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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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ウーバの手 連載第2回

13/05/13 コンテスト(テーマ):第八回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1789

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眼前には、みるも猛々しい植物が、二人の行く手をさえぎっていた。鋭い刺におおわれた葉や、毒々しい樹液をしたたらせる枝、肉食獣の口のような肉厚の花々。
 どれひとつにふれても、無事ではすまされないような植物群のなかを、ミドウは平気で突き進んでゆく。
 いくらもしないうちに、ミドウは手をひろげてカイトをたちどまらせた。
「動くんじゃない。そのままじっとしていろ」
 厳しい彼の調子に、カイトはその場に棒立ちになった。
 茂みをざわつかせながら、やがてその生き物が姿を現した。
 まっさきに目についたのは、それだけでカイトの背丈ほどもありそうな、みるからに強靭そうな二本の脚だった。どかどかと、あらあらしい音をたてながら、地面の土をはねあげている。その脚にささえられた、羽毛におおわれた丸みのある胴体、それほどながくもない首のさきには、奇妙に湾曲した嘴がのびている。鳥だとはわかったが、翼をもたないところから、歩くことを専門にしているようだった。
 鳥は、地面を嘴でつっつきはじめた。一定の間隔をあけては、その大きくまがった嘴をつきたてるのだった。
 そのうちカイトは、鳥が嘴を地面におろすたびに、足の裏に、こそばいような微妙な振動が伝わってくるのに気がついた。
 と突然、カイトの拳ほどもある昆虫が、枝の上からボタリとおちてきた。その瞬間、目にもとまらぬ速さでかけよってきた鳥が、虫をくわえるなり、のどをそらして一飲みにした。
 鳥は嘴のさきから、ある種の振動を発している。その振動のなかで動くものを感じとると、餌とみなすのだ。おそらく鳥は、昼間でも暗い樹海の下で、そのような能力を発達させたものとみえる。逆に視力は退化したのだろう。ミドウはそれをしっていて、カイトに動くなといったのだ。
 それからというものカイトは、息をするのにも用心しながら、石のように体を硬直させた。
 鳥はなかなかこの場をさらなかった。いくら視力が弱いとはいえ、やはり二人の存在を漠然と感じているのか、なんども地面に嘴をつきたてては、しきりと辺りを歩き回っている。
いきなり鳥の首に、何本もの太い触手のようなものがからみついてきた。一瞬カイトは、大蛇が鳥を襲ったのかと思った。が、その触手には、いくつもの大きな吸盤がならんでいるのがみえた。
 鳥は、吸盤のついた触手にまきつかれたまま、地面にひきずり倒された。それでも必死に、嘴で反撃をこころみるも、何本もの触手になおもからみつかれて、そのうち動かなくなってしまった。
 その生き物は、触手をうごかしながら茂みの影から姿をあらわした。移動のたびににたてる吸盤の異様な響きが、不気味に響く。触手の上につきだした、胴とも頭ともとれるものが、ぶよぶよとゆれうごく様子に、カイトは怯えたように立ちすくんだ。
「おい、おまえも鳥のようになりたいのか」
 いきなりミドウに腕をひっぱられて、カイトもあわてて小走りにかけだした。
「ミドウ、まってくれ」
「どうした。弱音を吐くつもりなら、ほっておくぞ」
「ちがう。そんなんじゃない。いま、とおりすぎてきたところに、おれはあるものをみたような気がするんだ」
「もってまわったいいかたをするな、なにをみたんだ」
「それを確かめるために、ちょっともどってもいいか」
「だから、なにを確かめるんだ?」
「人間を、みたような気がしたんだ」
 人間ときいて、ミドウも、はたと足をとめた。
「ほんとに、いたのか?」
「たしかに、みたような気がする」
 カイトは、いまきた道を、後戻りしはじめた。ミドウも半信半疑ながら、黙ってついてくる。 
 カイトは記憶を頼りに、道ともいえない道を戻りながら、やがて木立の中にやってきた。
 さっき彼がみたというのは、この木立の中でのことだった。それをみたときカイトは一瞬、人間の女かと思った。女のことは、ウーバからきいていた。人間には、男と女がいる。ウーバは自分を指さし、わたしは女をモデルにつくられたと語った。
木立の中で、動くものがあった。
「カイト、あれ」
 ミドウにいわれるよりまえに、カイトは、木立にみえ隠れするその影を、目でおいかけていた。
 やはり、人間かもしれない………。
そう思うだけでもう、彼の胸ははげしく高鳴った。背後から呼びかけるミドウの声も耳に入らない様子でかれは、足取りはやく突き進んだ。
 なんだか、たまらなくいい香りがしてきた。そのうち頭のなかが朦朧としてきて、我しらず足がもつれた。すると彼の目の前に、薄桃色の衣装を身にまとった、うら若い女がたちはだかった。
 女は彼にむかって、とけるようなやわらかい笑みをうかべた。それはこんな危険地帯には、まったく場違いなものだと、もはや思うことさえカイトは忘れていた。
 ビュッという空気を切り裂く音とともに、なにかがカイトをかすめてとびすぎた。背後からミドウが投げつけた太い枝が、女の胸に突き刺さった。
 乱れ飛ぶ赤や白の花びらとともに、女は後ろに倒れた。
「カイト、こいつをよくみろ」
 ミドウの声に、カイトははっと我にかえった。まだ頭がふらついたが、意識ははっきりしている。地面に横たわっているものは、人間とはほど遠いものだった。
 からみあう無数の蔓、ふとい茎と根が人間のちょうど手足のようにのびていて、顔にあたるところには、頭巾をかぶった花があり、また全身いたるところにも数多くの花々が複雑に重なりながら巧みに、人の姿を擬態しているようにみえた。もっとよくみようと彼が顔をちかづけようとすると、花から漂う匂いがまた意識をくもらせそうになったので、あわてて飛び離れた。この怪しい香りをすいこんだらさいご、この植物の怪物がふたたび、カイトの目に人間の姿となって浮かび上がるのだ。
 ミドウが、その奇怪な生き物を倒した棒を引き抜きながら、
「こいつの胸をみてみろ」
 そこには、のこぎり状の刺が覆う葉と葉が、両側から向かいあう形でついていた。
 ミドウはしばらく背後に目をやっていたがいきなり、おそるべき敏捷性をみせて、大きく跳躍したかとおもうと、たちまち一匹のキツネをとらえてもどってきた。
 その人間業ともおもえない行為に、あぜんとするカイトの目前で、ミドウはキツネをあの、のこぎり状の葉と葉の間においた。
 とっさにキツネが逃げ出そうとするよりもはやく、バクッと葉は音をたててとじた。キツネのからだが無残にひしゃげた様子をみただけでも、はさみつける葉の圧力はかなりなものだとわかった。
「こいつはおまえを、この葉ではさみつけてるつもりだっんだ」
「そのあとは―――」
 いいかけてカイトは、ふたたびキツネをみやった。と、いつのまにかキツネのからだは緑色の粘液につつまれていて、はやくも足のさきはとけはじめていた。
「なんて恐ろしい植物なんだ。だけど、ミドウ、きみはあの香りをすっても、なんともなかったのか」
「おれは、だいじょうぶさ」
 そういってミドウは、鼻の穴をぴたりととじてみせた。
