W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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新人

13/04/22 コンテスト(テーマ):第三十回 時空モノガタリ文学賞【新人】 コメント:3件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:2067

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 このままかれらといっしょにいても、いいんだけど………
 ザトは、仄暗い闇の中に肩を並べる沈黙のかれらをながめた。
 けれども、なにかがちがう。
 それは、なんだろう。
「ザト、どうする?」
 隣りのミコも、いまだに決心がつきかねない顔つきだった。
 彼女とは、これまでにも、この集団を出るかどうか、なんども話しあってきた。
「悪い連中じゃないんだけど………なんだか、息苦しいのよね」
 ザトにもミコのそんな気持ちはよく理解できた。これまで一度としてかれらから、冷たい仕打ちとか、意地悪な行為はうけたおぼえはない。それどころか、食べ物は分け与えてくれるし、二人の寝場所にやわらかな藁を敷いてくれたりと、なにかと面倒をみてくれていた。
 グループの一人の、ザトたちが勝手にベニウとよんでいる女が、焼いた肉を枝に突き刺してもってきた。
 これまでザトもミコも、獣の肉は生のままたべていた。かれらと合流してはじめて、火で焼くことをしった。石を削って作る石器の技術を教えてくれたのもかれらだった。
 ベニウは、ザトとミコの顔を見比べるようにみると、人のよさそうな笑みをうかべた。
 その底抜けに楽しそうな笑顔もまた、かれら特有のものだった。ザトやミコの本来の仲間たちはみな、油断のならない、猜疑心にみちた顔をしている。集団生活を送りはするが、獲物のとりあいや、他の集団との縄張り争いはしょっちゅうで、仲間同士を傷つけあったり、あげくは、殺しあうこともめずらしくはなかった。
 はるかに平和で、温厚なかれらのなかにとけ込んで、これからもやっていくのが二人にとっていちばん賢明なのはわかっている。それはこれまで二人がさんざん話し合った末に導きだした答でもあった。
 だが、かれらといっしょに、日々を送っていると必ず、ザトもミコも、このままではいけないという気持がだんだんと、心の中にみちてくるのをどうすることもできなかった。
「どうしてかれらは、言葉をもたないのだろう」
 そのことがザトにはふしぎにおもえてならなかった。集団生活を送る連中はほかにもいた。あの、雄牛の角をもってねじふせる大きな狩人たちもまた、ザトたちほど流暢ではないにしろ、言葉で意思を伝達する手段をもっていた。それにひきかえかれらは、狩りにでかけるときも、川で猟をするときも、むすっとだまりこんだままだ。連携がとれてないかというとそうでもなく、あれで結構集団行動がスムーズに運ぶからふしぎだ。
「きっとかれらは、心と心で、話しあっているんじゃないかしら。獣たちがよくやっているように」
 それにはザトもうなずいた。かれら同士でめったに諍いのないのも、心で通じ合っているからではと、じつは彼もおもっていたところだった。反対にザトの仲間たちは、ひきもきらず争ってばかりいる。言葉もまたかれらにとっては、争いの武器にほかならなかった。
「おれたちは、決断しなくちゃならない」
 いつまでも、ここにいるわけにはいかない。それはミコにもわかっていた。
 からだの奥底からつきあげてくる絶対的ななにかが、二人をむりやりかれらからもぎはなそうとしていた。
 翌日、狩りからかえった沈黙のかれらは、おもわぬ収穫に気をよくして、火を囲んで、酒をくみかわした。
 ザトたちもまた、輪のなかにまねかれ、新しい獣の肉をわけあたえられた。
 心優しいかれらの心づくしのもてなしに、またしてもザトは、このままここにいてなにがいけないんだと自問した。酔うにつれみんなは、火のまわりを踊りはじめた。ベニウが二人の手をひっぱり、踊りのなかにひきいれた。
 今宵はなにもかも忘れて、ザトもミコも、食べ物に、酒に、みんなとの踊りに酔いしれようとおもった。
 そのとき、するどくとがったヤリが、ビュンとうなりをたててとんできた。悲鳴をあげて、ひとりが倒れた。ヤリはそれからも何本もとんできて、つぎつぎと連中の胸板をつらぬいた。
 ザトはミコの手をとり、ちかくの藪ににげこんだ。襲撃者たちを藪の中からのぞきみたザトは、それがみな自分たちの仲間だと認識した。
「みなごろしにするつもりだ」
 残忍で、攻撃的なかれらのまえに、沈黙のかれらははなすすべもなく倒れていった。
「運命がわたしたちを、かれらからひきはなそうとしている」
 ミコのもらしたつぶやきに、ザトも大きくうなずいていた。
 二人はそれから、いやいやながらも、じぶんたちの仲間にくわわったり、はなれたりしながら、なんとか生きつづけた。心優しい人々は、しだいに数をへらしていきやがて、地上から姿をけしてしまった。
 遠い未来に人間たちは、かれらのことを旧人『ネアンデルタール人』とよび、ザトたちの仲間のことを、新人『ホモサピエンス』とよぶようになるが、むろんこのときのかれらがそんなことを知っているはずもなかった。


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このストーリーに関するコメント

13/04/23 鹿児川 晴太朗

拝読いたしました。
普遍的な意味の「新人」ではなく、「新人類」のように捻って書いてみようかなと思案していたところなので、正直「やられた!」とい感じです。笑
しかし、遠い過去の物語をこれほどまで美しく描くことはきっと自分にはできなかったと思わざるを得ない、素晴らしい物語でした。
現代、極端に優しい遺伝子を持つ「ウィリアムス症候群」と呼ばれる染色体異常の病症があるようですが、もしかするとそこにはネアンデルタール人の遺志が眠っているのかもしれない、とふと思いました。

13/04/23 名無

言葉があるから伝わるものもあれば、かえって伝わらなくなるものも在りますね。遥か昔の人々のことに想いを馳せることのできる素敵なお話でした。人間の本質についても考えさせられます。

13/04/24 W・アーム・スープレックス

鹿児川晴太郎さん、コメントありがとうございます。

軽妙洒脱な鹿児川さんの文体をもってすればきっと、もっと素晴らしい「新人類モノガタリ」ができていたと思います。そう思って、一手先に発表させていただきました。

名無さん、コメントありがとうございます。

人がまだ言葉をもたなかった時代は、心と心のつながりがはるかに親密だったのではないでしょうか。自然ともつよく通じ合っていたとおもいます。古代の人々の出来事を、想像力でよみがえらせる―――というより勝手に作り変えるわけですが、もしここにネアンデルタール人がいたら、「よけいなお世話だ」といわれるでしようね。

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