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ポテトチップスさん

20代の頃、小説家を目指していました。 ですが実力がないと自覚し、小説家の夢を諦めました。ですが久方ぶりに、時空モノガタリ文学賞に参加させて頂きます。 ブログで小説プロットを公開してます。ブログ掲載中のプロットを、小説練習用の題材にご自由にご利用下さい。http://www.potetoykk.com

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(呪上巻) ・ (呪下巻)

13/04/08 コンテスト(テーマ):第二十九回 時空モノガタリ文学賞【 手紙 】 コメント:0件 ポテトチップス 閲覧数:1826

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『私は明日、自殺します。彼に裏切られた私は、もう生きる希望が持てません。だから明日、自殺します。彼が憎くてしかたがありません。私は悪霊となって、彼を呪います。 
2001年 6月8日 田中美幸』


墨田図書館の入り口を抜けると本の匂いがたちこめ、柿野亮平は大きく鼻から空気を吸った。子供の頃から図書館の匂いが何よりも好きだった。
大学へ進学するため東京に上京したのは今から2年前の春先のことで、一人暮らしを始めて2年が過ぎたことになる。
大学が休みの休日は毎週といってもよいほど、墨田図書館に本を借りにいくのが常だった。
この日の土曜日も本を借りるために墨田図書館を訪れたわけだ。
小説が並べられている本棚に向かい何を借りようか悩んだ。とくに好きな作家などはいなく、誰の書いた本でも数ページ読んでみて気に入れば読むのが柿野だった。
30分ほど何を借りようか悩んだ末、初めて名前を目にする作家の『呪』という本を借りることに決めた。
純文学作品のようだがタイトルが気になったので、上下巻あるうちの上巻を受付カウンターで借りた。
さっそく家に帰ると、コーヒーを飲みながら『呪』を読みはじめた。
ページを読み進めながらあまり面白くないなと思ったが、とりあえず最後まで読むことに決めた。
103ページ目を捲った時、何かが仰向けに寝そべって読んでいた柿野の顔に落ちてきて、柿野は思わず目をきつくつぶった。
体を起こし落ちてきた物を手に取ると、折り畳んだ一枚の手紙だった。
広げて書かれている文字を読むと、気味の悪い文章が書かれていて思わず顔を歪めた。
きっと誰かが悪戯で書いたのだろうと思うことにした。

『私は明日、自殺します。彼に裏切られた私は、もう生きる希望が持てません。だから明日、自殺します。彼が憎くてしかたがありません。私は悪霊となって、彼を呪います。 
2001年 6月8日 田中美幸』


翌日の東京は朝から厚い雲が空を覆っていた。
昨日借りた『呪』を読みきっていた柿野は、墨田図書館に本を返しに行った。
本を返却する手前、なんとなくあの気味の悪い手紙を抜き取って受付の担当者に本を返却した。
昨日この手紙を読んでから、本の内容よりもこの手紙の内容のことのほうが気になっていた。誰かの悪戯だろうと思ってはいたが、気味の悪いモヤモヤとした気持ちは消えなかった。
本を返却した後、過去の新聞が閲覧できるコーナーに向かい、今から12年前の2001年6月9日の新聞を探すと、どうやら保存されていた。
悪戯であって欲しいと願いつつ事件欄を探っていると、『墨田区OL練炭自殺』という記事が目に入った。
柿野の心臓の鼓動は大きく鳴り出した。まさか…と思った。
さらに記事を読み進めると強い衝撃に軽い眩暈を感じた。なぜなら、記事に書かれている死亡場所は柿野の住むアパートだったからだ。
自分の住むアパートの別の部屋で、12年前に女性が練炭自殺をしていた事実は、柿野の心を今日の空模様のように分厚く重い灰色に染めた。
新聞を元あった場所にしまい帰ろうとしたが、なんとなく『呪』の下巻を借りて帰ろうと思い立った。
上巻を読んでみて面白くないとは思ったが、なんとなくストーリーの続きが急に読みたくなったからだ。
下巻を受付で借りて自宅アパートに帰った。
女性が自殺した1階の102号室は空室だった。思えば、柿野が105号室に入居した時から102号室は空室のままだった。
こんな自殺した部屋に住みたくないよなと思いつつ、このアパート自体にも住みたくないよなと思った。お金があれば今すぐにでも引越ししたい気分だった。
鍵を開けて部屋に入り、窓を全開にした。
5月の暖かいちょっと湿った空気が部屋に入り込んで来た。
柿野は借りてきたばかりの下巻を読み始めた。
読みながらやっぱり借りてくるんじゃなかったなと思った。つまらなかった。
144ページ目を捲った時、仰向けに寝そべって読む柿野の顔にまた何かが落ちてきた。
またか…と思いつつ、恐る恐るその手紙を広げて読んでみると、恐怖のあまり体に鳥肌がたった。

『俺は明日、自殺します。なぜなら美幸の自殺によって、俺は周りの奴らから人殺しと罵られるようになったからです。この本の上巻に挟まっている美幸の手紙を友人から教えてもらって読んだ時、俺はもう生きる希望が失せました。美幸が自殺したことには驚いたけど、俺が美幸に何をしたっていうんだよ。俺はただ、別に好きな人が出来たから美幸に別れを告げただけだろ…。美幸が憎くてしかたがありません。俺は悪霊となって、美幸の家族を一人一人呪います。
2002年 2月5日 秋田卓郎』

柿野亮平は『呪』の下巻を読むのを止め、女が生前に書いた手紙と男が生前に書いた手紙を、同じ下巻の144ページ目に挟めて本を閉じた。

終わり



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