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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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めちゃんこ とろくせゃあ

13/05/06 コンテスト(テーマ):第三十一回 時空モノガタリ文学賞【 名古屋 】 コメント:8件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:2200

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 名古屋の街中にただいま、大怪獣ラジゴンが出現しました。
 
 いまそのニュースが空中をさかんに飛び交うのを当の怪獣は、デジタル波を聞き取れる能力をもった後頭部の突起物によって逐一、読み取っていた。

【ラ】おれは突然出現したわけじゃない。こんな巨体が名古屋港からのっそり上陸するのをみんな最初から、みているはずじゃないか。いまさら何をとぼけて、街中に出現だ。それに、きょうはじめてあらわれたにもかかわらず、なんですでにラジゴンなどという陳腐なネームがついているんだ。一般公募か?
 怪獣は空にむかって憤りもあらわに吠え立てた。

 なんというおそろしい咆哮でしょうか。身の丈56メートルの巨体には、全身鋼のようなうろこがびっしりおおい、剣状の鰭が背中から尾のさきまでずらりとならんでいます。うなりをたててひるがえる太い尾は、路上の建物群を根こそぎなぎ倒すことでしょう。
あ、いま、東の空から自衛隊機が列をくんで飛来しました。地上には何台もの重戦車が一様に砲台を怪獣のほうにむけて待機しております。
 凶暴な怪獣をまえにして、なんの猶予が必要でしょう。はやくも戦闘機からロケット砲がラジゴンにむかって発射されました。地上からは、戦車砲が火を吹き、たちまち名古屋のまちにすさまじい爆撃音が轟きわたりました。

【ラ】痛い、おい、まてよ!
 いったいおれがなにをしたというのだ。建物だって、壊しちゃまずいと、細心の神経を払って、そろりそろりと歩いているじゃないか。尻尾にしても、いい加減腰に負担がかかるというのに、ずっと宙にもたげっぱなしだ。痛い。痛いってば。こっちだって生身の体なんだ。むちゃするなよ。
 ただ外見だけで、巨体だけで、あんたたちは無抵抗なおれを、どこまでいじめたら気がすむんだ。

 なんという強靭なからだでしょうか。あれだけロケット弾と戦車砲を浴びているにもかかわらず、怪獣ラジゴンはけろりとしながら、移動をつづけています。いったいこの革命的怪獣は、どこへ向かおうとしているのでしょう。

【ラ】どこへ向かうもなにもありはしない。海面から頭をつきだしたら、この名古屋の街が目にはいった。そのきれいな街並みが、まるでおれに、あがってこいといっているようだったんだ。それでおれは、ほんの物見遊山で、陸に上がったにすぎない。目的なんか、最初からありはしないんだ。
 とはいえ、ここまできたら、なにかしないことには、ひっこみがつかなくなってしまった。どうやらこの日本だけでなく、いまでは世界中がおれの動向に関心をもっているらしい。痛いおもいはしても、注目を浴びるというのはまんざらでもない。それではここで、なにかひとつ、世間の耳目をひきつける、パフォーマンスでも披露しないことには………。
 
 怪獣は、あたりをみまわした。百メートル前方に、名古屋城がそびえたっていた。日本百名城に選定されているだけあって、そのどっしりした荘厳な風格はさすがで、ちょうど目の高さには、黄金の鯱が、その身を威勢よくはねあげている。
 気のせいか、スケールのちがいはあっても、どことなくわが身と似ているなと、怪獣は親近感を抱いた。その相似と黄金の輝きに、魅せられたように怪獣は、ことさら足音を響かせながら城にちかづいていった。
 さしもの自衛隊も、城に接近する怪獣には、手も足も出なかった。大事な名物を傷つけては、名古屋の住民にあわす顔がない。それでいまは、戦闘機も重戦車隊も、攻撃をやめてじっと、怪獣の出方を見守ることにした。

 一切の攻撃がやんで、やれやれとばかりに怪獣は、城の天守閣に身をよせた。眼前で、金の鯱が、こちらをみている。怪獣はその神々しいまでに光り輝く鯱の口に、チュッとキスをした。
 これには地上の人々も、テレビでニュースを見る人々もあっけにとられた。てっきり、怪獣が城を破壊するものとばかりおもいこんでいた。話が違う。だれもの顔に、肩透かしをくったような表情がうかびあがった。
 やにわに地上が騒がしくなった。人々が発した憤りや怒りが怒涛となって大地をゆるがした。
 
【ラ】おい、おい。怪獣だからといって、なにも破壊と殺戮におよぶとはかぎらないだろ。鯱にキスなんて、粋とはおもわないか。ダンディズムとはこのことだ。

 だが、人々はますます激昂しだし、はやく退治してしまえと、自衛隊をけしかけはじめた。

 どうころんだところで、この地上におれの居場所なんかありはしない。それを悟った怪獣は、そそくさともときた名古屋港にむかってもどりはじめた。
 結局怪獣は、ひとりの人間、電信柱一本、そこなうことなく海に足をふみいれた。そんな怪獣にむかって、名古屋港におしかけてきた群衆から、さかんにヤジがとびかった。

 そんな怪獣があるものか。ふざけるんじゃない!






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このストーリーに関するコメント

13/05/06 光石七

拝読しました。
そうですね、怪獣だから悪者とは限らない。
ウルトラマンでも心の優しい怪獣がいたような…
自戒もありますが、怪獣とのひと時を楽しませていただきました。

13/05/06 W・アーム・スープレックス

光石七さん、コメントありがとうございます。

昔から、あのおおきな怪獣たちが、突然街中に出現するのを、疑問に思っていました。最初から存在しない怪獣が、どこに現れようといいようなものですが、山とか、いまでは高層ビルの影から影を、たくみに人の目を盗みなかがら、忍者のように移動しているのかもしれませんね。

13/05/06 草愛やし美

W・アーム・スープレックスさん、拝読しました。
なるほど、怪獣の立場にたてば、こういう現実があるのかもしれませんね。人間は、決めつけで考えてしまうところが確かにありますから。しかし、お洒落な怪獣さんですね、鯱にキッス、面白かったです。つい調子に乗ってしまって、ニヤニヤ笑いながら、ウルトラマンはまだかと待っている私がいました。笑

13/05/07 W・アーム・スープレックス

草藍さん、こんにちは。コメントありがとうございます。

名古屋は新幹線で通過するぐらいなのて、しったかぶりするとボロがででそうなので、自意識過剰気味の怪獣に登場してもらったのですが、よけいボロが出た感が否めません。

13/05/07 名無

怪獣への誤解と偏見が悲しいです。こんなお茶目な怪獣だったら、きっと大人気になったでしょうに。ちょこちょこ遊びにきて誤解を解いて、新しい名古屋名物になって欲しいです。笑

13/05/08 W・アーム・スープレックス

名無さん、コメントありがとうございます。

四面楚歌の怪獣を気にいってもらえて、嬉しいです。ボードレールの「あほうどり」ではありませんが、このようなドジさ加減はまさに、書き手の姿とさも似たりです。

13/06/10 W・アーム・スープレックス

メガネさん、コメントありがとうございます。

ごめんなさい。「エンジェル伝説」知りません。
名古屋ならではのディープなところ―――わたしの作品はほとんどが思いつきで書きますので、そういうタイプとわきまえてください。あまりちいさい怪獣だと、お城の鯱にキッスができません。けれども、貴重なアドバイス、感謝します。

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