「耳のあなだって、自由にとじられる。水にもぐるのに、便利なんだ」  
 カイトはふたたび、地面によこたわる生き物に目をむけた。
「こいつだって、生きてゆくためには、他の生き物を捕らえなきゃならない。だけど、どうして人間の姿に似せる必要があるのかな」
 そのときまた彼は、ウーバから聞いた話をおもいだした。
 人間が戦争をくりかえし、そのあげくに滅びてしまったあと、地上のつぎの支配者をめざして、あらゆる生物が進化を加速させた。どんな生き物も、究極の姿は人間にちかづくと、ウーバはいっていた。
「おい、さきをいそごう」
 ミドウのうながしに、カイトはうなずいた。
 


 ミドウの仲間がいる目的の場所まで、あとわずかというところまできたとき、ミドウの青みをおびた顔がきゅうにこわばった。
「………きこえないか」
 このころにはカイトも、ミドウの異常に発達した五感に気づいていた。彼の耳がなにかをとらえたのはまちがいない。
 ミドウは腹ばいになると、地面に耳をおしつけた。
「まずい。ドット虫の行進だ」
「ドット虫?」
「いそいで安全な場所に逃げるんだ」
「たかが虫だろ」
「ただの虫じゃない。1センチにみたない虫だが、何十万、何百万という単位で移動する。鉄を常食し、前進をじゃまするものはなんであれ、くいつくす。ほら、きこえるだろう」
 遠くのほうから、地響きのような物音がきこえてきた。
「前をふさぐ木を、根元から咬みきって倒したんだ。生き物だって、おなじ目にあう」
 それからもつづけさまに、木らしきものが倒れる音が、なんどもくりかえしきこえた。
「たいへんだ」
 カイトにもようやくドット虫のおそろしさがわかってきた。
 ミドウはあたりをみまわして、ひときわ高くそびえたつ巨木に目をとめた。
「カイト、あの木にのぼれ。できるだけ高くだ」
「わかった」
 カイトは、茂みをかきわけ、かきわけ、 彼が6人ぐらい手をつないでやっと幹をかこむことができるほど大きな、おそろしく年老いた木の前までやってきた。
 こぶのような節をつかみながら、彼がよじのぼりはじめると、ミドウのほうは、まるで地上をかけるような調子で、さっさとうえにあがってゆく。
「はやくあがってこい。ドット虫の前進ははやいぞ」
 ようやくカイトが最初の枝のうえによじのぼったとき、
「きた」
 枝の上でまっていたミドウが、向こう側の地面を指さした。
 岩場からつづく急な勾配をおおう茂みが、ざわざわとゆれうごいている。
「あの植物の下をはっているんだ」
 ミドウにいわれてカイトも、ゆれうごく植物の下のあたりが、しだいにくろずんでゆくのに気がついた。そのため草も枝も花も、夜空に浮かぶ満月のように、くっきりときわだってみえた。岩場のほうからこちらにむかって、その黒々としたものがだんだんとこちらにのびひろがってくるのがわかった。
 そのとき、カイトは目のはしが、なにやら動くものをとらえた。
 ちょうど彼がいる木の下からすこしはなれた地面に、黄土色の甲羅におおわれた胴体がみえた。頭のさきから尾までゆうに三メートルはあるだろうか、黒いぎょろりとした目だけでも、カイトの拳ほどもあった。
「テヅチだ。おれたちに気づいているようだな。くそ、こんなときに!」
 カイトにはミドウがうろたえる理由がわからなかった。
「ここにいたら、安全なんだろう?」
 テヅチの、六対の肢はほそく、一番前についている二対の、円筒状のものがなにかはわからないが、木登りに役立つものとはおもえなかった。
 テヅチは、木の下にまでやってきた。甲羅が地面にこすれる、カサカサという乾いた音が、木の上のカイトのところまできこえてきた。
 テヅチはしばらくのあいだ、幹に頭をおしつけるようにしていた。木の皮を噛みでもしているのだろうかと、見えない頭の下のできごとを、カイトがいろいろ想像していると、ふいに、どんという物音がした。
