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堀田実さん

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死後の世界と、父の財布

13/03/14 コンテスト(テーマ):第二十七回 時空モノガタリ文学賞【 財布 】 コメント:0件 堀田実 閲覧数:1943

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 畳の上に敷かれた布団の上に寝ていたことまでは覚えている。しかしその後の記憶が確かではない。思い出そうとすると頭の奥がズキズキと痛み、記憶がショートしたように真っ白になってしまう。そうして今俺は花畑の中にいるわけだ。黄色や白や赤色とりどりの花が咲き乱れている花の海の中に埋もれている。
 気がつけば正座で座りこんでいた。律儀にも服装はあの時のままで、血の痕などはついていない。ここに来る途中で綺麗さっぱり洗われたのか、もしくは現世的なものごとはここに持ち越してはいけないのかもしれない。
「どうやら俺は死んだらしいな」
誰もいないのに呟く。空を見上げれば地上のそれよりは随分と澄んでいて白みがかった青に見える。何の不純物もない空では宙の光とあいまって違った色に見えるのかもしれない。

 俺はバイク事故で死んだ。はじめは軽い脳震盪かと思いゆっくりと立ち上がると、家から心配そうに出て来た妹と母の肩に担がれた。自宅に戻ろうとしたが曖昧な記憶のなかで徐々に力をなくしていき、気がつけば床の上に寝かされていた。母や妹の心配そうな顔が目についた。家の前で事故を起こた俺も馬鹿な奴だが、救急車が来るまでの間跳ねられた息子を家に運ぶ親もどうかしてる。安静にしとかなくちゃいけないものを、俺も家族も動転していた。死因は神経に関わるものだろう。
 徐々に身体が言う事を聞かなくなってきたのだ。はじめは手足が重くなり、末端からシビレ出した。自分の体がただの肉の重荷になったかのように動かすことが億劫になりはじめる。意思が空回りして脳からの指令がどうしても空想だけで終わってしまう。まるでどこまでも深い海に沈んでいくように身体の重さは増し続けた。
 そして膨らみはじめた気泡が急にはじけ空へと解けていくように、俺は解放された気分になった。俺の霊に繋がれていたあらゆる神経の線がブチッと千切れたのだ。糸を切られた風船はどこまでも飛んでいく。気がつけば花畑に来ていた。

 空を見上げるとあるはずのない太陽が眩しい。もしかして何か大事なことを忘れているんじゃないかとふと思いいたる。死後の世界の花の香りを嗅ぎながら、それが何かを考える。
「例えばここが天国か地獄かどっちかとか?」
呟くと即座に声が聞こえた。
『死んだら心の世界へ行くんだよ。インナージャーニー、心の旅さ。だからその人にとっての天国が傍から見れば地獄に見えるかもしれない』
俺より先に死んだ父が言っていた言葉だ。驚いて振り向くとそこには父が立っていた。
「さっきまで誰もいなかったのに」俺は思わず呟いた。
「死後の世界は物質とは違うんだよ」父は言う。
「ここが俺の心の世界なら、これは俺の空想ってことじゃないの?」父が何を言っているのかよくわからなかった。
「人の心は深い場所で繋がっているんだ」父は答える。「それが現実と空想の違いさ」そう言うとまた消えていってしまった。

 俺はしばらくこの花畑の中で一人考える。
「現実と空想の違いって何だよ。俺は死んでこの世界に来たわけだけど、じゃあ死ぬ前にいた世界っていうのは何だったんだ?まさが現実じゃなかったっていう事はないだろう」
思わず頬をつねってみる、まるで漫画みたいだと思いながら。しかし引っ張られてる感触はあっても痛みはなかった。やっぱり俺は死んでるんだと思うと、急に悲しさが込み上げてくる。いったいこの後何をすればいいかもわからなかった。
 気がつくと目の前に一人の天使がやってきた。天使なだけあって後光が眩しい。
「君が新人さんだね〜、いやー、見つけるのに時間かかったよ〜」
「あなたが天使ですか?」あまりにラフなのでつい疑問に思う。
「そうだよ。まぁ、ただの新人担当なわけだけど」
「そうですか」なんだか心配になってくるがそれ以上は言わない。
「じゃあ、通行料出して」
「えっ?」何の事かわからない。
「何って、これから天国に行くための通行料だよ。当たり前でしょ」
「そんなの取るんですか?」ポケットを探るが何も入っていなかった。「すみません、財布持って来てません」
「じゃあ取りに行きなさい」
「えぇっ??」
「今すぐ地上に取りに行きなさいって言ってんの」
そういうと天使は俺の背中を思いっきり殴り、地上に叩き落とした。気がつけば俺は布団の上で寝ていた。

 結局は夢だったのかもしれない。死後の世界なんてあるはずないのだ。父の言うとおり死後の世界なんて結局は心の出来事で夢と大して変わりはない。急に馬鹿らしくなってふぅっとため息をつくと財布があるのを確かめる。お金がないから天国行けないなんて馬鹿げてるよなぁと思いながら、父の形見にもらった財布をそっと取り出す。
「通行料…いくらなんだろ?」そして足りないことを祈る。


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