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鮎風 遊さん

この世で最も面白い物語を見つけ出したい。 そのために、ひとり脳内で化学反応を起こし、投稿させてもらってます。 テーマに沿った個別物語の他に、いくつかのシリーズものをコツコツと書き続けさせてもらってます。 その主なシリーズものを紹介させてもらいます。  ☆❤☆❤☆ 新シリーズ 『ツイスミ不動産』 __ 2017.07.16よりスタートさせてもらいました。 カサリンとクワガタ野郎があなたが求める終の棲家を紹介いたします。  ☆❤☆❤☆ 『刑事 : 百目鬼 学(どうめき がく)』 __ 2017.05.21 ただ今、27話 __ 1話完結の2000文字推理小説です。この少ない文字数の中で、百目鬼刑事と部下の芹凛(せりりん)がいかに事件を解決していくか、その醍醐味を味わって頂ければ、光栄です。 これからも引き続き難しい事件に挑戦して参りますので、よろしくお願いします。  ☆❤☆❤☆ 『漢字一文字の旅』 __2017.04.04 ただ今、連載41__ 漢字にまつわるエッセイです。  ☆❤☆❤☆  『歴詩』 __歴史上の人物になりかわって、その波瀾万丈の生き様の思いを詩に綴らせてもらってます。 本作品については、フォト音(on)小説という形で、you tubeにもUPさせてもらってます。 詳細はこちらHPです。  ☆❤☆❤☆  http://ayukazeyuu.net/index.html  ☆❤☆❤☆                         よろしくお願いします。              

性別 男性
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明朝体ワールド

13/04/07 コンテスト(テーマ):第二十八回 時空モノガタリ文学賞【 浅草 】 コメント:6件 鮎風 遊 閲覧数:3351

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 何かが変だと思っていた大樹、雷門の大提灯を見上げたまま固まってしまった。
「節子、これって、いつもと違うよな」
 久々に休暇が取れ、婚約者の節子と浅草へと出掛けて来た。結婚を三ヶ月後に控え、幸せな家庭が築いて行けるようにと、浅草寺(せんそうじ)の本尊・観世音菩薩さまに祈願しに来たのだ。
 だが、大樹は雷門の前で突然立ち止まってしまった。節子が「提灯は、何も変わってないわよ」と不思議そうに大樹の顔を覗き込む。
「よーく見てごらん。文字がいつもの提灯書体ではなく、これって、多分……明朝体だよな」
 大樹は首を傾げ、赤提灯に『雷門』と書かれた黒文字を指さす。しかし、節子は別段驚く風でもなく、小さな声でささめく。
「あら、大樹、今さら何言ってるの。私たちは明朝体ワールドにいるのよ」
「えっ、明朝体ワールドって……?」
 大樹はきょとんとし、そこへ節子が言ってのけるのだ。
「だって、ゴシック体世界は堅過ぎるでしょ、それに行書体ワールドは柔過ぎよね。明朝体ワールドが一番居心地が良いのよ」

「えっ、アサクサで、ドサクサに、明朝体ワールドって?」
 大樹は思わずオヤジギャグ含みで聞き直したが、すでに節子は明朝体ワールドにゾッコン状態。よく理解できないが、そうなのかも知れない。
 そう言えば、今思い当たる。朝電車に乗ってから大樹の目に入ってきた文字、それらすべてが明朝体に変わっていたのだ。駅名も車内の広告も、駅そばの看板までもがだ。
 とならば節子が話すように、俺は今、明朝体だけの世界にいて……、ここに住む節子と会ってる……って、いうことなのか?