 カイトは、自分がよりかかっている枝が、そのときずしんと激しく振動したのを感じた。するとまた、どんという音がひびき、やっぱり木が振動した。
「テヅチが、この木を倒しにかかっている」
「この巨木を、倒すだって?」 
 さすがにこのときばかりはカイトも、ミドウをばかにしたようにながめた。
「この音をききつけて、仲間のテヅチたちがあつまってくる。ほら、むこうの岩陰をみろ。草むらのなかにも、やつらの甲羅がみえる」
 カイトが目をやったときには、なるほど周囲からぞろぞろと集まってくるテヅチの姿がみえた。
 テヅチは幹の周囲をぐるりと取り囲むと、最初の一匹のように頭のさきを幹におしつけてきた。どん、どんという、例の叩きつけるような音が、たてつづけにきこえだしたのは、その直後のことだった。その音はまもなく、ガツ、ガツという、木を穿つ音にかわりだし、みるみるテヅチたちの胴体は幹のなかに食い込んでいくのだった。
 テヅチたちが、あの円筒状の前足を、ものすごい速度でくりだして、ちょうどハンマーでおもいきり叩くような調子で、木をたたき割っているのだということを、あとでカイトはしった。
「となりの木に飛びうつれるか?」
 ミドウのいうその木というのは、ここから五メートル以上はなれた場所にたっていた。
「とてもむりだ」
「この木はいずれ、テヅチたちに倒される。ここにいたら、やつらの餌食になるのは確実だ」
「せいいっぱいジャンプしたら、なんとかテヅチたちの背後の地面に飛び降りられる。ワンステップおいてあの木に飛び移ることならできそうだ」
 ミドウはしばらく考えこんでから、
「危険だが、やるしかなさそうだな」
「それじゃ、さっそく」
「まて、まて、はやまるな」
 ミドウは頭上の枝をみわたして、太めのものを数本、両手でらくらくへし折った。
「いいか。おれがこれを投げて、テヅチの注意をひきつける。おまえはそのすきに、飛び降りて、ジャンプだ」
「ミドウはどうする」
「おれなら、あの木までひとっとびだ」
 そういって彼は、自信たっぷりにひきしまった太腿を叩いた。
 ミドウが枝を槍のようにかまえるのをみて、カイトは息をととのえた。
「いくぞ」
 まず一本目を、ミドウは飛び移る木と反対の地面に向けて投げつけた。幹にもぐりこんでいたテヅチ数匹がとびだしてきて、落ちた枝のところまでまたたくまにかけよっていった。
 その場所からさらに離れた草地にむかって、ミドウは二本目の枝を放った。
 幹のなかからからまたべつのテヅチがわれ先にはいだしてくるのがみえた。
「よし、いまだ」
 ミドウの声に、カイトは空中に身を踊らせた。
 着地した瞬間カイトの目に、幹のなかに最後までいたテヅチの一匹が、すさまじい速度ではいよってくるのがみえた。
 テヅチはカイトのまえまでくると、身をそらせ、頭をもたげた。まるく突起した前足が、彼のほうにぴったりむいている。木をも穿つ前足のひと突きで、彼の頭など容易に粉砕してしまうだろう。隣の木にとびうつることなど、とてもできそうになかった。
 その瞬間カイトは、ウーバの手をはめた腕を、顔の正面にかざしていた。ほとんど同時に、その手にむかってテヅチの右の前足が直撃した。強烈な衝撃は吸収され、カイトの安全はまもられた。
 ほかのテヅチたちがいっせいに、カイトのいるところにはいよってきた。カイトは懸命に、のぼろうとしていた木の幹まで突進した。その彼に、十数匹のテヅチたちが、前足をかざしながら、迫ってくる。
「カイト、木にのぼれ」
 ミドウの大声に励まされるようにカイトは、木の上にむかってとびあがると、ウーバの指を木の肌にくいこませた。
 ぶらりと彼の体が木にぶらさがった。彼は無意識に、両足をおりまげて、下からのテヅチの攻撃を避けようとした。
