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地ー3さん

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名無しのラブレター

13/05/03 コンテスト(テーマ):第二十九回 時空モノガタリ文学賞【 手紙 】 コメント:0件 地ー3 閲覧数:1726

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『貴方の事がずっと好きでした。今日午後六時、学校の屋上で返事を聞かせて下さい』

 新学期が始まり、一か月。あれほど騒がしかった部活動の勧誘も今ではすっかり鳴りを潜め、学校全体の雰囲気が落ち着き始めた頃合いだ。
 坂上浩一が差出人不明の恋文に気が付いたのは今朝方だった。いつも通りの時間に登校し、自分の席に着いた時、机の中にある手紙の存在に気付いた。机の中に入っていた手紙をこっそりと読み、それがラブレターだと分かった時、戸惑いを感じつつも舞い上がった。
 どんな子なのだろう? 何故僕を好きになったのだろう? 可愛い子なのだろうか?
 差出人の女の子への期待に胸を膨らませながら放課後になるまでを過ごした。そのおかげで今日の授業はほとんど耳に入らず、教師に注意される回数が激増してしまったが。
 そして今、茜色に染まる空の下、僕は手紙の差出人を待ち続けている。
 ただ、問題なのは。
「なんで彩まで来るんだよ」
「いいじゃないですか。お邪魔はしませんから〜」
 と、浩一の隣に座る女の子がニコニコ笑う。
 彼女の名は一之瀬彩。浩一の同級生であり、幼馴染である。彼女を一言で表すなら、嘘が嫌いなおてんば娘と言ったところか。
 ショートカットの黒髪に制服を纏った彼女は控えめに見積もっても美人であると言えるだろう。なのに、その性格は他人の厄介事に首を突っ込みたがる困った性格をしているのだ。
 特に付き合いの長い人間、つまり幼馴染である浩一に対しては遠慮と言う文字が欠如しており、突出したその行動力に毎回巻き込まれている。
 今回だって、手紙を見つけて戸惑っていたところを彩に見つかってしまったのが運のつき。手紙の中身を見られた上、自分も一緒に行くと言って無理矢理ついてきたのだ。
止めても無駄だということは百も千も承知しているので、絶対に邪魔しないということを条件に同行を許可したのだ。
 そろそろだと思い、浩一は立ち上がり、屋上の扉の前に立った。ここなら壁面が死角となって彩の姿が見えないので変な誤解を生むことにはならないだろう。弾む気持ちを落ち着かせ、屋上の扉から姿を表すであろう差出人を待ち続ける。
 腕時計をチラリと見ると、午後六時まで後数秒を残すところだ。
 もうすぐ、やってくる。
 そして今、時計の針が約束の時間を示した。
 深呼吸。そして、屋上の扉へと視線を向けた。だが、手紙の主らしき人物が現れる気配は……無い。
 一瞬、嫌な予感が頭によぎる。だが、少しくらい遅れてくる場合だってあるかもしれない、そう自分に思い込ませてさらに待ち続ける。
 五分。
 十分。
 二十分。
 約束の時刻を過ぎて待ち続けても屋上に現れる人影は無い。
 嫌な予感が当たってしまった。
 手紙の差出人は来ない。もしくは手紙自体が悪戯だったのかもしれない。
 そう結論付けた浩一は肩を落として手近なフェンスへと歩み寄る。そして、そのままフェンスに軽く背中を預けて夕焼けに照らされた空を見上げた。
 正直に言おう、ショックだ。
 自分は聖人君子では無く、どこにでもいるような学生だ。ラブレターの一つでも貰えば浮ついた気持ちにもなる。その浮ついた気持ちをこんな形で落とされたら嫌な気分にもなってしまうものだ。
 浩一は腹の内に溜まった嫌なものを吐き出すように大きくため息をついた。
「ねえ、浩一。あの手紙には『午後六時、学校の屋上で』と書かれていたんですよね?」
 上の空だった浩一は彩がいつ自分の隣に近づいてきたのか気が付かなかった。
 彩の口にした問いは紛れも無くあの手紙に記されていた言葉であり、今さら確認するまでも無い事だ。
「ああ、そうだよ」
「では、ここで質問です。午後六時になった時この屋上にいた女の子は誰でしょう?」
 彩のおかしな質問に浩一は目を丸くする。
 そんなことは確認するまでも無く、自分たちが来てからこの屋上にいた女の子は彩ただ一人――
「ああ、そういうことか」
 と,浩一は質問の意図に気付くのと同時に自分の勘の鈍さに歯噛みした。
ようするに今回も彩の手の内だったということだ。
だけど、彩は嘘を吐かない。いつだって、何をする時だって、本気なんだ。だから、今回の手紙のことも本気なんだ。
「そういうことです」
 手紙の真相にやっと気付いた浩一を見て彩はいたずらっぽく笑う。その笑顔を見た浩一はドキッと高鳴る胸の鼓動を感じた。
 夕焼けに照らされた彩の笑顔。それは長年、彩と共にいた浩一が見たこと無いと思うぐらいに幻想的で、綺麗なものだった。
 浩一は今、自分の顔が夕焼けのせいだけでなく真っ赤になっていることだろうと思った。
 そして、手紙の主は手を差し出し、浩一に問いかけた。
「お返事を聞かせてもらえませんか?」
 差し出された手を握り、浩一は返事を口にした。


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