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ウはうどんのウさん

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ミスコン前夜

13/04/29 コンテスト(テーマ):第二十九回 時空モノガタリ文学賞【 手紙 】 コメント:2件 ウはうどんのウ 閲覧数:1855

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「それはボクのラブレターだよ」
「いいや、オレのだ」
「なに言ってるだ。オイラのに決まっとるだで」
 三人の少年は、机を囲んで話し込んでいた。窓から覗く太陽は、もう沈もうとしている。部屋にオレンジ色の光が差し込んでいた。少年たちの顔が染まる。
「前から分かってただぁ。ナツミちゃんさオイラのこと好きだて」
「なに言ってんだバカ。なっちゃんはオレに惚れてんだよ」
「それはボクのラブレターだ」
 机のうえには、白い封筒がひとつ。装飾は特になく、ただ隅に「坂野夏実」という黒い文字が浮かんでいる。手紙の送り主の名前だ。
 少年たちが寮の三人部屋に戻ってみると、ドア付近にぽつんと置かれていたのだ。おそらくドアの下の隙間から滑り入れたのだろう。不思議に思いながらも少年のうちの一人がそれを拾い、そして、書かれている差出人の名前に目を見開いたのだ。
 坂野夏実、それは学校内で上位に入る美少女……。三人が三人とも、ごく、と唾を飲み込んで封筒の中身に食い入った。
『前略
 初めまして(かもしれません)。坂野夏実です。私のことをご存知でしょうか。私はあなたのことを知っています。あなたを一目見て、ああ、この人だ、赤い糸はこの人と繋がっているんだ、と確信したのです。ぶしつけかもしれませんが、あなたの部屋を探して、この手紙を送ります。これはラブレターです。
 草々』
 短く、そしてラブレターにしては個性的なラブレターだ。さらにその手紙は手書きですらない。ワープロソフトで書かれたものであるらしく、無機質なインク文字が並んでいた。しかし少年たちは、最後の「これはラブレターです。」という一文に躍り上がり、まるで違和感をいだくことなく、坂野夏実の姿を頭に浮かべた。
 しかし、みな一様に、ある疑問に突き当たる。三人が三人とも、そのラブレターを自分宛だと思って、鼻の下を伸ばしているのである。
「おまえ、なに嬉しがってんだよ。おまえのじゃねえよ」
「なんだと! これはボクのラブレターに決まってるじゃないか」
「オイラのだ」
「おまえにラブレターなんて来るわけないだろ」
「きみこそ鏡見てから言えよ!」
「オイラのだぁ!」
 騒がしい押し問答はしばらく続くが、ふと、一人が気付く。「これは手紙なんだから、宛名が書いてあるはずじゃないか」と。
 その発言に触発されて、残りの二人が争うように封筒を奪い合い、「坂野夏実」の名のあった面をもう一度見た。しかし宛名のようなものは見当たらない。裏返してみてもそれは同じだった。封筒の内側を舐めるように覗いても、手紙をもう一度眺め回しても、宛名はどこにも書かれていない。
「そうか。なっちゃんは恥ずかしくて書けなかったんだな!」
「いいや違うよ。書き忘れたんだ」
「名前知らんかっただか?」
「なっちゃん、オレの名前が眩しくて読めなかったんだな」
「んなわけないだろ。というか会ったことないくせに馴れ馴れしい呼び方するなよ」
「オイラ会ったことあるだよ。学食ですれ違っただ」
「それくらいなら誰にだってあらぁ」
「これはボクのラブレターだ」

 そのころ。少年たちの隣の三人部屋では。
「おそらくこの恋文は僕に宛てられたものだね」
「いいや。この三人のなかで恋文を貰う可能性があるのは、俺しかいない」
「わしかも知らんぞ」

 またその隣の部屋では。
「夏実さんのこの手紙は、きっとぼくへのものだと思うんです」
「なぜそう思うのだい。二百字以内で説明してみなさい」
「はい。なぜならばぼくらは愛し合っているからです」
「嘘つけ」

 またまたその隣では。
「おお、神よ。我を救いたまえ。この、このラブレターのしがらみからは、我はもはや逃れられんんっ! ひゃっほーラブレター! うぇいうぇいうぇいイエイ」

 戻って最初の三人部屋。窓のそとはすっかり暗くなっていた。
「オイラ、ナツミちゃんのとこさ言って聞いてみるだ。誰さ宛てた手紙か。はっきりさせるだ」
「そうだ。そうしよう」
「まあオレに違いないがな……行くぞっ」
 三人は押し合いながらドアを開け、廊下に出た。
 男子生徒の大行列が、女子寮にまで続いていた。


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このストーリーに関するコメント

13/04/30 クナリ

頭に疑問符を浮かべながら読み終わり、タイトルを見返して、ああなるほどッ…と納得しました。
面白かったです。

13/07/20 ウはうどんのウ

クナリさま
 感想返信が遅れてしまいすみません。
 タイトルを見返して、というのは意図してのことでしたので、その通りに読者をいざなえたようでホッとしています。「面白い」と仰っていただけて幸せです。
 ご感想ありがとうございました。

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