「大樹、何をぶつぶつ言ってるのよ。さっ、行きましょ」
 節子に腕を引っ張られ、大樹は明朝体フォントの大提灯の下をくぐった。そして賑わう仲見世を通り抜け、本堂へと向かう。
 確かに、目に入る看板も店内のメニューまでもが、すべて明朝体。これが現実、節子が言う通り、ここは明朝体ワールドなのだ。
 しかしだ、単一フォントだけではこの世は面白くもないし、情緒もない。
 それなのに、俺はなぜこんな世界に紛れ込んでしまったのだろうか?
 朝起きてから何か普段と変わったことをしてしまったのだろうか?
 順を追って振り返ってみると、するとどうだろうか、一つだけあった。それは電車に乗るため、いつも右から二つ目の改札を通る。しかし今日は、そこがトラブっていた。そのため一番左端の改札を通り抜けた。
「そうだ、わかったぞ! あの左端の改札は、明朝体ワールドへの入口だったのだ」
 こう気付いた大樹、謎が一応解けホッとする。しかれども事態は深刻だ。
 このまま観音さまに二人の幸せな結婚をお願いしてしまえば、現在の延長で、一生涯……明朝体のフォントだけしか存在しない世界で生きて行かざるを得なくなる。ちょっとこれはまずいことに。あーあ、どうしようか?
 ヨシ! 今すぐ節子を連れて、左端の改札を反対向けに抜け、元の世界へと逆戻りしよう。
 こう決断した大樹は節子の手を取り、電車に乗り、入口、いや出口となる、その改札を走り抜けたのだった。

 ジジジーーーー。
 大樹は「ウッセーなあ」と唸り、枕元で鳴る目覚まし時計を止めた。そして目をこすりながら「えっ、これって夢だったのか?」と、まずは一安心。
 しかし、この夢って正夢、充分あり得るストーリーだ。大樹は早速節子にケイタイを掛ける。
「なあ、節子、今日浅草へ行くだろ。現地集合じゃなくって、駅前で待ち合わせしないか」
「いいわよ、だけどどうしたのよ」
「頼みがあるんだよ、右から二つ目の改札を、一緒に通って欲しいんだよ」
 こんな大樹の求めに「大樹は住む世界を確定したいんだね」と、節子から思わぬ言葉が返ってきた。まるで大樹が見た夢を知ってるかのようだ。
 大樹の脳はこれで余計にこんがらがったが、もし節子が左端の改札を通れば明朝体ワールドへ入ってしまう。そして明朝体ワールドがお気に入りなんて嘯(うそぶ)く節子を取り戻すのは、またまた大変だ……と、とにかく心はせくばかりだった。

 そして2時間後、大樹は節子と駅前で落ち合った。そこから二人で右から二番目の改札を通り、浅草へとやって来た。
大樹は今、大提灯を見上げている。そしてフーと大きく息を吐き、しみじみと呟くのだ。
「カッコ良い書体で、『雷門』と書いてあるよな。明朝体でなくって良かったよ」
 これに寄り添っていた節子が、大樹の手をしっかりと握る。
「友達が話してたわ。左端の改札は、明朝体だらけの世界への入口なんだって。危なかったわ、だけど今日、右から二つ目の改札を通って、浅草に来て、観音さまに私たちの結婚をお願いしたから。いろんなフォント花咲く世界で、楽しく一緒に暮らして行けるわ。さっ、確定しに行きましょ」


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このストーリーに関するコメント

13/04/12 泡沫恋歌

鮎風さん、拝読しました。

泡沫恋歌は明朝体が好きで結構使います。
ゴシック体はゴツゴツした感じなのであまり好きじゃない。
行書体は和風過ぎて、俳句や短歌向きかな?

面白い着想だと思いました。

13/04/21 草愛やし美

鮎風遊さん、拝読しました。

面白いワールドですね、ゴシック体しかなかったら、角ばった世の中になっていたことでしょうね。みんなお役所の役人顔して、エヘンと咳払いなぞしながら、挨拶する。「おはようございます。本日は晴天なり、あーあー」なんてね。
明朝体は私は好きです、使う人は、行書体は女性的? ゴシック体は男性的? だとしたら、明朝体は……中間? えっ、ってことは、どうなってしまうのでしょう。かってな想像して楽しんでしまいました。

13/04/29 そらの珊瑚

鮎風さん、拝読しました。

パソコンのおかげで世の中にこんなにもいろんな書体があったことを知りました。確かに内容に向き、不向きの書体ってありますね。
面白かったです。

13/11/30 鮎風 遊

泡沫恋歌さん

コメントありがとうございます。

明朝体ワールドがお好みなんですね。
鮎風は DHP平成明朝体W7、祥南行書体P の世界でよく遊んでます。

13/11/30 鮎風 遊

草藍さん

確かにゴシック体はカクカクとしてますね。

明朝体はほど良い柔らかさ、好まれてますね。

13/11/30 鮎風 遊

そらの珊瑚さん

そうなんですよね。
パソで字を書くようになって、こんな世界があったのを知りました。

HPの文字など、なかなかあるようで。

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