなかったんですが、わかっていただけて嬉しいです。

13/05/19 鮎風 遊

確かにそうかもね。
神さんにも新人、いや新神がいることを。

福の神に当たりたいっス。

13/05/20 草愛やし美

鮎風遊さん、お立ち寄りくださってコメントをありがとうございます。

私も、福のほうを、希望しますが、福の神さまは、居心地が良すぎて、なかなかやめる神様がいないかもですね。笑

13/05/23 鹿児川 晴太朗

拝読いたしました。
結婚当初から貧乏神につきまとわれ、妻は夫に先立たれて、夫はその先で死神の職務を強要され、思えばずいぶんと不幸が連なってしまったように思われますね。けれどそんな中でも捻くれなかったおかげで、その人柄を買われて良い結果に繋がることができたのだから、どんな境遇であれ真っ直ぐ生きることは大切である、ということがこの物語から垣間見ることができました。
、それはそうとこの夫には是非とも閻魔にまで昇格して頂いて、この地獄の適当すぎる制度を変えて欲しいものです。笑

13/05/25 ohmysky

なるほど!こういう展開ですか。おもしろい!
展開を良く練られましたね。天晴れです。
劇の脚本になりそうです。

13/06/21 草愛やし美

鹿児川 晴太朗さん、立ち寄りくださってコメントをありがとうございます。
地獄極楽の話を聞いて育った世代ですので、こういう話を思い付きました。神様の仕事は大変だと思っています。なにしろ、あかの他人の願い事をきいてあげなければならないんですから。考えれば、神社の神様は、見返りもなく奉仕の仕事をなさっているということになりますね。ボランティア精神は、こちらから学ぶのが良いかもしれません。なんて、阿呆なこと考えてしまいました。苦笑

13/06/21 草愛やし美

ohmyskyさん、来て下さってありがとうございます。コメントとても嬉しいです。
落語のようなオチのある話をと考えて書きました。創作をするものにとって、最高の言葉で、褒めていただき感謝しています。ありがとうございました。笑顔

13/08/01 kotonoha

拝読しました。
籤だと言えば富くじのことと誰でも思いますね。

それが大変なことになりましたね。
結婚当初から住みついていた貧乏神は最後にいい仕事をしましたね。

13/09/15 yumesamurai

貧乏神を嘆かせて反省させて、死神に「変神」させることが出来た夫婦がすごい‼ 奇想天外な物語です。とっても面白い作品ですね‼

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