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堀田実さん

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わたし、知らない人なんて、知らない

13/03/29 コンテスト(テーマ):第二十七回 時空モノガタリ文学賞【 財布 】 コメント:4件 堀田実 閲覧数:2075

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 自転車を走らせていると地べたに座っている2人組の女の子がいた。まだ初春の寒い陽気なのに何を待っているんだか膝をかかえて座っている。
 仕方がないから俺は自動販売機でホットココアを買う。二人分買うと彼女たちに持っていく。
「おーい、こんなところで座ってたら寒いでしょ?これやるよ」
変な表情をしながらも彼女たちは受け取る。どうやら塾に行くバスを一本逃したようだ。余分な金もないしひとまず待ってるしかなかったみたいだ。今の子供も大変なんだなって思ったけど、そういう世の中なんだから仕方ない。しばらくどうでもいい話をして俺たちは別れた。
 もう彼女たちとの出会いなんか忘れた頃、また偶然に出くわした。また同じように地べたに座って何かを待っている。別に俺は何も考えずに手を振った。すると二人は笑顔で迎えてくれた。一度しか会ったことないにも関わらず。
 俺はじょーがねーなって思いながら頼まれてもいないのにジュースを買う。でもほらよって差し出すと朱美は喜んだような顔をして、愛菜の方は少し困ったような顔をした。よくわからなかったから聞いてみると、親に「知らない人から物をもらっちゃダメ」って言われたそうだ。そりゃそうだ。
 どうやら二人の親の間でも話し合いがあったらしいんだが驚いた。
「もしもの事があったら大変。愛菜の身が心配」っていうのが愛菜の親の言い分らしい。もっともなこった。
 ところが朱美の親っていうのはちょっと変わっているらしくこんな事を話してたそうだ。
「人の善意を疑うようなことは悲しいこと。私はもしもの時、もしもの時って言いながら人を疑う人にはなって欲しくない。だから笑顔でありがとうって言いなさい」って言ったそうだ。変わってら。
 それで二人の親の間でちょっとした口論になったらしい。

「あなたの言いたいこともわかるけど、それは理想でしかないわよ。私も世界がそんなに平和だったらあなたの意見に賛成だけど、事件は毎日起こってるでしょう?日本はそんなに平和じゃないわ」愛菜の親が言う。
「違う。私が言いたいのはそういうことじゃないの。確かにそうよ、事件は毎日のように報道されてる。でも前々から思ってたんだけど、もしもの時を考えて人を裏切るのはやっぱり違うのよ。そんなのは可哀そう。ココアをくれた人にも、そして朱美にも」
「私にはあなたの可哀そうっていうのがよくわからないわ?もし毒でも入っていて死んだ方が子供のためにならないでしょう」呆れたように言う。
「ううん…。私ももしそんなことがあって朱美の身に何かあったら悲しいって思う。でもね、それでも違うのよ。もしね?もし人を助けて自分が死ぬか、人を見捨てて自分が生きるっていう状況があったら、私は朱美には人を助ける方が大事って教えると思うの」
愛菜の母はあっけに取られたようにしばらく無言になった。
「あのね、変に捉えないで?私は命が大事ってテレビでよく言うのを聞くけど、私は、本当は命より大事なものってあると思うのよ。私が言いたいのはそういうことなの。心と命どっちかを取らなくちゃいけないなら、朱美には心を取って欲しいって…そう思うのよ」
愛菜の母は嘆息する。
「なんだか変な話。ココアの話とは全然違うわ。それに死んじゃったら全てが終わりなのよ?それなのに…それってなんか宗教みたい」
朱美の母は少し悲しげな声を漏らす。
「宗教…そうね。でも違うのよ。私は確かにマザー・テレサみたいな人を尊敬してる。でもただ単に朱美には人と見境いなく生きて、ありがとうって言えるような生き方をして欲しいの」
「ふぅん」愛菜の母はもうほとんど興味がなさそうだった。「そうは言っても子供が死んだら私は悲しいわ」
 
