草愛やし美さん

時空文学コンテスト開催100回、おめでとうございます。思えば、初めて私が、こちらに投稿したのは2012年5月のこと、もう4年近く経ったのですね。時空モノガタリさまが、創作の場を与えてくださったお陰で楽しい時間を過ごすことができました。感謝の気持ちでいっぱいです。 また、拙い私の作品を読んでくださった方々に感謝しております。 やし美というのは本名です、母がつけてくれた名前、生まれた時にラジオから流れていた、島崎藤村作詞の「椰子の実」にちなんで……大好きな名前です。ツイッター:草藍やし美、https://twitter.com/cocosouai 

性別 女性
将来の夢 いっぱい食べて飲んでも痩せているっての、いいだろうなあ〜〜
座右の銘 今を生きる  

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13/03/27 コンテスト(テーマ):第三回 【 自由投稿スペース 】 コメント:5件 草愛やし美 閲覧数:2254

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ドンドンドン! ドンドンドンドン!!

 ん!? 何だ? 音が遠くから……。うーん、俺は寝返りを打った。まだまだ眠くて起きたくない。眠り続けていたいのに、うるさいなぁ、音が止まらない。
 それはドアが叩かれる音だった。ドンドンドンドン!! 激しく叩く音と一緒に聞き慣れた声がしている。
「起きてー! 大変、大変なのよ!!」
 金切り声ががんがん耳に響いて来て、俺は驚いて目を覚ました。火事だと思って、俺は慌てて立ち上がってドアを開けに行った。
 
 母親が仁王像のように立ち尽くしている。
「火事か!」
 大声で聞いた俺に母親は俺を睨みつけたまま被りを振った。蒼白い顔で何か叫んだが、半分泣きながら言ってるので何を言っているのか、わけがわからない。外は真っ暗だ、何なんだ、おやじと喧嘩でもしたのか、真夜中だっていうのに起こすなよと、言いかけて俺は、口をつぐんだ。半狂乱で泣き叫ぶ母親の姿に、異変を感じたのだ。
「どうした? 母さん、何かあったの?」
 俺は落ち着いて母親を宥めようとしたが自分でも焦って早口になってしまった。母親のこんな姿は異常事態に違いない。
「どうした?」
 聞いている俺の目の前で母親は泣き崩れながら絞リ出すように叫んだ。
「夜が明けないの、明けないのおぉ」
 おいおい泣きながら話し続ける。 
「今朝いつもの時間に起きたのに、日が明けてなかった。いつまで待ってもおかしいのよお、テレビでも一斉にニュースやってるけど、原因わかんないだって、何でなの? こんなことって有り得ない……」
 もうあとは母親の声は聞こえず嗚咽だけが流れていた。

 俺は泣き叫ぶ母親を置き去りにして、慌てて階段を駆け下りた。リビングでは父親がテレビにしがみついている。
「明けないって? 父さん。何のこと、太陽が昇らないのか?」
 父親はさすがに泣いてはいなかったが、明らかにうろたえていた。
「原因はわからないそうだ。天文学者や偉い学者が、テレビに出てきて言っているんだが、太陽が昇って来ないそうだ、だが、なぜなんだ? そんなこと聞いたこともない。太陽が忽然と消えるわけないじゃないか」
 ブツブツと父親は呟いている。俺の問いに答えているというよりも自問自答しているようだ。

 テレビではアナウンサーが大声でガンガン叫んでいる。
『原因を究明中と政府から発表があっただけです。日の出の時間から随分と時間が経過しています。しかし、残念ながら未だに、このことに関して、それ以外何の発表もされていません。何時、次の発表があるのかもわかっておりません』

