1. トップページ
  2. 二アリーイコールのおしまい

多々さん

性別
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

1

二アリーイコールのおしまい

13/04/10 コンテスト(テーマ):第五回 【自由投稿スペース】 コメント:0件 多々 閲覧数:1602

この作品を評価する


 帰りさ、送っていこうか。

 雨が降りそうな曇天を目で追っている私の正面で、カレーライスに夢中になっていた彼がスプーンを忙しく動かしながら顔も上げずに言った。
「そうね、嬉しいけれど、大丈夫。」
空を見たまま返す。雨が降りそうなことを気にしているフリをする。実際のところ、顔を見たくなかった。顔も見たくないというわけではないが、ただ、5年前からあまり変わらない顔が今どんな顔をしているかなんて簡単に想像がついたのだ。

 ―そう。あ、水のおかわりください。
最近、ずっと続けていたジム通いを辞めてから横井は少し丸くなった気がする。頻繁に会っていた頃には気付けなかったような、ちょっとした変化が目につくほど私たちは会っていなかった。今さっき鳴ったばかりの、私を呼び出すための電話の「横井」の文字もなかなか久しいものだった。

 会う予定はなかった。ただ、雨が降ったので咲子さんを思い出したよ、と彼から連絡が入ったので、私は半ば義務のような気持ちでもう馴染みとなったカフェに向かったのだ。
―これさ、普通のより辛いよ。うまい。
額にかいた汗をおしぼりで拭いながら、嬉しそうに言う。今日初めて私の方を見た。横井はカレーが好きだ。特に辛いものが。

 いつだか、彼にカレーを作ってとせがまれ作ってやると咲子さんとカレーは同じくらい好きだ、と言われたっけ。

 ―咲子さんはさ、
サラダの中のキャベツの芯の部分にフォークを突き刺して弄んでいると、カレーライスを食べ終わった横井はおかわりした水を一気に飲みほしてから言った。
―もう少し、まあるくなったほうがいいよ。体型も、性格もさあ。
カレーの批評をするように言う。そんなこと、わかっている。細切りにしたニンジンはフォークの先では掬い取りづらく、追いかけてもすり抜けていく。横井は小雨の降り出した外の様子に顔を向け、降り出したね、と続けた。

―咲子さんがあとちょっと可愛らしかったら、僕たちはあとちょっと長続きしたかもしれない。
普通のより辛いカレーを食べ終わった横井は私の顔を見ることもなく伝票を持って立ち上がった。

 あ、私、振られたのか。

 彼は機嫌の良いまま会計を終えてドアを開けた。カランカラン、というベルの音と共に5年目に入っていた私と横井の付き合いは終わりを告げた。横井は最初から最後まで自由気ままな気分屋だった。きっと、送っていこうか、の問いにお願いするわと答えていたら別れはもう少し先だったのだろう。それでもそう遠くはないのだろうけれど。

 彼の性格からして、別れを今日突然決めたわけではないのだ。彼の中ではもう決まっていたことだった。フォークを手放して席を立つ。カランカラン。悲しくはなかった。いつからか惰性と化していた関係を、横井も私も少し煩わしく思っていた時期だった。

 小雨の降る中駅へと歩く私の隣を、横井が車で通りすぎた。私の方は向かなかった。少しだけ、助手席に座る私を想像して、やめた。

 彼は私とカレーをニアリーイコールだと言った。そういうことなのだった。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン