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実さん

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浅草占い日記

13/04/15 コンテスト(テーマ):第二十八回 時空モノガタリ文学賞【 浅草 】 コメント:0件  閲覧数:1742

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 悪魔なんていないと思うと同時に嫌な人に接する際無意識のうちに「死ねばいい」という感情が沸き起こっていることに気づいた時、すべてが光のうちに消え去ればいいと思った。そんな感情は顕れなくていいし、顕れたとしてもそれは私のホンネじゃなくって、何か別の、ユーレイのようにふいにやってくる雰囲気みたいな他人の感情だってことにすればいい、そう思い込むことに決めた、私。
 だってそう、ムースケーキが何段もフルーツやらスポンジの層に分かれてるみたいに私は体やら魂やら心やらたくさんの層が重なりあって出来ていて、全部が全部違う働きをするんだって思うとほっとした。つまりあれだ、私は体じゃなくって魂の方だし?体はよくわかんなくて勝手に病気になるわ、疲れ溜まったら言う事聞かないわ、こんなの私じゃないって思うもん。心だって本当はみんなに優しく笑顔で接したいって思ってるのにすぐに拗ねてムスーってするし、そんな時は私の、私の身体の一部を作ってる顔面が笑顔を作りたくてもヒクヒクってする。やっぱ私じゃない。
 となると私っていうのは魂なんだ、はははって話を実愈にしたら「変なの」って一言で片付けられた。やっぱ考えすぎなのかなって思うと同時にやっぱりその時私の心の奥底で鈍い闇がゾワゾワってまるで膨張するみたいに黒い風船になって膨れあがる。いつかそれが膨らみすぎて破裂しちゃうようなことがあれば、中から毒ガスが顕れて、私の身体を取り巻く空気からどす黒い悪者みたいなオーラが出てきちゃうんだ。隠そうとしても隠せないその人の本心というか、この人といると居心地悪いっていう感じ。
 ムースケーキに一刺しする。フォークの先端でグサってそこに私の心底に沸きあがりそうになった友人への憎しみを込めて、黒い風船が膨らまないようにガス抜きをしてやるんだもんね、なるべく気づかれないように、平静に、何でもなかったように、私の心の中の悪魔をムースケーキの中に押し込める。そして食べる。
 バニラの香りが鼻の穴からふーんって吹き出るみたいに強い甘みが私を癒してくれる。甘いものやっぱいいわー、って思いながらストレスをこうやって発散しすぎると太っちゃうのねって思いながら、なるべく早く悪いことなんて忘れる。憎しみなんてこの世界には必要ないのよ、私。だってそんなの露呈したってイライラが巡り巡ってまた私に返ってくるだけだもん。もし私がここで、「変なのって酷くない?」なんてこと言ったら次は実愈がピキーって頭に血が昇って怒りだすかもしれない。だから私はまるで天使みたいに、まるで人間じゃないみたいに笑顔を振りまくんだ。だからこの今という時も、実愈にはあなたといて楽しいんだよってアピールする。
 だってそういうの大事だもん。テヘ〜って笑顔を作れば勝手にそういう気持ちになって、本当に楽しいって思い込むことができるもん。これが光だもんね、私っていう光。これが私。



 ぶっ飛んだ娘もいるもんだ、って思いながら道端に落ちていた手記をまた元に戻す。ただこの浅草ならあり得るなって思いながら辺りを見渡す。占い師なのか見習いなのか四柱推命やら風水、手相・人相、気学九星、オーラ鑑定やらを掲げて座る人はいつも目にする。終電も過ぎた時間になれば占い師は引き、仲見世商店街にはホームレスが現れはじめる。
「ここはこういう街なんだ」稔は思った。「まるでこの街自体がサーカスだ。奇妙な人間が集ってくる。それが浅草」
 そう思いながら閉まった店のシャッターに凭れかかる。少しばかり酔いすぎたみたいだ。俺もストレスが溜まりすぎてるのか?一度座ったからにはもうしばらくは立つ事ができない。終電も逃したかと思ったら一人の女が近寄り声をかけてきた。
「あなた、なんか助けを求めてるみたい」一度俺の頭のすぐ上の宙を見渡したあとさらに続けた。「今の仕事変える時期が来てるんだって。なんだかあなたと私はここで会う縁だったみたい」
そう言いながら女は何事もなかったように、さっきの手紙をすっと拾った。


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