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AIR田さん

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家事件簿

13/04/05 コンテスト(テーマ):第五回 【自由投稿スペース】 コメント:2件 AIR田 閲覧数:1468

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 私が住んでいる木造一軒家の中では、よく事件が起きる。その都度事件簿に記し、刻み込まれた文章の中から教訓を見つけ出す。
 その一部を公開する前に少し説明を。両親は二人とも仕事で海外にいる為、住んでいるのは私と飼い猫のビタミンだけである。これを見ただけで、勘のいい読者様はこう思うだろう。
---十代の少女と猫が引き起こす事件など、瑣末なことであろう
 ははぁん。なるほどその通りだ。恐らく100人中95人はそう思うだろう。私は5人に粗品を差し上げたい。しかし残りの95人にはこう言いたい。想像力が足らない、とね。何?どうせ猫が暴れて両親が大事にしていた物を壊したとかその程度だろ?君。断定はよくないよ、断定は。
 と、私の脳内に現れた読者様と対立しても全く意味が無いので、家で起きた事件略して家事件簿のページを開き、過去を振り返ることにする。ちなみに私は16歳。性別、女。彼氏募集中の一般的な高校2年生。

 家事件簿。case1。答えはいつだって単純。
 3月18日日曜日。私は録画していた「美の壺」というテレビジョン番組を見ていた。様々な物品が作られる過程、その物品をいかに楽しむか、という様な指南書的な番組である。
 私はこの番組が好きで好きでたまらなく、いつも飼い猫のビタミンと観賞している。親友の針金曲子に、「曲子ちゃん。美の壺見ようよっ」とメールを送った事があるが、「見ねぇよ馬鹿野郎」と返信されたので、「この豚顔面!」という文言と共にビタミンの糞を写真に撮りメールに添付し送信したら、「絶交だ」と脅迫され渋々謝罪した。これがかの有名な「美の壺事件」である。テストには出ない。
 この事を毎度思い出しつつ観賞するのがすっかりお決まり規定事項。
 番組は終わりを迎えた。
「うーん。チョコ美味そうだったねビタミン」
「ぶにゃあ」
 観賞後、私はビタミンの背中を撫でながら話しかけた。返ってくる鳴き声はブサイク極まりない。
「ブタミンにしようか?名前」
「ぶにゃあ」
「ふふ。嘘だよ」
 TVの前で寝転がりながらビタミンと戯れる私。
 ここで終わればなんてことのない一般的な女子高生の怠惰な日常であり、わざわざ事件簿に記す必要は全く無い。現に、この日まで私は日記というものを書いたことがなく、これから先も書くことはないと思っていた。しかし、この日起きた事件を境に、「家事件簿」と名を打った事件録を書くことになる。記念すべき日である。
 美の壺を見終えた私は、購入してから既に5回読んだ小川洋子著「猫を抱いて像と泳ぐ」を再び読むことにした。何度このタイトルを「像を抱いて猫と泳ぐ」と言い間違えたことか。その度針金曲子から「重いし一歩間違えたら猫と人潰れるから!」とお叱りを頂いた。一番酷いのは針金曲子にメールで送った、「この前教えてもらった本なんだっけ?僧を抱いて皮を剥ぐだっけ?」であった。「阿部定並みにラジカル!」と指摘されたことは言うまでもない。
 実際の所、僧を抱くどころか登場もしないし、皮を剥ぐといったエスキモー的な描写も出てこない。こんな言い間違えをしていたのが恥ずかしくなる程、「像を抱いて猫と泳ぐ」は綺麗な話しだった。針金曲子に、「リトルアヒョーヒョンかわいかったね」と感想を送ったところ、「アリョーヒンね!アリョーヒン!アヒョーヒョンってどこの馬鹿の子よ!」と直ぐご指摘された。
「アヒョーヒョ……アリョーヒン」
 チェスの名手とされたアリョーヒンの再来と賞されたた主人公は、悲しくも美しい運命を辿り、最後には大好きなチェスの魂と共に命を落とすこととなる。
 私はリトルアリョーヒンを胸に抱き、休日の空気と踊るのだ。
「そうだ!ビタミン!私チェスやる!」
「ぶにゃあ」
 やっちゃえよ。
 ビタミンがそう言っているように聞こえたので、私は勢いよく二階に上がり親父様の書斎に突入した。
 定期的に掃除するようにと、親父様から厳命されていた私はそれを忠実に守りこなしてきた。だから、どこに何があるかなんて全て把握済み。
 親父様は私に、「部屋の中の物を勝手に触るなよ」とわざわざ言ってはこなかった。恐らくそれは書斎に一般的な女子高生が興味を持つような物品が無かったからだ。現に私は書斎に置かれている哲学書、学術書、飛行機の模型、電車の模型、チェス、エロい本には興味が無かった。その中でも興味が無い第1位はチェスの駒だったが、この度見事に興味がある物第1位に輝いたのだ。
