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かめかめさん

http://ameblo.jp/kamekame1976/ ブログデシセイカツバクロチウ

性別 女性
将来の夢 印税生活
座右の銘 ハワイに行きたいと思ったら、一歩踏み出さないといけない。 ハワイは向こうから近づいてこない。

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落ちていた恋

13/03/17 コンテスト(テーマ):第二十七回 時空モノガタリ文学賞【 財布 】 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:1884

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美香が地面を見て歩くようになったのは中学生のころ。
私立の女子中学校の制服に憬れて受験し、小学校時代の友人と離れたころ。
公立中学に通っている顔なじみが挨拶してくれても、人の顔を覚えるのも、ずっと記憶しておくのも苦手な私が「だれだろう?」と怪訝な表情をしている間に、一人、二人と友達をなくしていったころ。
声をかけられることが億劫になり、誰とも視線を合わせないように、地面を見つめて歩くようになったのだった。
それから20年近く、地面は美香の一番の顔見知りだ。

地面ばかりを見つめていると、いろんな落し物に遭遇する。
片方だけの手袋、可愛いヘアピン、アンパンマンの手提げバッグ、
歩道にきちんと揃えられた靴、英語版のハリーポッター、真っ赤なパンティ。
よく落ちているものから、どうやって落としたのか不明なものまで。
それらを見つけるたび、街路樹や手すりなど、目に付きやすいところに引っ掛けてあげるようにしている。

ゴミ以外で、もっとも多く落ちているのが、お金だ。
最高額は5000円。紙幣がぽつんと落ちていた。
これは交番に届け、半年後に自分の懐に収まった。
コインはさすがに届けはしない。が、ネコババするのも寝覚めが悪く、募金箱に入れるようにしていた。

ある日、財布を拾った。
上品なデザインの長財布。本革らしい、しっとりとした手触り。
そのまま交番に持っていこうかと思ったが、好奇心から中を覗いてみた。
けっこうな枚数のお札が入っている。
その他に、ビニル張りのポケットに社員証が入っていた。
その名前を見た瞬間、雷にうたれたような衝撃が走り、美香は思わず財布を取り落とした。

「源 頼久」

社員証に書かれていた名前は、美香が中学生時代からずっと好きな、
いや「好き」なんて言葉では足りない。
愛している。
美香の青春のすべてと言ってもいい。
いや、なんなら人生の指標とも言える。
そんな愛してやまない人とまったく同じ名前だった。

とある女性向け恋愛シミュレーションゲームに登場する、キャラクターである。
であるが、美香にとって初恋の人であり、永遠の愛を捧げたただひとりの男性だった。
ゲームの設定が平安時代で、その人が武士であるため、まさかこの現代に同じ名前の男性が生息していようとは、夢にも思っていなかった。

(なんとしても、この人にあわなければ!)

美香は財布を拾いなおすと、社員証に書いてある社名を読んだ。
地元の有名な住宅メーカーだ。住所も書いてある。
携帯で地図を開いてみると、徒歩でも行けそうな距離だ。
美香は財布を握りしめて駆け出した。


たどり着いた会社は大きなビルで、入口のガラス扉の向こうには立派な受付カウンターがある。
美香ははやる気持ちを抑え込み、息を整え、自動ドアをくぐった。
美人の受付嬢が立ち上がり、深々とお辞儀して出迎えてくれる。

「いらっしゃいませ。ご用件をお伺いいたします」

「あ、あの。みなもと……。営業部の源頼久様にお目にかかりたいのですが」

ゲームをしている時のクセで「様」付けで呼んだことにも気づかず、美香はその名を口にしただけで赤面した。

「失礼ですが、お名前をおうかがいできますでしょうか?」

「あ、速水美香です」

受付嬢は受話器を取ると、どこかに電話をかけている。

「源はすぐに参ります、そちらのソファでお待ちください」

美香は指さされたソファの方へ歩いたが、胸の鼓動は座るどころの騒ぎではなかった。
今すぐにでもバンジージャンプできそうなくらい飛び跳ねていた。

玄関ロビーの奥、エレベーターの扉が開き、ひとりの男性が降りてきた。
美香の鼓動がさらに高鳴る。
男性はまっすぐ美香に向かって歩み寄ってくる。

「お待たせいたしました。源です」

その男性は、ゲームの頼久様とは違って、背が低かった。
その男性は、ゲームの頼久様とは違って、小太りだった。
その男性は、ゲームの頼久様とは違って、眼鏡姿だった。
その男性は、ゲームの頼久様とは違って、声が高かった。
その男性は、ゲームの頼久様とは違って、生きて喋った。
その男性は、ゲームの頼久様とは違って、美香のことを、じっと見つめた。

美香は生まれて初めて、現実の世界で、行動選択のアイコンが眼前に表示されたように感じた。
そのアイコンには、シナリオの分岐になるであろう、二つの選択肢が表示されていた。

「 ・名前を名乗る

  ・黙って財布を渡す 」

美香は、ゆっくりと、アイコンを動かした。


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