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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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木の葉のラブレター

13/04/08 コンテスト(テーマ):第二十九回 時空モノガタリ文学賞【 手紙 】 コメント:16件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:2565

時空モノガタリからの選評

最終選考

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 さつき山は、熱いまなざしをなげかけた。
 その視線のさきには、自分よりはるかに高い背の、見栄えも雄々しい六甲山がそびえていた。
 なんて男らしい方かしら。
 みるからにどっしりとした、そのたくましさ。頼りがいがあるとは、このような山のことをいうのではないだろうか。
 毎日、ながめているうちにさつき山は、すっかり彼のとりこになってしまった。
 なんとかこちらの気持ちを伝える方法はないものか。
 何日も考えたあげく、彼に手紙を送ることを思いついた。
 山がいったい、どんな手紙を送るのだろう。知らない人は、首をひねるにちがいない。便箋はどうするのだ。封筒は、切手は?
 そんなもの、いりはしない。
 山には木の葉がいっぱいある。この木の葉を手紙にして、六甲山まで風にのせて送ればいいのだ。
 けれども、恋する気持ちを伝えるには、ただ葉っぱを送ればいいというものではない。
 それでさつき山は、秋まで待って、木の葉が情熱の紅い色に染まるまで待つことにした。三か月のあいだ、ひたすら待ちつづけた。ようやく、蝉も鳴きやみ、山に涼しい風が吹きはじめ、人々が紅葉をもとめて上ってくるようになった。春は桜、秋は紅葉で賑わうさつき山は、このいつまでも衰えをしらない美しさに、なんとか六甲山の心をひきつけたかった。
 まっかにいろづいた木の葉の手紙を彼女は、ていねいに枝からはなし、さらさらさらと、かなたの六甲山めざしてとばしはじめた。
 何日も何日も、木の葉をとばしつづけた。ある日山に上がってきた人々は、まだ冬でもないのに枝に、一枚の木の葉もついてない何本もの木をみて驚いた。六甲山を恋い慕う気持ちは、そのぐらいつよいものだった。
 さつき山は、彼から返事がくるのを待った。
 ひと月たち、ふた月たち、み月がたった。もうすっかり辺りは冬で、はやくから枯れ木がふえていたため彼女は、とうとう熱をだしてしまった。
「さつき山さん、元気がないわね」
 声をかけてきたのは、隣の箕面の山だった。行楽のシーズンには、集まってくる人々の数を競うライバルの山だけに、さつき山は弱みをみせたくなかった。
「べつに。雪でもふりはしないかと、空模様をみていただけよ」
「あら、そのわりには目は、むこうの山に向いていたようだけど」
 図星をさされてさつき山はうろたえ、とっさの思いつきを口にした。
「六甲山の方にとんでいった木の葉は、どうしているかしらと、おもいをめぐらしていたところよ」
 箕面の山は、それをきくと大声で笑い出した。
「届くわけないでしょ。だって、六甲おろしがふいてみんな、山の手前で落ちちゃうもの」
「そんなこと、わかってるわよ」
 とぼけてみせるさつき山だったが、心の中ではほっとしていた。木の葉のラブレターは、相手に届いていなかったのだ。
「あ、どこへいくの」
 いきなりさつき山が歩き出したのをみて、箕面の山は目をまるめた。
 さつき山はしかし、なにもこたえることなく、六甲山をめざした。
 木の葉の手紙が届かないとなると彼女はもう、じっとしていられなくなった。彼のところまで歩いていって、直接、思いのたけを伝えてみよう。熱い恋心は彼女を、たちまち六甲山の前までかりたてた。
 しかし、彼の姿を目のあたりにして、さすがにさつき山はためらった。しばらくのあいだ、山裾に目をおとし、もじもじしていた。
「あれ、あなたは?」
 六甲山から声をかけられ、これ幸いとばかりにさつき山は、一気にまくしたてた。
「とつぜんの訪問をおゆるしください。私、向うのまちからきました、さつき山です」
「存じています。きゅうに、どうしたの?」
「私、あなたの男らしさに、魅了されました。秋に、その思いを託して木の葉の手紙を送ったのですけど、みんな六甲おろしにふきおろされて、届かなかったものですから、こうしてやってきたしだいです」
「あらまあ、それは、それは。だけど、ごめんなさい」
「え?」
 相手の、女のような口調に、さつき山はとまどった。
「私、男装しているけど、本当は、あなたとおなじ女なの。すぐそばの、宝塚のファンでね、それも男役の。それであなた、勘違いしたみたい。気の毒なことしちゃったわね」
 深々と頭をさげる相手に、さつき山はなにをこたえていいかわからなかった。
 さつき山は、足音を忍ばせて、自分のまちにかえってきた。このことを箕面の山がしったら、何をいわれるかしれなかった。
 さつき山が、もといた場所に座りこむと、冷たい風がふいてきた。みると、六甲山の頂き辺りが、雪で白くなっている。やがてその雪は、こちらにもふりはじめるだろう。
 またいつか、木の葉の手紙を送る相手をみつけよう。
 さつき山は、こんどは見誤らないよう目をこらして、まわりの山々をじっくりとみまわした。
 

