1. トップページ
  2. 愛するメアリー・J・ストーンへ。この手紙を捧げます。

小西心菜さん

小説を書くのが大好きです。 よろしくお願いします。

性別 女性
将来の夢 作家、BL作家
座右の銘 なにかためしてみようってときには、どうしたって、きけんがともなうんだ

投稿済みの作品

1

愛するメアリー・J・ストーンへ。この手紙を捧げます。

13/05/04 コンテスト(テーマ):第二十九回 時空モノガタリ文学賞【 手紙 】 コメント:0件 小西心菜 閲覧数:1742

この作品を評価する

 大抵人が死ぬときっていうのは、何か思い残したことが一つや二つ、あるものだ。

 遠くでカモメがなんとも言えない声で鳴いた。
 凍えるようなブリザードに、電気配線もすぐに馬鹿になり、突然ブレーカーが落ちたまんま元に戻らないというツンを全開で発揮してしまう長いウィンターを耐え抜いたアメリカに、ようやく春が訪れようとしている。イエローストーン国立公園の木には、桜の蕾が顔を覗かせていると、メディアが報道していたのは今朝の話だ。
「わがままだな。何度も言うけどね、君は俺の専門外。除霊師じゃないんだ。俺は伝言屋なんだよ。OK? 君はいつだって君自身の力で上に行ける。行こうと思えばね」
《……オーライ。その前にもう一度、彼女に会ってくるよ》
「やめてくれ! どうして俺がわざわざここに出向いたのか、君、わかってるのかい? 頼むから写真の中で、彼女の隣に堂々と立って、おまけにピースなんてしないでくれないかな!」
 西条の言葉に、あからさまに肩を落とす彼に、ぽんぽんと叩いてあげられる手があっても、彼には身体がない。透明人間のように、彼の向こうで葉っぱがふわりと突き抜けていく。彼がこうなってしまっては、もう言葉でしか、彼の本能に伝えることができない。
 依頼の手紙が俺の元に届いたのは、もう一週間ほど前の話になる。
『七年付き合ってきた彼が、成仏できずに私の側に居てくれる。けれどそれはただ、あの人にとっても、私にとっても、とても辛くて、とても苦しいこと。どうか悲しみを忘れてほしいから』
 震えた手で書かれた文字は、彼女の涙の跡と一緒になって、歪な文字を映し出していた。郵便屋のジェームスが『アメリカのニューヨークからだ。……あそこは、自由の女神が海によく映えて、美しいな』そう言いながら、清楚な白色の封筒をそっと西条に差し出したのを、今でもよく覚えている。
 そうして、自由の女神を眺める、ひとつの影法師。
『やあ。君が、彼女の大切な人かい』
 名前もよく知らない、その男性の瞳は、絶望と悲しみと、涙にくれる悲愴な色だった。
 そんな彼の足元から、徐々に光が溢れてくる。どうやらタイムアウトのようだ。
「じゃあな。今度はちゃんと、死ぬ前に呼んでくれよ」
《彼女に。どうか、よろしく頼んだよ》
「おう! 任せとくんだぞ!」
 にっこりと微笑んだ彼は、そこからゆっくりと姿を消し、やがて天へと昇っていった。




 石畳の遊歩道を歩きながら、海の地平線に消えていく夕陽を追いかけて、とある場所で西条の足は歩みを止めた。レンガ造りの一軒家から出てきたのは、あの日、心の内をそっと明かしてくれた彼女の姿だった。
「……ハイ、君がメアリーだね。初めまして」
「あなたは」
「最後に、君に伝えたいことがあるんだ」
 彼女は目に涙を溜めて、俺の言葉をすべて心に飲み込んだ。溢れ出した涙が、行き場をなくしてコンクリートに染み込んで行く。けれど、だからこうして、次の一歩が踏み出せるんじゃないかな。人間って、よくわからないけれど、そういう生き物なのだと思う。
「ありがとう……ありがとう」
「泣かないでくれよ、メアリー。ねえ、知ってるかい、空って一つなんだよ。雲の上を行っても、宇宙に行っても、星はいつだって君を見ているし、君だって星を見るだろう?  ……じゃあね、グッバイ。素敵な夢を」
 人生がバラ色だなんて、いったい誰が決めたことなんだろう。けれど、この世には耐え難い苦しみを乗り越えた人が、その人生を歩むことが出来るんじゃないのだろうか。
 地平線に太陽が沈む前に、彼が彼女へ言い残した最期の言葉は、うまく伝わったようだ。伝言屋としての役目は終わった。このまま世界旅行に出かけるのもいい。次の依頼が来るまでは。
 西条はぐいっと背伸びをして、自由の女神から背を向けた。



愛するメアリー・J・ストーンにこの手紙を捧げます。


『メリー。君と出会ってから、七年が過ぎたね。けれど、それはどうやら、俺にはとても長すぎたらしい。もう満足しただろ、って。神様が俺にくださった人生の終わりだから、君と離れることに後悔はしていない。……嘘だ。本当はとても悲しい、どうしてなんだろう。神様って残酷だよね。でも、君の目から俺が見えなくなっても、俺は、世界で一番に、君を愛している。本当だ。嘘じゃない。この手で君のそのスレンダーな身体を抱き締めてあげることが、もう、俺には出来ないけれど。いつだって君を見ている。愛してる。ずっとだ。そしてどうか、君には幸せになってもらいたい。素敵な家庭を築いて、そう、子どもを生むんだ。君の可愛い笑顔が思い浮かぶよ。……メリー、本当はずっと俺の事を見ていて欲しいけれど、それは君を傷つけるだけだ。囚われないで、素敵な人生を歩んで欲しい。メアリー・J・ストーン。俺の最愛の人。さようなら』


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン