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草愛やし美さん

時空文学コンテスト開催100回、おめでとうございます。思えば、初めて私が、こちらに投稿したのは2012年5月のこと、もう4年近く経ったのですね。時空モノガタリさまが、創作の場を与えてくださったお陰で楽しい時間を過ごすことができました。感謝の気持ちでいっぱいです。 また、拙い私の作品を読んでくださった方々に感謝しております。 やし美というのは本名です、母がつけてくれた名前、生まれた時にラジオから流れていた、島崎藤村作詞の「椰子の実」にちなんで……大好きな名前です。ツイッター:草藍やし美、https://twitter.com/cocosouai 

性別 女性
将来の夢 いっぱい食べて飲んでも痩せているっての、いいだろうなあ〜〜
座右の銘 今を生きる  

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水のものがたり 

13/03/17 コンテスト(テーマ):第二回 【 自由投稿スペース 】 コメント:5件 草愛やし美 閲覧数:1938

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 少年は 初めて釣りをしました小さな川で……。ちっとも釣れないけれど少年は長い時間、糸を垂らして座っていました。
 もう諦めて帰ろうと思った時、糸がツンツンと引きました。竿を引き上げると、なんと、澄んだ青空よりも綺麗なコバルト色をした小さな魚が針にかかっていました。少年はバケツにその魚を入れました。魚はピチャピチャと音を立ててバケツの底に沈みました。ヒラヒラと 動く尾びれの先にはオレンジのラインが入っていて、コバルトブルーの体によく似合ってそれはそれは綺麗な魚でした。
 少年は嬉しくてしばらくその美しさに見入っていましたが、立ち上がると川岸に行き、しゃがみこむと魚を両手ですくい上げました。
「君はとても綺麗だ、僕は君のような魚初めて見たよ。素敵な魚さんありがとう。今度は釣られないようにね」
 そっと手を添えて水の中に魚を戻してやりました。魚はクルリとオレンジの尾びれをひるがえして水の中に浮かびました。でも、魚は泳いで行きません。
「あれ? 弱ってしまったの……大丈夫?」
 少年は心配して水面の魚を見つめました。じっと見ている少年に向かって、驚いたことにその魚が話しかけてきたのです。
「ありがとうございます、助けてくださって」
 びっくりした少年は声が出ません。しばらくして、ようやく振り絞るように声を出して聞いてみました。
「ど・どうして……君は 話せるの?」
 魚は静かに答えました。
「一年に一度だけなのですが、魚の神様のお祭りの日に話せるのです。その日が丁度今日なんです」
 少年はあまりにも驚き、次の言葉を失って呆然としていましたが、我にかえって魚に言いました。
「今度は釣られないようにね! 綺麗な姿を見せてくれてありがとう」
 魚はありがとうと言うとコバルト色を輝かせながら、水の奥へ奥へと沈んで行きました。家に帰ってからも少年はその魚のことが頭から離れません。でも、誰にもその魚のことは話しませんでした。

 一年経ったその同じ日、少年は魚のことが気になって、再び同じ川にやって来ていました。そして長い時間魚のことを考えながら、ぼんやり川岸に腰掛けていました。そんな少年の耳に小さな声が聞こえました。
「一年前の方ですね、ずっと水底から見ていました。懐かしいですねぇ、お元気でしたか? あの時は助けていただき本当にありがとうございました」
 少年は飛びあがって喜びました。
「あぁ……来てくれたんだ。僕、あれから君のことが気になって気になって……無事に過ごしてたんだね良かった」
 二人はそれからいろんな話をいっぱい、いっぱいしました。少年は魚のことを思わない日はなかったことや、夢にまで見たことを話したのです。魚は、魚仲間達に危険だから、二度と川には行ってはいけないと言われたけれど、今日ついに出てきてしまったことを話しました。一年という時の隙間を埋めるため、時の経つのも忘れて二人は話しました。少年は、トキ、魚は、ソラという名前だということも、知りました。二人はあの一年前の出会いの日に、恋に落ちていた自分達に気づいていなかったのです。それから毎年その日になると、二人はその川で会うようになりました。一年に一度だけですが楽しく幸せな時間を過ごしました。トキは、いつしか、凛々しい青年になっていました。

 ある年のその日、川に行くと川の水が真っ黒に濁っていたのです。驚いたトキが、ソラの名を呼びましたが、ソラは出てきません。いつもなら川の水底から美しいコバルト色に、オレンジ色のラインをキラキラさせながらやってくるソラなのに、どうしたのでしょう。
 トキは、すぐさま、川に入り、気が狂ったようにソラの名前を何度も叫びながら、水の中に潜りました。だけど、水は真っ黒で何も見えません。その時でした、小さなか細い声が水底のはるか遠くから聞こえました。
「く・くるしい……苦しいのです」
 ソラでした、ソラの体が水底にかすかに見えました。何と言うことでしょう! ソラの体のコバルト色が消え真黒に黒ずんでしまっています。
「なんとかここまで来ましたが、もう私はだめかもしれません」
「どうしたんだ! 何があったんだ」
 トキは驚き、大声で叫びました。
「誰かが川に何か毒の水を流したようです。体が真黒になってしまい動けない……、ああ、もう息が出来ない、苦しいトキ、もう逢えないかも……」
 息も絶え絶えにソラはそう言うと、どんどん泥水の底に沈んで行きます。トキは水底深く沈んで行くソラを追いました。そして、ソラの体を抱き抱えると泳ぎだしました。なんとか、綺麗な水の所まで行こう――その思いだけで、トキは、必死で泳ぎ続けました。

「綺麗な水の所にきっと連れて行くから、それまで生きていてくれ、ソラ! 僕の愛するひとよ、僕が僕が必ず助けるから死なないで!」
 トキは、心の中で何度も何度もそう叫びながら泳ぎ続けました。しかし彼の体にも黒い水が容赦なくまとわりつき、だんだんと体の自由が利かなくなっていきます。彼は水の中で泣いていました。涙が出て止まりません。涙は水の中に溶けて流れていきます。その涙は、虹色に輝き川の水を染めていきました。すると、少しずつ少しずつ虹の涙で黒い水が流されていくようです。やがて、体から黒い汚れが取れていき、ソラの体の、ところどころに少しずつ、あのコバルト色が見えてきました。でも、彼女の体はもう動かなくなっていました。トキはソラの名前を呼び続けました。だけど、呼んでも呼んでも、もはや彼女は動きませんでした。
 トキはさらに泳ぎ続けました。ソラの体を胸にいだき、泣きながらさらに水の奥深く深くへと泳いで行きました。気が遠くなりもう息ができなくなっていました。それでもトキは泳ぐことをやめませんでした。トキとソラは、しっかり抱き合ったまま、水底に沈んでいきます。その周りを水の泡が取り囲みました。やがて、泡は虹色に輝く大きな丸い泡玉になりました。まるで、大きなシャボン玉に、トキとソラが入っているように見えます。
 
 突然、天空から一陣の光が、放たれました。その光は、グングン伸びて水底まで一気に到達しました。やがて、水面に渦ができたかと思うと、虹色のシャボン玉が、浮き上がりました。それは、天に向って一直線に昇っていきました。

   
    ☆       ☆


 南の島の綺麗な虹色の海の底に、その海の色よりももっともっと、綺麗なコバルト色をした魚が二匹いるそうです。大きな魚と少し小さな魚で、いつもいつも一緒に仲良く泳いでいるそうです。大きな魚には尾びれに黄色の綺麗なラインが、小さな魚には尾びれにオレンジ色の綺麗なラインがそれぞれあるそうです。コバルト色の体に黄色とオレンジ色の尾びれが、ひらひらしていてそれはそれは美しいそうです。

 その美しい南の海がどこにあるのか、誰一人として知らないそうです。そしてその魚たちのことも、誰一人として知らないそうです。


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このストーリーに関するコメント

13/03/17 ohmysky

魚の性別が最初のくだりでは分からず、僕は男の子という認識で読み進めてしまいました。「恋に落ちていた・・・」のところまで読み進んで初めて、(あっ、ソラは女の子だったんだ)となりました。
前段で、ソラが女の子であるという事を連想させる何かがあればもっとすんなりと読み進められて良かったかなぁと思います。
例えば、「透き通るような女の子の声が聞こえてきた」とか・・・

13/03/17 草愛やし美

ohmyskyさん、貴重なコメントありがとうございます。

なるほど、自分でキャラクターを設定して、そのまま思い込みで書き進んでいたようですね。コメントを読んで、初めてハッと気づきました。

的確なご指摘ありがとうございます。読み手の立場になって書くということを忘れないように、創作頑張りたいです。

13/03/18 そらの珊瑚

草藍さん、拝読しました。

美しいおとぎ話のような味わいですね。
もしかしたらトキとソラは、前世から魂がつながっていたような
存在だったのかも、と思いました。
今は二人だけの永遠の楽園の住人になったのですね。

13/03/18 泡沫恋歌

草藍さん、拝読しました。

とてもロマンティックな物語でした。
コバルトブルーの美しい魚が泳いでいるような
サンゴ礁の島で暮らしたいね。

二人は魚になって永遠の愛を貫くことができるでしょう。

13/03/24 鮎風 遊

ファンタジー、美しい色と重なり、いい物語でした。

きっといるんでしょうね、そんな魚が。
今度近くの池を覗いてみます。

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