 しかし、下からきこえてきたのは、テヅチたちのあげる、悲鳴にも似た叫び声だった。
 カイトは右腕だけでぶらさがりながら、足の下をみおろした。その彼の目が、おもわずぎょっとみひらいた。
 木の周囲いちめんが、真っ黒に変色している。何匹ものテヅチがそのうえで、身もだえしていた。
みるみる、テヅチたちの胴体に、地面のKがしみこんでゆく。がよくみると、なにか黒い粒のようなものが、テヅチの全身をものすごい速さで包み込んでいるのがわかった。
「手をかせ」
 頭の上からミドウが手をさしのばした。いつのまにか、こちらの木に乗り移っていたのだ。
「ミドウ、あれは………」
「ドット虫だ。テヅチをじゃまものとみなして、くいつくそうとしている。おかげで、助かったな」
「ドット虫………」
 カイトは、ミドウの手をかりて安全な高さまでよじのぼってから、あらためて下の地面に目をやった。何匹もいたテヅチの姿が、いまはもうほとんどみあたらなかった。真っ黒な海のなかにかろうじて、甲羅のかけらがのこっているばかりだった。
 ドット虫たちの黒い大群が移動していくのを、カイトとミドウは木の上で、辛抱づよくまった。さすがのカイトも、地面におりるなどとはまちがってもいわなかった。
「いったい、どこへいくつもりなんだ」
 いつまでもつづく行進を眼下にみながら、カイトがもらした。
「ドット虫たちの本当の好物は、樹海の外にいかないとないんだ」
「砂漠より森のほうが、生き物はいっぱいいるとおもうけどな」
「生き物じゃない」
「え、じゃあ――」
「のりすてられた戦車や、撃ち落とされたロケットが目あてさ」
「そんなもの、どうするんだ」
「食うんだよ。やつらは鉄を常食にしているっていっただろ」
「ふうん」
 カイトはもう、なにもいう気がしなくなった。ウーバと離れて一人、樹海の下にきたが、まあそこには本当に、思いもよらない恐ろしい生き物が目白押しだった。
 得体がしれないという点では、ミドウもおなじだった。信じられない跳躍力、太い枝を軽々とへしおる怪力、なみはずれた五感のするどさ、青緑色の肌。それらはカイトがウーバからきいていた、どんな人間の分類にもはいらなかった。彼はいったいなにものだろう。その疑問をひきずりながらカイトは、やがてミドウの仲間がいる場所までやってきた。


 
 ミドウは、ふいに緊張のおももちで、繁みの手前に立ちどまった。
「どうしたんだい?」
 カイトのといかけにも、なにもこたえることなく彼は、気がかりなふうに繁みのあいだを透かし見た。
「様子が、おかしい」
 彼がいったとき、はたして繁みの向こう側で、だれかの悲鳴があがった。
 いきなり、ミドウが高みにむかってかけだした。あわててカイトが後を追うも、坂道をかけあがってゆく彼を追いかけるのは、並大抵ではなかった。
 ようやくカイトが岩場のうえまでたどりついたとき、ミドウがふりかえって、頭をさげろと手を上下させた。
 カイトは岩の上に体をぺたりとおしつけた。こわごわ顔をあげるとそこから、下の平地にたちならぶ、粗末な小屋が目に入った。なにかいおうとした彼だったが、ミドウのかたくむすんだ口がそれをはねつけた。
 彼はいまいちど、小屋のほうに目をやった。
 小屋のなかでとつぜん、火花がとびちり、もくもくと白煙がたちのぼった。木の皮を編んでつくったような家の壁が、内側からむりやり押し破られたとおもうと、ミドウとおなじ肌の色をした人影がとびだしてきた。一瞬後、その人影をオレンジ色の閃光がつつみこんだ。
 ミドウの口から、苦渋にみちたうめき声がもれきこえた。
「なにがおこっているんだ」
 カイトがもどかしさのあまり、首をのばしかけると、ミドウが腕をのばしてその頭をおさえつけた。
「やつらにみつかる」
「やつらって、まさか人間じゃないだろうね?」
