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堀田実さん

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クソ生きろ、俺らの希望の代わりに

13/03/19 コンテスト(テーマ):第二十七回 時空モノガタリ文学賞【 財布 】 コメント:2件 堀田実 閲覧数:1966

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 久喜から来たトラックの積荷はもう殆ど降ろされた。ベルトコンベアーから休みなく流れてくる荷物のペースが落ちる。体が重い。あと3時間すれば夜が明け、週の最後の仕事も終わる。
「マジでそんなこと言ってんの?」
冴島が笑いながら言ってくるから俺だってちょっとは頭に血が昇る。
「はぁ?お前なんて将来のことちっとも考えてないくせに。今が良けりゃーいいって考え方してっと後々後悔すっぞ?」
反論しながら俺の言葉は俺の心臓に向かって突き刺さる。
「ちげーよ。ショーライ、ショーライなんて言ってんのは他人の考えに頼って自分で考えてねー奴の言葉なんだよ。会社におんぶに抱っこのジジィみたいな言い方しやがって」俺の言葉に勢いがないからすぐさま冴島に反論される。
それでも「じゃあ、お前実際将来どうするつもりなんだよ」って聞いたら「わかんねー」って返ってくるからコイツはやっぱ馬鹿なんじゃないかって思う。
「わかんねーけど、ひとまず金さえ貯めてりゃどうにかなるっしょ。世の中やっぱ金がないとどうにもなんねーって働きはじめてから痛感した」感慨深げに言うもんだからもう反論する気なんてなくなった。こいつはこいつの人生を生きてるんだ。俺とは違うらしい。いつもそうだ。歳を取るにつれて世間と俺の考えのギャップはどんどん広がる。

 日曜日、筋肉疲労の抜けない体に鞭打って電車に乗り込む。もうこんな仕事やっていたって意味がないと思う。確かに給料はいいが体力を酷使するだけで何の将来も見えやしない。企業向け荷物を仕分けるバイトなんて、せいぜい社員登用後の現場責任者が最大の出世だろう。結局は老いてボケるまでずっと働かされる側の人間なのだ。働かす人間になれやしない。
「クッソ、全然疲れが取れてねぇ」心の中でひとり呟く。「あー、女とヤりてぇ」二の次にはこれだ。自分自身ゾっとする。働いて、働いて、ただ女に癒しを求めてまた働くローテーションに未来なんて見えるはずなどない。でもそんな日々も今日で終わりなんだ。俺は明日から仕事をバックレる。

 小さい頃はもっと夢があった。将来はサッカー選手になりたいって思って毎日練習していたし仕事で疲れてるはずの親父呼び出して夜な夜なシュート練習さえしていた。練習の成果あって中学の時はキャプテンで活躍したけど、高校で強豪校入ってからは常にBチーム。つまり才能がなかったって事だ。誰もがぶつかる自分っていう壁の前に俺の夢は脆くも崩れていった。3年になる時にはプロなんて目指してもいなかった。
 池袋の駅で降りる。別に宛てがあったわけじゃない。どうしても変えたかったのだ。何かを変えたかった。いつからか狂い始めていた人生の歯車と留まることない悪循環の輪から抜け出したかった。いつかあの醜い幼虫が蛹から蝶になるみたいにふとした瞬間に変身する自分を求めて俺はどこかをさ迷いたかった。どこに行けば変われるかなんてわかりゃあしない。ただ何かを変えればスイッチが入って全てが、俺の人生の本当にあらゆる出来事の全ての配置が変わっていくはずなのだ。そう思っていた。そう思い込みたかった。
 しかし期待とは裏腹に12時間池袋中を歩き回っても何も起こりはしなかったのだった。とっくに昼は夜になって辺りは闇に包まれる。どこから沸いたのか東京芸術劇場の周りにわさわさとホームレスが集りはじめる。この物が溢れる時代に財布も持たずに生き抜こうとする人種。いや、この時代だからこそか?金がなくても食べ物はそこら中に溢れている。数ヶ月の汗と垢が混ざって凝固したような強烈な体臭を撒き散らしながら、それとも気づかずにゴミ箱を漁り、コンビニで酒を買って赤ら顔で地面の上に寝そべるような人種。明らかに俺ら社会の中で生きる人間とは違っていた。何もかもが違っていて、社会に疎外されていながら、でも俺らの社会の一部として厳然として生きていた。
 今日は俺も野宿をする。何か一つのきっかけになるかもしれない。冴島のように金に煩わされない人間、金を貯めようなんて意思なく今を生きようとする人間のようになれば何かがわかるかもしれない、そう思ったのだ。
 しかし俺は気づかなかった。ホームレスの奴らも腹は減るのだ。冷たい夜風に身を震わせて起きてみるともうポケットに財布はなかった。何も気づかないほどに熟睡していたのだ。仕事の疲れから、人生への疲れから、俺は深い深い眠りに誘われてそしてその隙に奴らは俺の財布をかっぱらった。生きているからだ。俺もホームレスも社会人も冴島も、テレビに出てくる成功者もまだヤったことない女優もどっかの国の石油王も、生きているからだ。人生に横たわる深い溝を見ながら、いつ止むこともない喜劇を演じているみたいに俺たちは息をしてる。
「クッソ」俺は一人呟く。


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このストーリーに関するコメント

13/03/19 光石七

何もかも捨てたつもりでまだ甘えがある、人間の性ですね。
財布をすられてこれからどうするか。
でも、かすかに希望を感じるお話でした。
三浦綾子さんの『果て遠き丘』という作品のラストを思い出しました。

13/03/26 堀田実

>光石七さん

コメントありがとうございます。
三浦綾子さんの作品は読んだことはないんですけど、彼女クリスチャンでしたね。
主人公はこの社会の中で金か欲望以外の何かを見つけたがっているんですけど、それはまぁ、財布とかじゃない見えないものなんだと思います。僕は見つけましたけどね。

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