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高く、高く、あがれ

12/04/21 コンテスト(テーマ):第三回 時空モノガタリ文学賞【 端午の節句 】 コメント:2件 ジョゼ 閲覧数:2447

時空モノガタリからの選評

最終選考

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「なんで、今日なんだろうなぁ」
「いつ終わるって言われても、なんで今日なんだろうなっていうんでしょ」

落ち着いては居るが、沈んだ声で初老の夫婦は呟いた。
茶の間に集まっているのは5人。
初老の夫婦と若い夫婦。高齢のおばあさん一人。
背の低いテーブルを囲んで4人、おばあさんは正座が辛いのか低いイスにゆったりと腰を預けてもたれている。
皆暗い顔をし、うつむく者、泣く者。

「ほんとに今日終わるとかね、世界は」

おばあさんが呟いた。

「国が発表するくらいだ、今日の夕方の5時に宇宙人が開発した新兵器が地球に打ち込まれる。威力的に人類は全滅らしい」
若い男性が返した。
政府からの発表が有ったのが3ヶ月前の事だった。
全国民怯えはしたがあり得ないと相手にしなかった。しかし発表は日本だけではなく全世界共通であり、核シェルターに避難する政府関係者を追うニュースや、宇宙人捕獲、宇宙人による人類誘拐の問題が一気に浮上し、宇宙人直々の音声で流された声明で、全日本人がこの自体の深刻さに気付いた。たった一週間足らずの事であった。
慌てふためく全人類であったが、逃げ場が無いと気付き、一ヶ月足らずで騒ぎは鎮静。実家に戻り家族と過ごすもの、全財産をはたき旅行に行くもの、先立つもの、それは様々であったが、大半は仕事にいったり家事をしたりと普段の生活を選ぶ者が多かった。
そして発表から約3ヶ月後、端午の節句である今日の午後5時、その新兵器が打ち込まれる予定であった。
現時点で午後2時。異様に静まり返った街全体が、不気味さよりも不思議な別れの匂いを感じさせていた。

「さとるは?」
「じいじといっしょに鯉のぼり見に行ってるわ」
「こんなときに…」
「こんな時だからよ、最後のこどもの日だからって、一番高いかい鯉のぼり買ってくれたんだから」
「さとるもまだ5歳なのにね」

若い夫婦と初老の女性が呟く。
じいじと呼ばれたのはきっと高齢のおばあさんの旦那さんであろう。
若い女性は滲んだ涙を、綺麗にアイロンのかけられたハンカチで拭うと、隣の旦那の手を強く握りしめた。
それに答える彼の手も、とても強かった。




「じーじ!じーじ!おさかなだ!」
「あれはさとるの鯉のぼりたい、おおきかなぁ」
「本当だ!おっきい!」
「もう少し高く上げてみようかね、そっちのほうが風も強か、もっと元気に鯉のぼりが泳ぐばい」

さとるはぴょんぴょんはねながら大きく揺らぐ鯉のぼりをきらきらとした目で見つめた。


「ほれ、すこしは高こうなった」
「すごいじーじ!でもちょっと見えにくいね」
「よかよか、みえるみえる。今日は高く上げなんとたい」
「どうして?」
「わしらの生きた明かしたい、ほら、もっと元気よくおよがんね!」


さとるはよくわからなさそうに首を傾げたが、すぐにまた目をキラキラさせながら鯉のぼりを見つめていた。
そら!とじいじに肩車をされるとさとるはさらに上機嫌になりはしゃいだ。


「およげーおよげー!」
「そうたいさとるの声はおおきかけんよく響く。高く高くあがんなっせ。もっと強く泳いで、ここに生きとるとよ。ここに生きとったとよ。って教えてやるとたい」
「およげー!あがれー!」
「よしいいぞ!」




ふたりの大きな声をかき消すように大きな風が吹いた。
あまりの強風にさとるはぎゅっと目をつぶり、じいじはわははと大きく笑った。

強く吹かれた鯉のぼりは、今までに無い程の力強さで大空を泳いだ。










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このストーリーに関するコメント

12/04/22 かめかめ

救いがない…(ToT)けど、いいと思う。けど、救いがない…けど…

12/04/23 ジョゼ

>かめかめさん
コメントありがとうございます^^結末に救いは無いかもしれませんが、最後の瞬間を大切にする話しを書いてみたいと思ました。

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