「ちがう。人間を忌み嫌っている連中だ」
「人間を、忌み嫌う………」
 どういうことなのか、カイトが判断つきかねているとき、下の家の中から、なにかが姿をあらわした。
 それは文字通り真っ白な肌をしていた。二本足で歩行する、あきらかに人間のようだが、体のつくりはおどろくほど均整がとれていて、およそ完璧な姿をしていた。
 あとからあらわれた二人も、やはり白く、同様に見事な体つきをしている。
 三人はひとかたまりになると、家を正面にして立った。ふたたびオレンジ色の閃光がほとばしったと思うと、家は一瞬にして燃え尽きてしまい、あとにはわずかに灰だけがのこった。
 二人は、地面を這うようにしながら岩場の背後の茂みまで後退した。
「仲間はみんな、やられてしまったのだろうか」
 沈痛な面持ちで、ミドウがいった。
「仲間は何人いたんだい?」
「二十名ちかくいた。あそこで暮らしていたんだ。かなり用心していたが、まさかヤオヨロズに発見されるとはおもいもよらなかった」
「あの連中のこと、ヤオヨロズっていうのか」
「そうだ。神をあらわす言葉らしい」
「やつらは神なのか」
 ミドウははげしく手をふると、露骨に軽蔑をこめていった。
「神なんかのものか。やつらは、空き缶野郎さ」
「あ、空き缶――」
 神から空き缶に一転して、ますますカイトの頭はこんがらがった。
「ロボットさ。あいつらはみな、機械仕掛けのロボットなんだよ」
「ロボット。そのロボットが、どうしてきみの仲間を襲ったんだ?」
「ヤオヨロズは、人間を、目の敵にして、探し出しては皆殺しにするんだ」
 ここにきてカイトは、意識してこれまで避けてきた質問をミドウに投げかけた。
「きみたちは――人間なんだよね?」
 カイトの胸のうちをさっしたかのように、ミドウは、猫のような目をほそめてにたりと笑った。
「おれたちの先祖は、爬虫類だ」
「爬虫類………」
「そうだ、ワニから進化した、おれたちはかぎりなく人間にちかい、ミュータントなんだ」
「どうして、ヤオヨロズたちは、ミュータントであるミドウの仲間を殺すんだ?」
「やつらにとっちゃ、人間も、人間になろうとしているものも、おなじなんだ。とにかくひとの姿をしたものはみさかいなく、殺さずにはいられないんだ。この地上から人間と名のつくものは根こそぎ絶やすつもりなんだ」
「なんでまた、そんな。やつらだって。もとはといえば、人間に作られたんじゃないのかい。あの姿は、人間そのものじゃないか」
「人間よりも、はるかに見事だとおもわないか」
「たしかに。おれなんかよりずっと、よくできたつくりだ」
「あれは、過去の人間が創造した、美にのっとってつくられているんだ。やつらは、世界を滅びにみちびいた人間の絶滅をのぞむが、その人間が生んだ美、芸術だけは尊ぶんだ。やつらにとってそれは、人間を超越した存在なのかもしれん」
「つまり、神の姿か」
「空き缶野郎が考えそうなことだ」
「ミドウはこれから、どうするつもりなんだ」
「また仲間をさがす。おれたちにはまだ、人間たちが生み出した、社会性というものが希薄だからな。だからこそ、カイトを招いて、いろいろ教わるつもりでいた。カイト、おまえは人間なんだろ」
 カイトは、なぜか誇らかな気持ちでうなずいていた。
「よかったら、いっしょに行動しないか」
 というより、いまミドウにはなれられたら、たちまち立ち往生のカイトだった。そんな彼の胸のうちを、すっかりみぬいたふうにミドウは、
「おまえひとりを、ほってはおかないよ」
「人間って、ひとりでは、なんにもできないんだ」
「ひとつ、学んだよ」
 二人は顔をみあわせ、笑った。

                      次回に続く
 



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