廿楽杏さん

廿楽杏と申します。 オリジナルから二次創作まで幅広く書いています。一番好きなのは甘く切ないお話。 余りにも切なすぎると泣き出します。

性別 女性
将来の夢 編集者または小説家
座右の銘 人事を尽くして天命を待つ

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13/05/05 コンテスト(テーマ):第七回 【自由投稿スペース】 コメント:1件 廿楽杏 閲覧数:2102

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 世界のどこかにいる人に、思いを馳せる。
 会いたいな。触れたいな。声を聞きたいな。叶わないだろうけど。
 ふと空を見上げた。大きさも形もバラバラの雲が空に浮かんでいた。ゆっくりと流れる雲と時間に、あの頃とは真逆だな、と感じる。
 大好きだった。
 この愛も、この時も、全て果てなんかないものだと思っていた。
 けれど学生の私はあまりにも幼すぎたんだろう。奏、と呼ぶ声。そっと触れる手。何度も繰り返しせがんだ愛。どれも私だけの世界。
 別れを切り出したのは貴方。自ら遠ざけたのは私。どちらに罪があるのか、と聞かれれば、おそらく答えられないだろう。どっちにも罪はないし、きっとある。
 未だに後悔しているのだ。行かないで、の一言が出てこなかった。どうしても止められなかった。離れたくなかったのに。自分でもアホらしいとは思う。
 もうあれから10年経つ。
 10年というのは本当に長いんだな、と改めて思った。彼がいなくなって私は新しい恋を何度もした。現在進行中の恋だってある。いろんな恋をして、失恋や交際を乗り越えて今の私がいる。決して彼を忘れたわけじゃない。会いたい気持ちも薄れていない。それでも、最後に彼が言った言葉は私の心の奥底深くに植えつけられた。
 ――――幸せになりなさい。
 なによ偉そうに、とか。うるさいな、とか。もう頭の中は反発だらけで、それでも彼の悲しそうな顔はどうにもできなくて。じゃあ別れるなんて言わないでよ。遠くに行くなんて言わないでよ。そんな言葉を今更叫んだってどうしょうもない。
 草ばっかり、何一つ面白いものなんてない河原に座っていた。空は変わらずゆっくりしている。ゴロリと寝転がって、視界全てを空にした。
 あの時は余裕なんかなくて、空なんか見れなかったな。あの時もこんなふうにゆっくり、流れていたのだろうか。目を閉じた。暖かい日差しが遠慮がちに私の上に降り注ぐ。なんて穏やかな時間。
 ふと、日差しが遮られた気がした。誰かが覗き込んでいる。不思議と目を閉じていても、それが誰だかすぐにわかった。
「日向ぼっこですか。いい趣味してますね」
「そうでしょう?」
「隣、いいですか」
「ええ、もちろん」
 あんなに会いたがってたのに、なんだ。まんざらでもないじゃん。自分自身にツッコミをいれても誰も答えない。当たり前だけど。
 隣に寝転がるその人は頭の後ろで腕を組んだようだ。私も真似して、頭の後ろで組んでみる。肘がぶつかる。まだ目は閉じたまま。
 そういえば、私と彼が出会った時もこんな感じ。私が学校の中庭で日向ぼっこしてるとき。先生が、話しかけてきたのが始まり。
「せんせー」
「もう先生じゃありません」
 昔と変わらない、優しい声。ずっと聞きたかったのに、こんなにあっさりしてていいのかな。
 携帯が鳴る。この着メロは彼氏から。そういえば今日、この後会う約束してたっけ。閉じていた目を開き、身を起こす。先生の方は、絶対に見ない。
「彼氏ですか」
「はい。…行かなくちゃ、いけません」
「そうですか」
 淡々という先生にあの時のような反発は起きない。私も成長したんだ、と実感してしまう。会ったら言いたいことはたくさんあった。聞きたいことも、したいことも、たくさんあった。なのに、今がそうなのに、できない。してもしなくても先生にはもう会えない。これで最後。本当の、最後。
「先生、ありがとうございました」
 立ち上がって振り返る。まだ見れない。先生の顔は、まだ見れない。
「奏」
 先生は本当に私のしてほしいことをしてくれる。先生、その言葉のあとに何を伝えようとしましたか? 奏、行かないでください? 奏、さよなら? 奏、ありがとう? どれも、違う気がした。きっとそれは今日、今ここで終わる恋の合図。
 やっと先生の顔が見れます。先生。

 さよなら、愛しい人。私の、古い世界。


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