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miyahiyさん

性別 男性
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まってる

13/04/15 コンテスト(テーマ):第六回 【自由投稿スペース】 コメント:0件 miyahiy 閲覧数:1636

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佐藤君はいつも難しい顔をしていた。何を考えてるか掴むことができない。私と佐藤君は硬式野球部の部員とマネージャーという関係なのだけど、あんまり会話はしなかった。仲が悪いわけじゃないし嫌いってわけでもない・・むしろ私は佐藤君が少し気なっている。佐藤君は野球がすごいうまくて顔もいい。そんな彼は入学した時から女の子から人気があった。高校野球独特の文化である坊主というハンデを背負ってもなお女子からの人気は高かった。私と彼は違うクラスだから聞いた話でしかわからないのだけど、クラスで女子と喋ることはあんまりないらしい。でも男子同士で話しているときはとても楽しそうに時々爆発したような笑いをしている時もあるらしい。あくまでも全部人から聞いた話。私はそんなはしゃぐ彼をあまり見る機会がない。練習中はもちろん集中してるし終わったあともすぐに部室に帰っちゃうからあんまりじっくりと彼の表情を見る機会がない。「吉田さん、時間測ってもらっていいかな?」マネージャーとして私は時間を測ることくらいしかできない・・。スコアを書いたりはするけど練習中出来ることといったら、部室の掃除とストップウォッチを片手にみんなを応援するくらいかな。彼が近づいてくると少し嬉しくなる。何を言われるかはわかっているけど、その後に普通の会話に発展したりしないかな?なんて期待したりして。一言で去っていく彼の後ろ姿はとても可憐で勇ましくて、そんな彼に見とれてしまうのはいつものことで・・。私と部員があんまり仲良くなれなかったのは去年引退した先輩の一人が私の事を好きだったからなのかな・・。彼は私によくその先輩の事を良い様に話してきた。話してきたというのは違うのかな、メールでいつも先輩の優しいところを熱心に伝えてきた。先輩は3回も告白してきたんだけど、全部ふった。嫌いじゃなかったよ、でも好きじゃなかった。私は今まで年上の人としか付き合ったことがないから余計にイケると思われたのかも。彼が必死に伝えてくれた事、すごい伝わったけど複雑な気持ちになったんだよ。どうとも言い表せない心ってのがはっきりわかって、その心がとてつもなく悲しんでるのがわかった。彼は私のことなんか全く見てない、私なんかが割って入れる隙間はない。と、そう思う。でも彼には彼女はいないらしい。女子と喋らない性格の彼に気軽に告白する勇気のある人はなかなかいないみたい。でも私は知ってる、彼がすごく優しいことを。後輩想いのかっこいいキャプテンだもん。後輩たちもみんな彼をしたってる。みんな彼のこと好きなんだよね。私だけじゃない、みんなが。