 え!? やっぱりほんとなのか? 太陽が昇ってこない……信じられない事態が起こっているのだ。俺にもそのことは理解できた。実際、窓の外は真っ暗だ。時計は八時半を回ったと針が差し示している。六時には日が明けてもよい季節だからおかしい。それにこの暗さ……夜という感じでもなく、漆黒の闇の中にいるという感じだ。明らかに異変を感じた。何かよからぬことが地球に起こったのだろう。だが、これは、日本だけのことなのか? すぐに世界中の現象だとテレビから聞こえてきた。
 全世界が……闇! 真っ暗な闇の世界になってしまったのだ! 急激に体から力が抜けていくのを感じた。
 テレビからは途切れなくニュースが流れている。どのチャンネルも似たような内容だ。父親と母親は肩を寄せ合って何か話している。だが段々口数が減り、リビングで頭を抱え俯いたままになった。真面目な父親が、平日に会社に行かないのを見るのは、初めてかもしれない。
 電車、バスなど、一切の交通機関が、動いていない。国民全員、自宅待機するようにとの、政府からの警報が発令されたのだ。戦争が勃発したわけではなかったが、暗闇の原因が明らかになるまで、世界中が動けないというのが現実のようだった。こんな事態は地球の歴史上、初めてのことだろう。
 地球の温暖化が原因だと、どこかの偉い先生がテレビ画面の中で言っている。俺は何を考えるでもなくぼんやりとテレビの画面を見ていた。時々、母親のすすり泣く声がテレビの音の合間に聞こえてくる。その内出演メンバーが代わったのだろう、神話論を話す先生が出てきた。大昔の天の岩戸が閉じられた時に世界中が真っ暗になった事例と、今回は同様だから神の怒りにふれたのだと……。そりゃないぜ! いくらなんでも、飛躍しすぎている。何でも有りってわけないだろうと、俺は思った。しかし、世界中が混乱をきたしている状況では、いつまで待っても政府の見解の発表もなされそうもない。俺は、どうすることもできない苛立ちを覚え、二階の自分の部屋へと上がっていった。

 漆黒の闇が何時間も続くのは、異様な感じだ。ベッドに寝転んで真っ暗な中、俺は、起きてから今までのことをぼんやりした頭でようやく考え始めた。地球の温暖化が原因かもしれないな、いやそれにしてもどこへ行ってしまったのか? 太陽なんて消えないだろう。天下一のマジックでも無理だろう。どこかに隠せるものでもなし……。爆発!? 爆発で太陽が消滅してしまったとか――惑星同士、いや恒星に惑星がぶつかってしまった? それならこんな静かな地球であるわけないだろう。それに、天体観測でわかることだ。発表では、観測しても、天体に何も映らないそうだ。太陽も星も月も何もかもが、消えたのだ。だが、それは、光を放っている恒星の太陽がなくなったので見えないだけなのだろうか……? 俺は母親に叩き起こされるまで寝ていたが、その間にいったい何が起こったというのだろう。

 取り留めのない事を考え続けていたが、その内、可笑しくなって笑いが込み上げてきた。不謹慎者と、全人類から咎められそうだが……実際可笑しくなったのだ。俺ごときが頭を振り絞って考えても答えが出るわけがない。第一、俺は昨夜自殺しようと考えていたんだった。そうなんだ――自殺だ、この世が嫌になったからおさらばしたかったのだ。
 一番の理由は彼女に振られたからだ――いや、そうとは言えないか。付き合ってもいない女だから彼女って言わないな。告白する前にその女から、付きまとわないでくれって言われたんだった。
 その上昨日留年が決定したんだった。単位を貰えるはずだった教授の奴が裏切りやがった――というか、それも勉強しなかった俺の責任だけど。バイト先でもそのことで、むしゃくしゃしていて、客と喧嘩してしまった。お前なんか、明日から来なくていいんだぞって店長に脅された。もう行かないぞ。あんな店行ってやるもんかなんて思って帰ってきたんだった──で、面白くないから自殺を企てようかと、やり方を色々考えていたんだった。だが、しかしだ、世界がこうなってしまえばどのみち、みな死んじまうってことかもだ。その内、エネルギーも全てなくなるだろう。太陽なしでは、植物も生き物も育たないから、食い物もなくなる。
 そう考えたら急に悲しくなった。いや正直いって怖くなった、死ぬってことが。俺は、生まれて初めて、死を身近に感じた。
 死ぬって、どうなるんだ? なくなってしまうのか? 死ぬ、死ぬ、みんな死ぬ! みんな死んでしまうんだ。そうなんだ、だから母親が泣いているんだ。俺ってなんて鈍いんだ、今頃気づくなんて……、だから何をやっても失敗するのかもしれない。
 そこまで考えた俺は頭から死ということが離れなくなった。昨日は自分から死ぬつもりになっていたと言うのに、この恐ろしさは何なんだ! 叫び出したい気持ちを抑えて、俺はベッドの上で泣いていた。
「くそー! くそぉ、二十歳にもならないのに俺は死ぬのか。もっと何かしたかったはずなのに俺は死んでしまうんだ」
 だけど、俺、何をしたかったのか? 小学生の頃はプロのサッカー選手になりたいと、真剣に思っていた。だけど、中学になる頃には、それは能力がなくって、到底無理だとわかった。それでもまだサッカーをやっていたなあ――ほんとにどこまでもあほうな俺だ。まとまらない頭の中を取り留めのない思考が、次々と浮かんでは消えていく。

