1. トップページ
  2. ふるさとの訛りなつかし

かめかめさん

http://ameblo.jp/kamekame1976/ ブログデシセイカツバクロチウ

性別 女性
将来の夢 印税生活
座右の銘 ハワイに行きたいと思ったら、一歩踏み出さないといけない。 ハワイは向こうから近づいてこない。

投稿済みの作品

1

ふるさとの訛りなつかし

13/04/06 コンテスト(テーマ):第二十八回 時空モノガタリ文学賞【 浅草 】 コメント:2件 かめかめ 閲覧数:1881

この作品を評価する

「わたくし筑紫黄楽の博多独楽(ハカタゴマ)をご覧頂きました〜!
 この後も浅草演芸ホール、まだまだ演目つづいてまいります。
 どうぞごゆるりとお楽しみ下さいませ〜」

まばらな拍手を背で受けながら舞台袖にはけて、黄楽はため息を落とした。
曲独楽(キョクゴマ)の芸一本で食べていくのだと大見得を切って博多から上京して10年。
演芸ホールに定期上演させてもらう以外は、ショッピングモールや地方の祭りの舞台の仕事がチラホラ入るだけ。
芸だけで食べるなど夢また夢。
今日もこれから水商売のバイトに行かねばならない。

独楽を走らせるための模造刀と、独楽と紐を簡単に清めて布でくるみ、専用の箱にしまうと、自分の手のひらをじっと見つめた。
毎日の独楽の稽古で指紋も手相も薄くほとんど見えないくらいになっている。
自分の芸に自身はある。
曲独楽の長い歴史に恥じないだけのウデは磨いているつもりだ。
ただ、その芸を現代の日本人に楽しんでもらえているのかどうか、そこだけはいつも不安だった。

独楽の動きに観客は拍手をくれる。
しかしそれだけだ。
木戸銭をもらえるわけでなし、自分の芸が金を稼げているという実感は得られない。
イベントや祭りに呼ばれるのも、独楽の歴史が大事なのであって、自分自身のウデは関係ないのではないか。
自分は独楽の歴史のお情けで、かろうじて仕事を与えてもらっているのではないか。
最近はずっとそのことが頭から離れない。
自分のウデで稼げないなら、いっそ水商売を本業としたほうが、ずっと遣り甲斐が得られるのではないか……。

「黄楽師匠、お客さんが挨拶されたいそうですよ」

受付の佳代子さんに声をかけれら、黄楽は我にかえる。

「はい、すぐ行きます」

舞台用の明るい作り声と明るい表情で振り返った。

楽屋口で待っていた客に見覚えはなかった。
70年配の、いかにも田舎くさいオノボリさんといった感じの男性だった。

「あんたん独楽な、すごかったばい!」

男性は黄楽の顔を見ると、大声で話しかけてきた。
10年ぶりに聞く、こてこての博多弁だった。

「おいも細かぁころには曲独楽もよぉ見たばってん、あんたんごと見事に独楽ば飛ばす人な、初めて見たばい。
 ほんなごつ感激したったい。
 まさか東京で博多独楽ば見れるとは思わんかったけん魂消たのう。
 都会んもんにはめずらしかろうけん、これからもがんばって励んでくだっさい。
 おいも東京に出てきたら、また寄せてもらいますけん!」

男性は早口にまくし立てると、黄楽の腕を「バン!バン!」と力強く叩いてさっさと去っていく。
男性の博多弁は、黄楽に師匠の口調を思い出させた。
厳しい師匠にいつも叱咤されたこと、それでもめげずに必死で稽古に食らいついていたこと、いつかこの芸で独り立ちすると夢に燃えていたこと。
そして、自分が独楽をどれほど愛しているかを、思い出させた。

「ありがとうございます!またお越し下さい、お待ちしています!」

黄楽は男性の背中に向かって叫び、深々と頭を下げた。
男性の背中が見えなくなっても、ずっと下げ続けていた。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

13/04/10 名無

故郷から離れて頑張ってる人にとって、故郷の訛りは、本当に懐かしく郷愁を誘いますね。とても共感できるお話でした。

13/04/16 かめかめ

>名無さん ありがとうございます

ログイン