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kazuさん

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黒と白の山羊

13/05/06 コンテスト(テーマ):第二十九回 時空モノガタリ文学賞【 手紙 】 コメント:1件 kazu 閲覧数:2231

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 うだるような暑さが収まった夜中、私は机の上にある一枚の紙を睨みつけていた。
「進路希望、か……」
 この間、学校から配布されたものだ。まずは就職と進学のどちらにするか決めなければならないが、これはもう進学に決めている。なにしろ大学にいけばあと4年間は遊べるのだ。去年に先輩が行った近場の大学は、授業も楽でずっと遊べるという話を聞いた。入学するのも簡単らしいので、ある程度勉強すれば合格はできるはずだ。こんな理由で大学に行ってもいいのか少し不安になるが、友達も似たような理由で決めていたし大丈夫だろう。就職のことは大学に入ってから決めればいいし、さっさと書いて買ったばかりの本を読みたい。ボールペンは、確か机の横の引き出しの中に……あった。さて、あの大学の名前は……
「え?」
 私が机の上に視線を戻すと、希望調査用紙の上に見覚えのない黒い封筒が置かれていることに気がついた。さっきまではなかったはずだ。机の近くでペンを探していたから、誰かが置いたのに気づかなかったということはないだろう。だとすると、封筒がひとりでに……
「まさか、ね」
 ニョキッと紙でできたペラペラの手足が生えるところを想像してちょっと笑ってしまった。少し可愛い? いや、切手も宛名もない封筒は愛嬌に欠けるかもしれない。
「中身は……髪?」
 そう。白い髪の束がそのまま入っていた。なんだか不気味で、思わず手を離した私が見たのは“封筒に張り付き、動き出した髪”だった。
「っ!」
 髪はまるで生き物のように動き、なにかの文字になろうとしていて。
『屋木かな様』
 私の、名前。慌ててクッキーの缶に入れ、ガムテープでぐるぐるに巻いた。最後に見えた髪は、まるで私に語りかけてきそうで。慌てて机から布団に飛び込み、必死で目をつぶった。しばらく震えていた私は、急激に訪れた睡気によって夢の世界へと落ちていった。

 ヤギだ。
 色の分からないヤギがこちらをじっと、見ている。私の右手は封筒を握りしめていて、近づいてきたヤギがむしゃむしゃと食べていく。少しずつ口が、私の手に近づいて。湿った鼻が手に当たる感触に、食べられてしまう、と思った時、白い髪が動きだした。髪は小さなヤギの形になって、大きなヤギの口に飛び込んでいく。パクリ、と小さなヤギが食べられると、大きなヤギはなにか驚いた顔をして、そこで私の夢は終わった。

「今のは?」
 夢? それにしてはかなり生々しかった。けど、あれが現実というのは信じられない。右手が湿っているのは寝汗のはずだ。ヤギの鼻で濡れたなんてありえない。あの封筒の髪だって、きっと見間違いだ。寝たら、落ち着いた。大丈夫。あれは誰かのいたずらなんだから。
「確認、しよう」
 ガムテープを外して、缶を開けた。中身は……
「半分になってる……」
 封筒は、噛みちぎられたような跡を残し半分がなくなっていた。あの白い髪もどこにもなかった。ありえないと思いながら、夢を否定しきれなかった。そういえば、夢占いでのヤギは……
「自己責任の放棄、だったはず……」
 バチが、あたったんだろうか。私が、進路のことを真面目に考えなかったから。だとすれば、この封筒は私を守ってくれた?
「お守りなのかな、一応」
 それにしてはかなり不気味だけど。しかも、うかつに捨てられなくなったことを考えると呪いに近いかもしれない。
「進路、ちゃんと考えるかな」
 もう、怖い夢はこりごりだ。ヤギに食べられないように、きちんと将来を見据えなければいけない。……もし、何か失敗してもきっと大丈夫なはずだ。多分また封筒が守ってくれるはず。髪は……代わりに私のものを入れておこう。あの夢をもう二度と見ないと、これからは真面目に生きると念じながら、またガムテープでぐるぐる巻きにした缶を、押入れの奥にしまいこんだ。
「まずは、大学調べからかな?」
 私の人生は、まだ始まったばかりだ。


 突き刺すような寒さが体に堪えるころ、私は懐かしい物を見ていた。五分も見ていないものだったが、何十年とたった今でもはっきりと思い出せる。つまりは、それだけ私にとって大切な出来事だった証だろう。今では売ってないクッキーの缶の中に入っていたのは、黒い、傷一つない封筒だけ。半分は、ニョキッと生えたのだろうか。だとすれば、私の髪は栄養になったに違いない。
「封筒って呼ぶのは味気ないかな」
 私の人生を変えたものだ。あの出来事があったおかげで今の私がある。
「手紙、が一番しっくりくるかな」
 思いを伝えるものだから。新しく髪を入れた手紙は、私が目を離したときに、消えてしまった。


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このストーリーに関するコメント

13/05/06 光石七

拝読しました。
タイトルから童謡を連想しましたが(笑)、身につまされる話でした。
進路、私も漠然としか考えてなかったので…
私にとっても教訓になるお話でした。

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