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リアルコバさん

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浅草太夫

13/04/21 コンテスト(テーマ):第二十八回 時空モノガタリ文学賞【 浅草 】 コメント:0件 リアルコバ 閲覧数:1758

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 浅草に花街が消えてからどのくらいになるのだろうか。新橋浅草柳橋と、その名を競った花柳界を支えて来たのもまた、浅草に店を張る旦那衆であった。そんな浅草旦那衆の物語である。


 雷門から仲見世を歩き伝法院の角を曲がると、鼈甲屋で老人が通りを睨むように見ている。
「ったく副業だか何だか知らねぇが何で俺が店番を だいたい彼奴がしっかりしねぇからこんなことに・・・」
 毎度の世迷い言は二天門に土産物屋を出した長男に向けられている。
『親父鼈甲はもう手に入らないんだよ 商売替えの時期なんだよ』
 何年も続いた確執は別の場所で商売を始めることで決着を見たわけだ。

 まだ陽のある時刻5時を過ぎると鼈甲店はシャッターを降ろす。仲見世に出て浅草寺を右手に周り浅草神社に手を合わせてから言問い通りを渡る。判で押したような行動は柳通りじゃ時計代わりでもある。
「千さん今夜はどちらへ」
「おぅ鳥勝行ってひっかけたら寄るよ」
「はい毎度お待ちしてますよ」
見番には昔馴らした芸者上がりの女将やママが暇潰しに立ち寄る時間だ。

 「おぅ腹減ったななんか喰わせろや」
 柳通りを右に折れるとすぐ鳥勝はある。
 「へい毎度 いつもので」
 瓶ビールはヱビスと決めている。夕飯は焼鳥三本とモツ煮込み、最後に煮込み汁のぶっかけ飯を流し込みものの十分で店を出る。
 「えっと・・・ 加代子か」
 御歳八十の和彦は鼈甲や千兵衛の屋号をとって《千さん》と呼ばれる大旦那である。
 「よぅ」
 暖簾を分けてまだ客の居ない店内は、白木のカウンターだけの小料理屋《加代子》だ。
 「千さんが口開けだなんて久し振り」
 「そうかい 毎日うろうろすっから何処に行ったか覚えちゃいねぇや」
 通しの山菜和えをつつきながらビールを注がれる。
 「ところでさ、知ってる?山本ちゃん 最近太夫の店の改装資金出したんだって」
 「なんだとぅ」
 思わずむせながら女将を睨んだ

 女将は楽しんでいる風である。男の子をけしかける女学生のような微笑みで続けた。
 「太夫も罪作りよ ねぇ」
 これは半分本心である。浅草太夫を名乗るのは当代一人。それは花街に住む女たちの憧れであり嫉妬の的、女将も若い太夫に追い抜かれた口である。



 「アハハ〜上手いやるなぁ」
 仲間内でカラオケに興じ軽薄に笑うのが山本である。
 「ママ 次俺ね あれで」
 洋品屋の二代目の山本は60歳、先代が浅草に起こした呉服屋を洋品店に変えて大当たりしたやり手ではあるが、浅草ではまだまだ新参者のひよっこだ。演歌主流のこの辺りでビートルズを英語で歌う輩であった。

 サビの部分を熱唱していた矢先である。
 「ごめんよ」 
 「あら千さんご無沙汰で」
 「なんだいこの軽薄な歌は」
 「あらのっけから口の悪いことで」
 山本は歌いながら和彦にぺこりと頭を下げた。

 カウンターに陣取り熱燗を頼んだ。
 「彼奴最近年増女に入れあげてるって話でよ」
 カラオケに飽きたママの顔は興味津々で和彦を見た。
 「えっ誰なの?」
 「太夫だとよ」
 大きな声で山本を振り向き睨みを利かす。軽薄な笑顔が近づいてきた。
 「千さんお久しぶりで まだまだお元気そうですな」
 「お前よく俺にそんなことが言えるねぇ」
 「おっかねぇなぁ なんですいきなり」
 「自分の胸に聞いてみな」
 「さぁなんのことだか わかりませんねぇヘヘヘ」
 「誰に断って太夫に銭出したあぁ」
 「滅相もない、だって太夫は昔千さんに引かれたって。いくら新参者でも引かれた女に銭出すほど野暮じゃありませんよ 確かに箔を付けるためにゃ太夫贔屓にゃなりてぇですよ」
 「分かっった風な口利きやがっつて・・・」
 和彦はそこでしばらく考えた。太夫を引きたかったのは山々だが一介の鼈甲細工屋にそんな金がある訳もなく、しかし若い頃についた嘘が今では伝説のように実しやかに定着してしまったのである。
 しかし振り上げた拳の降ろし処ろは見当たらない。
 「くそっ 表に出やがれ」

 火事と喧嘩は江戸の華 年寄りの喧嘩は裏浅草の名物である。
 「怪我しないでね〜」
 そう言いながら知り合いに見世物を電話するママである。
 野次馬が集まり朦朧とした罵り合いが曖昧に闇に消えていく頃のこと。

 「やめんなさい二人とも」
 「いよ浅草太夫」
 小気味のいい野次が飛んだ。
 「聞けばあちきの事での揉め事とか、嬉しくもない限りでありんす。あちきは今ではしがない女将、それでも腐っても鯛、年を喰っても太夫でありんす。誰の銭など受け取りましょうか」
 「いよっ日本一」
 野次馬たちから拍手が起こる。

 嘘も誠も鞘に収める太夫の粋が、男を作る浅草の街。


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