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松定 鴨汀さん

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がまぐちおじさん

13/04/08 コンテスト(テーマ):第二十七回 時空モノガタリ文学賞【 財布 】 コメント:2件 松定 鴨汀 閲覧数:1685

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 あなたの町にはもう『がまぐちおじさん』は来ましたか?
 おや、ご存じない?

 『がまぐちおじさん』は山高帽をかぶったおじさんでしてね。
 夕暮れ時によく現れるんです。
 学校帰りの子供たちが公園で散々に遊びつかれて、おなかもすいたことだしそろそろ帰ろうか、という気分になるころに、ふらっと現れてこうたずねるんです。
「がまぐちはいらないかい?」
 って。ふところから、手のひらにおさまるほどの小さな銀色に輝くがまぐちをとりだしてみせていうんです。
「このがまぐちがあれば、いつでも好きなときにお金をとりだせるんだよ」
 子供たちは「うそだろう」とか「ありえないよ」と言いながらも、わらわらとおじさんの周りにあつまります。
「使い方はこうさ」
 そう言って、おじさんはおもむろに、がまぐちを自らの手のひらに押し付けるのです。
 がまぐちはキラリと一番星のようにきらめいて、なんと、次の瞬間には手のひらにくっついているのです。
 そして、おじさんはもう片方の手をがまぐちにのばします。

 パチリ。

 がまぐちが小気味いい金属音をたててぱかりと開きます。
 子供たちはぎょっとしてあとずさります。
「痛くもかゆくもないんだよ」
 おじさんはそう言って、がまぐちの中に手をいれます。そして中から、ピシッと二つ折になった千円札をとりだしてみせるのです。
「このがまぐちは、お金がほしいと念じながら自分の体のどこかに押し当てると、たちどころにそこをお財布にしてくれるがまぐちなんだ。好きなだけお金をだした後はほら」
 がまぐちを閉じてきゅっと引っぱれば、がまぐちはいとも簡単に手のひらからはずれて、ただのがまぐちになるのです。
 もちろん手のひらには傷ひとつ残っていません。
 子供たちはすごいすごいと拍手喝采。
「ほしい子にはあげるよ」
 子供たちはわれ先にと手をさしだして、おくれおくれと大合唱。
 おじさんはほいほいと言いながら、ふところから次々とがまぐちをとりだします。
 不思議なことに、ふところは最初からぜんぜん膨らんでいる様子はないのです。
 それなのに、子供たちがどんなに多くても、かならず数は足りるのだそうです。

 すべての子供たちにがまぐちが行きわたると、おじさんは最後にこう言います。
「ひとつだけ、覚えておいてほしいんだ。このがまぐちは君たち自身をお財布にする。君たちがもっている健康や知恵や可能性をお金に変えるんだ。だから、欲をだして一度にたくさん取り出してはいけないよ」
 子供たちは、めいめい腕につけたりひざ小僧につけたりとはしゃぎながら、はーい、とうわのそらで返事をします。
 そしてあちらでもこちらでも、お金をとりだせた子供達の歓声があがるころには、いつのまにかおじさんはいなくなっているのです。



 これが『がまぐちおじさん』です。
 え? 会ったことがあるのかですって?
 いえいえ。うちは駄菓子屋をやっていましてね。
 これは全部、うちにやってくる子供たちからきいたんです。
 信じられないような話ですけど、どの子も体にがまぐちをつけててそこからぽいぽいと無造作にお札を出してくるのですから、信じないわけにはいきません。
 そのお金でチョコやらガムやら飴玉を買い食いしたり、おもちゃのあたるくじを引いたり、気ままに楽しんでいるのですよ。
 
 ……なんともうらやましい話ですって?
 最初のうちは私もそう思いましたさ。
 でもね、ある日、いつも手のひらにがまぐちをつけている子が、肩にがまぐちをつけてきたんです。
「飴玉ちょうだい。お金は、ここからあけてとりだして」って。
 なぜ自分でやらないの、ってたずねたら、
「手が壊れちゃったの」
 って、それまでがまぐちにしていた手を見せてくれました。
 ええ、それはもうひどいものでしたよ。手のひらの骨が粉々になっているのか、手袋のように指先が力なくぷらんぷらんと垂れ下がっていて、その肌はまるで老人のようにしわしわにくすんでいて……
 きっと、財布にしているうちに、手の価値がすべてお金にかわってしまったんでしょうね。
 どの子も似たり寄ったり、そんな具合で。
 でも、それでも買いにくるんですよ。
 ひざが壊れた子なんか、車椅子を買って、それに乗ってやってくるしだい。
 かわいそうなものです。

 え?なんでそうなる前にやめさせなかったのかって?
 なんだかんだ言っても、こっちも商売です。お金があればお客様。
 ですから、ね、あなたの町にも『がまぐちおじさん』がきたら、私みたいに駄菓子屋におなりなさい。
 きっとおじさんからがまぐちをもらうよりも楽にお金が手にはいりますよ。


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このストーリーに関するコメント

13/04/09 光石七

拝読しました。
がまぐちおじさん、子供にとっては魅力的ですね。大人でもそうかもしれません。
でも、お金の代償が…
一応忠告はしてくれていますが、欲を止めるのは難しいもの。
シュールで、一種の警告のようなお話だと思いました。

13/04/23 松定 鴨汀

光石七 様
ご感想ありがとうございます

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