 


 
 


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このストーリーに関するコメント

13/04/08 こぐまじゅんこ

w・アーム・スプレックスさま。

拝読しました。
すごい発想力ですね。
山が恋をするなんて。

富士山が見えたら、きっと、さつき山は恋するでしょうね。

13/04/08 W・アーム・スープレックス

こぐまじゅんこさん、コメントありがとうございます。

あいにく、さつき山から富士山はみえません。歩いていくには、ちょっと遠いです。
山に心があったら、やっぱり恋ぐらいはしてほしいです。

13/04/08 光石七

拝読しました。
山が山に恋する、ロマンチックなお話だと思っていたら、意外なオチでした(笑)
六甲山、宝塚が好きなんですね。私もファンですけど、山が男装とは…
でも、木の葉のラブレターって素敵だと思います。

13/04/08 W・アーム・スープレックス

光石七さん、コメントありがとうございます。

どうせ書くなら、おもいっきりやってやれとおもって、この作品ができました。こういうときは、常識とはすっぱり手を切ると、案外すらすら、あることないことが浮かんできます。

13/04/09 名無

山も恋したりライバルがいたり大変なんですね。笑
それとも、恋をするからこそ、あんなに秋の紅葉や眺望が美しくなるんでしょうか。

13/04/09 W・アーム・スープレックス

名無さん、コメントありがとうございます。

恋をするから………美しくなる。標高200メートルほどの、そんなに高くはなくても小粋で、穏やかなさつき山が、それを聴いたらきっと、照れながら、喜ぶことでしょう。

13/04/09 yoshiki

読ませていただきました。そのスケールの大きさに脱帽です。

自然や物に人格を持たせると、とても面白いものができるという見本のようなお話だと思いました。なるほど木の葉のラブレターがしゃれています。楽しかったです(*^_^*)

13/04/09 W・アーム・スープレックス

yoshikiさん、コメントありがとうございます。

作品に登場する山はどれも、子供のころから慣れ親しんだ山ばかりで、私の中では友達のようなものです。たのしくみんな遊んでくれました。

13/04/10 草愛やし美

W・アーム・スプレックスさん、拝読しました。

なんと、すぐそばの山々の話にびっくりしています。
池田の五月山は、六甲山に、へ〜という驚きです。箕面や宝塚まで出て来まして、にやにやと顔がにやけてしまいました。甲山が隠し子だったなんて噂も出てきそうな気配ですね。誰の、隠し子ですって? それは、内密に。大阪城の密偵が、聞いているやもしれませんから。(笑)
面白かったです、山々を見る目が変わりそうです。

13/04/10 W・アーム・スープレックス

草藍さん、面白く楽しいコメントありがとうございます。

五月山と書いたら、万が一「ごがつやま」と読まれるかもとおもい、かなにしました。
もしかしたら、阪急沿線のどこかで、すれちがっているかもしれませんね。

13/04/11 W・アーム・スープレックス

メガネさん、コメントありがとうございます。

いつもこんなにコメントをいただいたことがないので、おどろいています。
スケールがでかいわりには人間臭いふるまいの山たちがこれを知ったら、三者三様に喜んでみせることでしょうね。

13/04/12 鹿児川 晴太朗

拝読しました。

山が恋をするという発想が素敵なのはもちろんのこと、木の葉を風に乗せて恋文の代わりにするという手法がロマンチックすぎて感心してしまいました。
女装オチもしっかりと「宝塚」という理由ありきだったので納得のいかない箇所もなくて、驚嘆の想いです。
また、兵庫県民である自分には馴染の深い名前が出てきたので、これからは今までとは違った気持ちで山々を見上げることができそうです。

13/04/12 W・アーム・スープレックス

鹿児川晴太郎さん、コメントありがとうございます。
近県の方からのコメントですので、なおさら嬉しいです。
自分ではごく当たり前に書いたつもりですが、そんなに驚嘆していただけるとは思ってもみませんでした。登場する山々も、宝塚も、ごく身近な存在なので、こんなに気安い感覚で描けたのかも知れません。

13/05/06 汐月夜空

拝読しました。
なんていう素晴らしい発想力。脱帽です。
山が恋をするという発想はいまだかつてしたことがなかったです。ですが、木の葉の手紙をはじめとして考えると、皆様の感想にもあるように、山がきれいなのは恋をしているからなのか、と思わず手を打つお話でした。
歩くという場所があったので、山として存在している登場人物たちは人型として存在しているのかなあ、なんて想像も出来て面白かったです。

13/05/09 W・アーム・スープレックス

汐月夜空さん。こんにちは。コメントありがとうございます。

この作品のような発想は、そういつもできないところがネックです。駄作、駄作の間に突然発生的にできたりして、まさに予測不可ともいえる作品です。

汐月さんも、ずっと、作品発表をつづけておられるようで、創作仲間としてこちらも励みになります。お互い、さらなる向上をめざしましょう。

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