夏の大会が終わった。結果は一回戦で接戦の末に負けた。轟々と照りつける日差しの下で泣き崩れる部員とマネージャー、監督が円を描いてミーティングを始めた。監督は少し口ごもっていたけれど、激励の言葉や厳しい言葉を心のままに部員に伝えていた。しゃべり終わるとキャプテンの彼に一言を言うように促した。「僕はこのメンバーで野球を続けられた事がとても誇りです、こんな頼りない・・・・・」話は一言ではなくこのあとも彼の思うままを話し続けた。最後に保護者からの祝福を受け解散になった。私は彼の泣く姿を見るのはこれで三回目だ。彼は先輩の引退の時も同じように泣いた。悲しいはずなのに彼の泣く姿は美しいと言いたくなるくらい綺麗だった。彼は監督に挨拶を済ましてこちらに近づいてきた。「吉田さん、本当にありがと。勝ってあげれなくてごめんね・・。」私は言葉が出なかった。涙だけがぼろぼろと落ちて喋ることができなかった。「ほんとごめんね。」彼も涙を浮かべながら紳士に謝っている。「全然いいよ、私ももっとサポートしてあげたかったのにごめんね。」彼は私の顔をじっくりと見ながらもう一度、ありがとうと口にして歩き出した。部員たちはここで解散なのだけど、荷物を片付けにみんな一度部室に行くらしい。私はそのまま帰ったほうが近いけど、彼に伝えなきゃならないことがある。だから私も部室についていくことにした。私たちの学校は5年制の専門学校だから、引退したあとも試合には出れないのだけど部活を続ける人は多い。だから彼もそうだったらいいな、なんて思ってる。そうしたら私もしょっちゅう部活に行くのに・・。1年生の時に彼に1度だけ聞いたことがある。彼は大学には行かずに就職するんだって。でも考えも変わってるかもね。どっちにしても5年までは同じ学校なんだし、大学行くんなら勉強大変だし部活は来ないかもだけどそれはそれで仕方ないかな。だから今伝えておきたい。みんなが部室の片付けをしている最中に私は彼にメールを送った。「話したいことがあるから、みんなが帰ったあとも残っててもらってもいい?」こんなの何話すかバレバレじゃないか。期待と不安で胸が押しつぶされそうになったけど深呼吸をして彼のもとに向かった。「どうしたの?」「え、いや、その・・。」言葉が詰まる。彼の目にはもう涙はなく、いつもの厳しい目でこちらをまっすぐに見つめている。「なんかあった??」彼は私の気持ちには気づいていない。「・・・」言葉が出てこない、逃げ出したい。やっぱり私なんかじゃ無理だ。「キャッチボールしたいなって、ほら一回もしたことないし!」そんな逃げ言葉でその場をしのごうとした自分に腹が立つ。「え、いいよ!俺も前からやりたいなって思ってたんだ!」彼は初めて満面の笑みを私に見せた。なんのくすみもない笑顔だった。「部員よりいいフォームじゃん!」「顔に似合わんいい球だな・・!」今の彼はよく喋る。すごく楽しい。飛び跳ねたいくらい幸せ。私は中学時代、ソフトボールやってたからキャッチボールは前からしたいと彼は思っていたらしい。いろんなことを話した。大好きだ。私は本当に彼のことが大好きでどうしようもないみたい。結局私は彼に思いを伝えることはできなかった。そして彼に信じたくないことを告げられた。彼は今年で学校をやめてセンター試験をうけるのだといった。そんな事考えてもなかった。五年まで続けて編入したほうが格段にいい大学に行けるのに。彼は大学でも野球をしたいから大学にセンター試験を受けて入ることを決めたのだ。彼の背中を追いつづけて気持ちを伝えることもなく終わってしまう。でも彼はその後から学校でも私を見かけると積極的に話しかけてくれるようになった。正直むなしい。辛い。でも彼と話せる時間はどんな時間よりも尊くて素晴らしい時間だと感じる。彼の言葉で抜け殻になった私はやっぱり彼を思って、彼を感じて、彼と喋って満たされていった。それからも彼と私はどんどん仲が良くなった。そして受験のシーズンがきた。彼は大学に合格した。とても嬉しかったのに、胸にぽっかりと穴があいているようだった。「受かったよ!」彼からのメールはとても文面からも嬉しさがにじみ出ていた。「おめでとう!!よかったね、私も編入するとき佐藤君と同じ大学行こっかなー?」冗談っぽくいたって本気の言葉を返してみると、うん、待ってるよ。そう彼は返信した。私は何故か涙が出た。こんな実現もしない事だってわかってるのに。それに大学へ行ってしまったら佐藤君だって彼女くらいすぐ作るのに。私はもう無理なのに。それからも関係は変わないまま終業式を迎えて、その4日後彼はこの街を出て行く。私はもちろん彼を空港まで見送った。彼に気持ちを伝えた。きちっと全部ありのままを伝えた。大好きだって、今もこれからもずっとあなたの事好きだったこの時間を忘れないって。「ありがとう。俺も好きだったんだよ」「キャッチボール誘ってくれたの、本当に嬉しかった。」彼は私に好きだったといった。確かにそう言った。こんな場面でこんなこと言うのはずるいよってそう思ったけど私だって一緒だった。両思いでありながらずっと互いに片思いし続けてたのかな。私がもっと早く伝えてればこんな風にはならなかったのかな。遠距離恋愛でもいいからってそう言いたかった。でも彼の顔を見ると新たな旅立ちに向かう勇ましい顔を見たら自然と口からその言葉が出るっことはなかった。「メール暇なときとかしてよな、待ってるから!」待っている。前にも言われたような気がするけど今回のは少し意味が違うよね。わかってるよ。だから待っててね!私は彼の後ろ姿を眺め続けた。新しい旅立ちの希望を乗せた飛行機は私を置き去りにして行く。私も何か新しい気持ちで伸びていく飛行機雲を追いかけていった。



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