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密家 圭さん

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八重桜の雨が降る

12/04/20 コンテスト(テーマ):第四回 時空モノガタリ文学賞【 傘 】 コメント:0件 密家 圭 閲覧数:2723

時空モノガタリからの選評

最終選考

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  一向に止む気配のない雨は、風も加わってますますひどくなっていた。傘で前が見えないので、自然に目線が足元へと下がる。お気に入りのスニーカーに泥がはねていて、憂鬱さが増した。
「この道も早く舗装すればいいのに」
 ぬかるんだ土のせいでぐちゃぐちゃと足音が立つのが嫌で、思わずそうぼやいた。
 小学生のころ、私たちはこのあたりを「こんこん山」と呼んでいた。小高い丘程度の高さで、山と呼ぶには無理があったが、ヤマブドウだとかの植物が生い茂るそこは、私たちにとって探検にうってつけの「山」だったんだろう。白狐を見つけると幸せになれるなんて話を信じて、皆で探したこともあった。
 それが今では随分と小綺麗になったものだ。土地開発のために一部が切り売りされ、ふもとまで伸び放題になっていた草木は跡形もなく刈られている。まだ自然に囲まれている残りの土地も、いずれはこうなるのだろうか。
「もし、そこの方、」
 突然聞こえた細い声に振り向くと、和装の女性が傘も持たずに立っていた。白地に銀の刺繍という変わった柄の着物に気を取られていると、女性が薄紅色の口を開いた。
「その八重桜の傘、譲って下さいまし」
 口元までしか見えないが、肌が白く滑らかで、唇の形も良く、美人であることが窺えた。
「いえ、私も困るというか……」
 切羽詰まった様子なので、断るのが申し訳ない。でも私だって傘がないと困る。
「そこを何卒。子供が風邪を引いて、つらそうなので御座います。何卒……」
悲痛さを増す声はか細く、雨音に消されそうだ。
「どうぞ」
横なぐりの雨で、もう傘の意味もなさそうだし、家も大して遠くない。母さんがその辺で買ってきた安物だし、美人のためだ。ここは割り切ろう。
「ありがとう御座います。この御恩は、」
「いいんですよ、じゃあ」
 カバンで頭を覆い、走って家に向かう。……それにしても変な人だったな。喋り方は古めかしいし、子供が風邪だから傘が必要ってどういう論理だ。……まあいいか。悪用されるものでもないし。
 


「あれ、」
今日はあの奇妙な傘事件から2日後だ。あげたようなものだったのに、家の門にあの傘がかかっている。律儀にも、傘の柄にはお礼の品と思われるヤマブドウが添えられていた。どうして家が分かったのか不思議に思いながら傘を片付けようとすると、肩にぽつりと何かが落ちた。
「桜……?」
見事な大輪の八重桜がどこからか降ってきた。庭の隅からガサリと音がして、空に向けていた目をそちらに移す。
白い狐。ふわふわの毛を持つ子狐が、優美な尾を持つ白銀の狐についていく。どうやら親子らしい。子狐が追いつくと、親狐がこちらを見上げた。目が合うと一礼するように首を動かした。

ーーぽとり。

また八重桜が降ってくる。どこから降ってきたのかと上を見ている間に、白狐たちの姿は消えていた。
「八重桜じゃなくて薔薇なんだけどなー」
 まあいいか、なんて思いながら戻ってきた薔薇柄の傘を開く。特に何もないけれど、買い物でも行こうかな。今日は良いことがありそうだ。
 日傘にもなるその傘をくるくると回し、晴天の澄みわたる空気を思いきり吸いこんだ。


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