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川島天使さん

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第16回目の願いは、「大事なものがわかったとき、大事なものに救われる」

13/04/11 コンテスト(テーマ):第二十八回 時空モノガタリ文学賞【 浅草 】 コメント:0件 川島天使 閲覧数:1375

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全長2キロの仲見世通りを走り抜ける群衆の中に山田がいた。「あっ、山田だ!!山田だよ父ちゃん!!」幼い子供が嬉しいそうに指を差しながら訴える。「山田なわけがねーだろ、あれは・・・あれは山田?・・・山田じゃねーか!!」浅草寺へと通じる仲見世通り。年に一度の仲見世マラソン。浅草寺の雷ちょうちんに一番先に触れる事ができた者は、願いが叶う。そんな逸話が存在するのだが、意外とまんざらな話でもなく、過去27回行われてきたこのマラソン。触ったもの26人の願いがしっかり叶っていた。ただ一回を除いては。仲見世マラソンは、浅草に暮らす人々の最大のイベントであった。そんな伝統的なマラソンに山田は出場していたのである。山田という男は何ともだらしない男で、約束を守らない。嘘もつき放題。仕事もその日暮らしで朝から酒を飲む始末。現に今の姿も浮浪者同然。帯を結ぶ場所も腰ではなく背中。たびも履かずにボロボロの浴衣をビラビラさせながら、ふんどし丸見えで疾走中なのだ。しかしなぜあの山田が仲見世マラソンを走っているのか?山田は浅草寺を中心に浅草と名が入る所には出入り禁止のはず。団子屋に借金があるわ、物は壊すわ、住職に喧嘩を売るわやりたい放題だったからだ。そんな山田が浅草にいる。まずはそこから話を始めよう。一月前の事。いつものように朝から酒を飲みプラプラしていると、隅田川にポツンと浮かぶ小さな籠が流れてきた。これは大金が入っているに違いない。酔っ払いの考えはどうも理解しがたい。そう思い籠を取りに川の中へ。なんなく大金をゲットしたと喜ぶ山田の前に、「おぎゃ〜」という声が。蓋を開けると赤子がそこに。面倒はごめんだ、元に戻して帰ってしまおう。そんな最低の男山田。独身である。一度開けた蓋を閉め、川に流そうとしたその瞬間、「おぎゃーー、おぎゃーー」泣き叫ぶ赤子。土手を歩く人々からの突き刺さる視線。これはまずった。「よーし、いー子だねー。これが隅田川でちゅよー」さっき閉めたばかりの蓋を開け、天高らかに赤子を持ち上げる。どうしたものか、とんだ外れクジを引いたな。赤子の世話は絶対にできん。そう思っていた矢先、「たーくん」聞きなれた声に振り返る。山田太郎。それが本名なのだが、それを知っている者は少ない。そしてたーくんなんて呼んでくる女なんてたかが知れている。目の前に現れたのは、桃色の着物を着た冬子。「誰の子?」冬子は顔をしかめる。「いやなに、川から流れてきたんだよ。あと頼んだわ」山田は赤子を冬子に渡し、そそくさと立ち去ろうとしたが、袖が妙に重い。「あとは頼んだって言ってるだろ!!」罵倒する山田の振り返ったその先には、赤子の小さい手があった。しっかりと山田の袖をつかんでいる。「気に入られたみたいじゃん」冬子は嬉しそうに微笑んだ。それからというもの、山田の袖を絶対に離さない赤子は、着物を脱ごうとしても必ずどこかにしがみつく。髪の毛、腕、足、振り払うにも泣きじゃくる次第で、どーもうまくいかない。そんな日々が続く中、「願いが叶う、仲見世マラソン」の看板が目に飛び込んできたのだ。藁にもすがる思いとはまさにこのことだ。「もうこれしかない」別に喋るつもりはなかったが、声に出てしまうほど限界だった。食事ひとつとっても、ミルクしか飲まないから金がかかる。大好きな酒を飲んだのはいつの事だったろうか。思いだせやしない。仕事も赤子を背負いながらじゃ金にならないものばかり。よし、どうにかして浅草に入らねば。顔に泥を塗り、着ていた着物も売り払い、時期外れの安い浴衣を買う。またその浴衣にも泥を塗り、地面にこすりつけボロボロにした。この容姿なら、浮浪者だと思って誰も俺を見る事はないだろう。そうして迎えた仲見世マラソン当日。ランナーが赤子を背負って走ったら、注目の的じゃないか。浴衣をひっくり返し浴衣の中に赤子を隠す。落ちないようにと背中に帯でくくりつけた。ふんどしが丸見えだが走る時まで押さえてればいい。そうして時の鐘がなる。スタートの合図だ。群集が群れをなして浅草寺へ駆け抜ける。転ぶものもいれば、転んだものを踏みつける奴もいる。なんとも言えない残酷な風景に時折挫折しそうになるが自分のためだ。見物人の応援や、念仏を唱えるお坊さん。目の前で人が踏み潰されるのには目をくれない。すでに浅草寺はうっすら見えている。前には30人ほどのライバルが。もっと早く、もっと早く走らなければ。そう思った瞬間、山田は転倒した。赤子を背負ったまま。このままでは赤子が踏み潰されてしまう。しかし体がいうことを利かない。ほとんど全裸の状態で地面に倒れこんだからだ。足の裏からは血が流れ、体中が痛い。俺はもうどうなっても構わない、赤子だけは踏みつぶさないでくれ。その瞬間「おぎゃー、おぎゃー!!」赤子の声が響き渡る。必ず願いが叶う、浅草寺の雷ちょうちんまで。


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