「ああ、嫌だ嫌だ!」
 叫んだ所で何も変わらないと思っても俺は叫んでいた。悶々と何時間考えたのか覚えていない。何時の間にか寝てしまっていた。
 
  ★       ★


 何かを感じて俺は目が覚めた。ん!? 明るい? 
「光……光だ!!」
 ガバっと飛び起きた。明るい! 窓が明るくなっている、どうなったのだ? 原因が究明できたのか? 急いで階下へ降りて行った。リビングのソファーで父親と母親は崩れるように眠ったままだ。きっと嘆き悲しんで眠ってしまったのだろう。
「父さん、母さん、起きろ! 明るいんだ、日が明けているんだ!!」
 父親と母親は跳ね起きて、窓に飛びついた。
「おおおおおーーーー!!! 日が明けてる」
「ううううーーーー!!! 明けた、太陽だ、太陽が見える!」
「太陽が戻ってきている、よかったよかったぁ〜」
 興奮した二人は抱き合ったまま、声にならない呻き声をあげている。テレビからはアナウンサーが叫ぶようにニュースを伝える場面が流れていた。
『原因は不明ですが、太陽が戻ってきました。原因解明を急いでいた政府は、国民の自宅待機を解除しました。一日だけで太陽は戻ってきたのです、我々は、助かったのです。人類は救われたのです』
 ガンガンと、大音響の声が耳に響てくるが、昨日と違って心地良い。あぁ、助かったんだ、良かった、俺は心底、生きていることを喜んでいた。


 人々は変わった。全ての人が、確かに変わった。これは紛れもない事実だった。分別ゴミを守る――そんな些細な事も守れなかった近所の奴らが、その日を境にちゃんとそれを守るようになったのだ。母親からこの話を聞いた父は、あれは神の警鐘だったのだと断言した。人類みんなが、地球の未来を考えているようだった。俺の身近でもエコだエコだと叫ぶ奴ばかりになっていた。
 何よりも俺自身が、変わった。無駄な時間を使いたくないと考えるようになった──もしかして明日は、自分の命がないのかもとしれない、そう思うと、どうでもいいという人生はいけないと思えるようになった。精々、足掻いて生きてやろう、そんな事を考えるようになった。何事も適当で、チャランポランな生き方をしてきた俺が生きたいと強く思っていた。生きるためなら、どんなことでもできそうに思えた。こんな気持ちになったのは、生まれて初めてのことだった。
 全ての人間がようやく自分たちの未来を、真剣に考え出したのだ。そう考えると、今まで、世界中のほとんどの人間が、いい加減な奴らばかりだったんじゃないのかと思えた。いくら親や、偉い先生や政府が言っても、一人一人の自覚がいい加減では何も変わらない。みんなが、二度とおかしな事態が起こらないように、地球が良くなるようにと前向きに考えるようになっり、地球レベルで、温暖化に関して、より深く議論され提案がなされた。
 何よりも、一人一人、個人がそれぞれ反省をしたのだ。俺の住む小さな町だって、それまでと違って、道端にゴミ一つ落ちていないようになった。みんなが、地球に優しくしようと思っている、そう俺は思った。
 そう思えたはずだった、きっとみんなそう思い生きているはずだった。だが……。