「あったあった」
 書斎に置いてあったチェスボックスと盤を持って階段を駆け降りた。そして居間に戻り、テーブルの上に盤を置き、チェスボックスから駒を取り出した。
「さぁビタミン!これがチェスだよ!」
「ぶにゃあ」
「この駒がキングで、これがクイーンで、これがルー……ルーカスで、これが……デシャップで、これが……内藤で、これがボーン!分かった?」
「ぶにゃあ」 
「さぁ始めるわよビタミン!」
 と意気込んだものの、私はチェスのルールを把握していなかった。猫を抱いて像と泳ぐを読んだばかりだというのに。
「……とりあえず前に進めば道は開ける!行けっ!内藤!」
 とにかく前に進まなければ何も始まらない!私が1マス進めた次の瞬間、
「ぶにゃあ!」
 ビタミンのネコパンチが内藤に繰りだされた。
「あぁっ!内藤!」
 回転しながら飛んで行く内藤。
「あっ」
 壁に衝突した内藤が半分に割れた。
 内藤。性別男。年齢28歳。女王様を守る為に生まれてきた内藤。快活な女王の傍で仕える毎日はとても幸せだった。我が人生悔いなし。
「ぶにゃあ!」
 ビタミンが半分になった内藤を亡骸にじゃれついている。なんて残酷な。こんな光景クイーンには見せられない!
「見ちゃ駄目!」
 私はクイーンをジャージのポケットに入れて、そして今目の前で起きた現実をどう乗り切るか考える為に、テーブルの下に潜り込んだ。リトルアリョーヒンのように。
「ぶにゃあ」
 ビタミンがご丁寧に内藤の骸を私の前に持ってきてくれた。
「現実から逃げても無駄ってかい」
「ぶにゃあ」
 私はクイーンをポケットから出し、内藤の骸の前に置いた。
 クイーンは毅然とした態度で内藤の死を受け入れているように見え、私の涙腺を刺激した。
「ぶにゃあ!」
 しかし、冷徹な殺人者ビタミンの容赦ないネコパンチにより、クイーンも壁に激突し粉砕した。
「ぎゃぁあ!クイーン!」
 私はテーブルの下で泣き叫ぶ事しか出来ない。無力な自分に腹が立ち、私は大粒の涙を流す、程の勢いだった。
「ぶにゃあ」
 ビタミンは骸となったクイーンを再び私の所に持ってきた。その表情は自慢気で、私がいる世界とビタミンが見ている世界は違うのだなとその時感じた。
「……そうよね。あんたにとっては獲物よね」
「ぶにゃあ」
 テーブルの下に潜り込んでいる私の隣に座ったビタミンの顎を撫でると、ゴロゴロと満足気に喉を鳴らした。
「さて、どうしたものか」
 目の前でバラバラになっている内藤とクイーンを見て、私は溜息を吐き、ふと目に入ったチェスボックスを見て、あることに気付いた。
 チェスボックスの蓋の上は埃にまみれていた。ということは、もう何か月も何年も使っていないのだ。親父様の書斎にある収納棚の中までは掃除はしておらず、その中にあったチェスボックスは無用の長物として静かに眠っていたことになる。
 黙っていれば分からんぞ。
 悪魔が囁いた。
 嘘はいくないよ。嘘吐いたら親父様は誰であろうと殺すって言っていたじゃない。
 天使が囁いた。
「死にたくない!」
 ラジカルな親父様の言いつけを慎ましく守ってきた私に、嘘を吐くという選択肢ははじめから用意されていなかった。
 覚悟を決めた私は、壊れたクイーンと内藤を写真に撮り、親父様のスマートフォンに画像を添付したメールを送った。そして直ぐに、スカイプを立ち上げて親父様に連絡して、事の顛末を告げた。
「クイーン33800円。ナイト25000円。合わせて5万8800円になります」
 親父様にそう言われスカイプを切り、「内藤クイーン粉砕事件」の幕を強制的に閉じた。
 教訓。軽いノリで何かをすると、その勢いが悪い方に返ってくる。
 


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このストーリーに関するコメント

15/02/18 てんとう虫

面白すぎでした^^ビタミンとの会話もいいですが友人との会話がもう最高でした。うちには猫は今いないのですが前に飼っていた猫思いだし急に狩りをする猫思いだしウケてしまいました。家事と書いてたので日常な話かなと思いましたがたのしく読みました。続編読みたいです

15/02/19 AIR田

てんとう虫さん>こんばんわ!(今夜なのです)
ありがとうございます〜!個人的にもこの話は好きなので、褒めてもらえて俄然やる気になりました笑
続編のネタはあるので……!

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