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リアルコバさん

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流浪の財布

13/04/07 コンテスト(テーマ):第二十七回 時空モノガタリ文学賞【 財布 】 コメント:0件 リアルコバ 閲覧数:1714

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《カンカンカン》鐘を打ち鳴らす自分の顔が、とてつもなくだらしない笑顔になっているのが解る。予想以上の初値が付いた。一瞬にして巨万の富を獲た瞬間だった。

「株式上場おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「今後の展望を聞かせて下さい」
「いや今までと同じで面白いものを作るだけです」
「ゲーム作りはいつ頃から始めたんですか」
「高校の頃でしょうか、まぁ本格的に考えたのは大学卒業した頃ですけど」
「何か切っ掛けはあったんですか」
「オタクでしたからね、学生時代は独りシコシコ自己満足用に改良したり、その後クラウドが出来たでしょ、あぁその頃財布を拾いましてラッキーだなって、今だから言えるけど・・・」
経済誌のインタビューに調子に乗って答えていた。



「ホンマに持ってへんのやな、此処でも部屋でもワシらが見つけたら只ではすまへんぞ」男の眼は冷たく静かに刺すように僕を射止めいる。
「本当に無いです、無くしたのか捨てたのか・・・」
社長室は天井裏まで若衆が確認して首を振る。セキュリティの高いこのビルをアポイントもなくやって来たこの集団は、セレブ気取りの高層マンションの僕の部屋にも簡単に入り込んで居るのだろう。
「ほうか判った、ほな撤収や」
携帯を閉じて男は云った。
「ホンマ無かったらしいわ、部屋ガタガタになっとるけど堪忍せぃや、まぁ盗みはしてへんから安心し」
刺すような眼がほんの少し柔らかに見えた。
「お前ホンマ知らんのか」
「だから無かったでしょ、引っ越す時に・・・」
「ちゃうがなあの財布の正体の事や」
「正体?」
「まぁもし捨てたんやったら気ぃつけや」
パタン・・・ドアは閉まりようやく安堵で身体が弛んだ。
(なんだあいつらは・・・どう見てもヤクザ・・・)



ごみ袋を突つくカラスが焦げ茶色の革財布を引きずり出すと、その先にあるステーキ肉にあり付いた。満足げに肉をくわえたカラスが去ると、登校中の女子高生が財布に気付く。
(えっゴミ?・・・)手に取った時
「おはよう先行くぞ」
憧れの先輩が自転車で角から姿を表した。
慌てて財布をバックに入れて、
「おはようございます」
後ろ姿に挨拶をした。
《キーッ》「乗っていくか」
彼女にとって夢のような言葉だった。



まるで戦場の様に散乱した部屋を想像したが、部屋に入ると思いの外荒らされた様子もないが、明らかに物色の形跡がある。ソファーに座り順序たてて考えた。

今朝株価が急落してがっかりした直後、アポもなくあの男逹はやって来た。
「茶色い財布持っとるやろ」
「はっ?」
一瞬経済誌を読んだ別の記者かと思ったが
「こげ茶色の財布やがな、持っとるならすぐ出し」
サングラスを外した眼はその筋の者ですと自己紹介した。
「ありゃウチの3代目がもっとった物でな、なんでも夢を叶えてくれる化け物財布なんや・・・あれがあれば天下が取れる」
男が喋る間無言で若衆が部屋を物色して回った。


(化け物財布・・・)そう云えばあの財布を拾ってから人生は一変した。貧乏性故に捨てられず机の引き出しに入れていた筈だ。
「先輩クラウドです クラウドこれが使えれば配信できます」
「このゲームうちで売らせてくれませんか、その為に会社作りましょう」
「上場しましょうよ、資金力付けて新たなシステム構築して・・・」
小さなワンルームで自己満足用に作っていたゲームである。それが望んだわけでもなく1LDKの部屋と古い事務所を持つようになり、一昨日高層マンションの最上階と都心の広いオフィスに変わったのだ。
(あっ・・・)
「この机は?」
「あぁガラクタばかりだから中身ごと捨てといて・・・」
(やっぱり捨てたんだった)


「先輩ありがとうございました」
(素敵、朝二人乗り登校出来ただけで夢のような一日なのに帰りも送ってくれるなんて)
顔が赤くなっていることを気にしながら女子高生は先輩を見送った。
(あっ)カバンから鍵を取り出そうとすると薄汚れた茶色い財布が手に触れる。
(忘れてた・・・)なんだか気持ち悪くなり近くの公園のゴミ箱へ捨てた。



青天の霹靂だった。突然株主から社長解任の緊急動議を突きつけられ、僕はたった一週間で会社から去る事となったばかりか、背任容疑まで掛けられている。
これから僕はどうなっていくのだろうか。


公園のゴミ箱で財布を見つけた浮浪者は歓喜した。
(おいおい俺にもツキが回ってきたか、1000円でもありゃ白い飯が食えるぞ) 
人目のつかない場所に移動してそっと財布を広げたが、中身がないことを知ると路上の植え込みに捨てた。


女子高生は明日も夢の一日になることをひたすら夜空に祈りながら眠りについた。 

 



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