   ★      ★

 だが、たったの半年だった。地球が一つになったと思えたのは、たったの半年だけだったのだ。少なくとも俺は、みんなが、新しい気持ちで生きていると信じていた。しかし緊張感が途絶えたのか、今までと同じ日常が、一日だけで、すぐに戻ってきたためなのだろうか。みんな、そんなこと、もう二度と起きないと思ってしまったのだろう。
 裏通りの道端に空き缶が捨てられているのを、俺は今朝見てしまった。あんなにあの日を境に町中綺麗になっていたのに……。俺は悔しかった、そして恐ろしかった。
 闇の日が来るのが、怖かった。こんなことしていては、再び闇の日が来るだろう。俺は、確信していた。闇は嫌だ、闇だけは嫌だ怖い、怖い! あの漆黒の闇の世界が来ないようにと、毎日、俺は、心に念じた。二度と闇の世界にならないで欲しいと願った。神や仏なんて信じていなかった俺だったが、手を合わせ願った。

   ★      ★


 そんな俺の気持ちが裏切られることはなかった。あれから1年近く経った。その日の朝も、太陽は明るく輝いていた。俺の願い通りだ……。俺は、毎朝、日が昇って明るくなることを感謝した。あぁ良かった、今日も無事だ。

 そうなのだ、あれから、太陽が消えることは二度となかった。

 だが……。

 だが……。
 
 その日……、日は暮れなかった。

 その日、太陽は、沈まず、いつまで経っても、ギラギラと輝いたまま天にあった。

 闇が来なくなった。闇が! その日から……、地球上の太陽は、二度と沈まなくなった。



  ―― 完 ──





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このストーリーに関するコメント

13/03/28 泡沫恋歌

草藍さん、拝読しました。

なるほど、闇ばかりでも、太陽ばかりでも嫌ですね。

どっちも長く続くとストレスで可笑しくなっちゃいそうです。
荒唐無稽ですが、とても面白いお話でした。

13/03/28 ドーナツ

拝読しました。

太陽は登って沈むものという、当たり前なことが突然 当たり前でなくなったら。。。
そんなこと思いもしなかったので読んだあと、真剣に考えてしまった。やっぱり俺みたいに、どうせ死ぬんだからとか、叫ぶかも。

でも、人間て喉元すぎればでなんとやらで、忘れちゃうんですよね。
物語、二転三転のどんでんがえしも面白かった。

太陽が出ないのもこまるけど、沈まないのもこわい。
なんでも、程々がいいですね。

なにか、人間の深い部分を考えさせて、というか、気づかせてくれる作品ですね。良かったです。ありがとう。

13/03/28 鮎風 遊

そう来ましたか。
何かがなくなる物語をずっと考えていたのですが、
これは発想できませんでした。

面白かったです。

13/03/31 ohmysky

うん、考えさせられるストーリーですね。
「人はそれが当たり前と思った瞬間から不幸になる」という事をある哲学者が言ってましたが、当たり前だと思っていたものが突如無くなったときに不幸を感じるという意味で、当たり前な事など、この世に存在しないんだという事を言っているのです。
そんな事を考えながらこのストーリーを読みました。
もちろん、面白かったです!!

13/04/01 kotonoha

人間のやり放題が「開けない夜」になったり「暮れない昼」だったり、考えさせられることばかりです。
草藍さんの発想が凄いですね。

地球のエネルギーにも限界があって何時かは滅びるでしょうがこのままだとその時期が早めてしまうでしょうね。

私もなるべくゴミを出さぬようにエコロジー生活をしなければと思います。
ありがとうございました。

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