 『大切な命をこんなにぞんざいに扱う犯人は許されませんね、非道です』コメンテーターが語るのを俺はテレビの前で聞いていた。カップラーメンを啜りながら、レイプされ殺された少女の事件の動向を見つめる。俺は考える。大切な命って言うが命より大切なものっていうのは本当にないんだろうか?もし俺が、死んだように生きるか、生きて死ぬかどっちかを選ばなくちゃいけないとしたら、俺は生きて死ぬ方を選ぶね。じゃないと生きてたって生きてる心地もしないだろ、って思いながらカップラーメンの汁を啜る。
 ただの理想論?かもしれない。じゃあもっと具体的に考えよう。俺の場合、俺はあまり金に余裕はないけど朱美と愛菜にココアを奢った。別段何も考えずに、息をするのと同じぐらい当たり前に財布を取り出しココアを奢った。理由を聞かれても答えなんて出て来ない、ある筈はない。それが自然だったんだから、ってふと思いながら虚空へため息をつく。
「あーぁ、早く定職つかねーとなぁ…」
なんて未来を思い描けば野ざらしで死ぬ情景が浮かぶ。


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このストーリーに関するコメント

13/03/30 光石七

本質的なお話ですね。
私も心と命どちらを取るかと言われたら、心になると思います。
実際に命が危険にさらされたら、みっともないことをするかもしれませんが…
人を疑わなければならない世の中って悲しいですね。
挨拶しても無視する子もいて、多分知らない人と口を利かないよう言われてるんだろうなと思いつつ、少し寂しいです。
朱美のお母さんに1票。

13/03/30 クナリ

自分の命なんて取るに足らないですけど、大切な人の命はどうか悲劇的には終わらないでほしいと願ってしまいます。
本当は自分の命を大切にできないと、他人の命も尊ぶことはできないんでしょうけれどね…。
愛菜のお母さんの言うことはよくわかります。
命なんてただの化学現象のはずなんですけどね、何でこんなに多重的な意味が生じるんでしょうね。
心というのは不思議ですね。

13/03/30 草愛やし美

Minorさん、拝読しました。

この作品は、今の世に対しての問題提起がされていて、ここから討論がありそうですね。どちらの考えを選択するかは、難しいです。

私も、我が子に教えるなら、やはり心を選択させたいです。でも、現実には、どうなのかと悩んでこれを書いています。

家族など、愛する者に対しては、命、生きていて欲しいが優先されるのではないでしょうか。ましてや子供(女の子)なら尚更でしょう、いざという時どうなるか自信ないです。人間て、やはり作中にあるように哀しいです。

13/04/01 堀田実

>光石七さん
僕も心を取りたいなって思ってこの作品を書きました。
ただ実際身に不幸が起こると、なかなか心を取るって勇気がいることだったりするんですよね。
二度と戻ることがない命だし、慎重になったり疑ったりするのも当たり前かもしれないですけど、危ないからと言って公園から遊具を撤去したり、木登りを禁止したりも含めてそれは違うんじゃないの?って思たりしますね。

>クナリさん
そう言われれば自分より他人の命が重要に思える心理も不思議ですよね。
親心っていうか、でもそういうの大切にされてる本人はおせっかいって思ってたりするよなーって思いました。
あと命が化学現象って考えはあまりしてなかったのでへ〜って思ったんですけど、仮に命が科学的に生成される時代になって生き返らすことができるようになったら、命の価値はぐんと下がるんだろうなと思いました。

>草藍さん
確かに難しいですね。
逆に愛菜の母は自分の命か子供の命を取るか迫られた場合、愛菜の命を取るタイプかもなぁってふと思いました。
人類の歴史の中で今の時代ほど子供のことを大切にしてる時代はないんです。昭和なら木登りをして大怪我をしたり、親に殴られたり、貧乏で喰う物がなかったり、遊んで川に溺れて死ぬことも多かったんですけど、人にとって何がいいんですかね?
個人的には今の時代は命に慎重になりすぎって思います。

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