1. トップページ
  2. ソロモンのピエロ

汐月夜空さん

切ない話が好きな空想好きです。 なんでもない日常がなんでもある日常に変わる物語を読んだり書いたりするのが特に好きです。 ブログの方でも小説やエッセイ、ネタなどを書いておりますので、よければどうぞ。 twitterの方は私生活も含めて好き放題呟いてますので、汐月夜空のことが気になる方フォローお願いします。 ブログ:http://ameblo.jp/shiotsuki-yozora/ twitter:https://twitter.com/YozoraShiotsuki

性別 男性
将来の夢 物書き
座右の銘 日々前進

投稿済みの作品

2

ソロモンのピエロ

13/03/09 コンテスト(テーマ):第二十六回 時空モノガタリ文学賞【 サーカス 】 コメント:2件 汐月夜空 閲覧数:1680

この作品を評価する

「アハハ、マタ失敗デース、ゴメンナサイ」
 火の輪くぐりに挑戦したピエロが、前宙に失敗し勢いよく頭から地面へと落ちた。
 非常に痛そうな音が鳴ったのだが、失敗を悪びれないひょうきんな態度に会場からドッと笑いが起きる。
 ピエロは照れ隠しにジャグリングのピンを三本取り出し、空中にひょいひょいひょいっと放り投げると、それらの一本をマイクにしながらくるくるとそれらを回転させていく。
「ソレデハ、次ハライオンノハーツ君トブリーダーノルインニヨル演技デス! ミナサン、拍手デオデムカエシテクダサイ!」
 わー、キャー、パチパチパチ!!
 グルオオオオッ! という大きな唸り声とともに、ライオンがぬうっとカーテンから顔を出した。観客からさらに大きな歓声が上がる。
 ブリーダーのルインがマイク越しに、会場に呼びかける。
 いくよー、ハーツ♪ それ、いち、にー、さーん!
 掛け声に合わせて力強く飛び立ったハーツが、軽やかに火の輪の中を潜り抜けた。
 ピエロはそれを満足そうに眺めていた。
 ハーツはそんなピエロをさびしそうに見つめ、さっと目をそらした。
 ただ一人、ルインだけは純粋に楽しそうな笑みを浮かべ、観客のほうだけを見ていた。


 まだライオンのハーツがこのサーカス団に来てから間もないころ。
 ハーツはどうしても火の輪くぐりをすることができなかった。
 怖かったのだ。自然界にいたころは火なんて見たことがなかったから。
 熱くて眩い、不規則な動きをする火が怖かった。
 一回でも飛ぶことができれば次からは安心して飛ぶことができる。そんなことは分かっていたけれど、その初めの一回がどうしても飛べなかった。
 もともとハーツは臆病であったし、それに加えてルインの実力も火の輪くぐりを指導できるようなものではなかった。もともとルインはブリーダーではなく、その美貌を頼りにアシスタントとして参加していたのだからそれも仕方ないことだったのだけれど。
 そのような情けない理由で、ハーツには踏ん切りをつけることができなかった。自分がおくびょうなことを棚上げして、理不尽にルインの実力不足を恨んだりもした。


 そんな時に、ピエロに会ったのだ。
 ソロモンの力を持つ、あの男に。


「ヤア、ハーツ」
 夜、サーカスのみんなが寝静まったころだった。
 ハーツの檻に、急にピエロが訪ねてきた。
「ピエロか。なんだこんな夜に。食われたいのか?」
 ぐるるる。とピエロに向かって視線だけを送り警戒の声をかけると、ピエロは両手を広げて首を振った。
「食ベラレタクハナイネ。君ノ歯ニカジラレルノハトテモ痛ソウダカラ」
「……ふん、そもそも食いはしないがな。ルインから餌だけは大量にもらってるから腹は満たされている。それで、何の用だ?」
 会話が通じたことが、あまりにも当然のように感じられた。
 なぜか、この男には声が届くと。声を聴くことができると。話す前から知っていたような、不可思議な感覚があった。
「君ニ、火ノ輪クグリを教エテアゲヨウト思ッテネ」
 そういうピエロの手には演技用の真っ黒に焦げたフラフープをヒョーイっと高く投げ、それが落ちる前にその中に飛び込んだ。
 とても綺麗な動線だった。ルインの間の抜けた掛け声とは違う。本当のタイミングが見て取れた。どれだけの練習を重ねたのだろう。どれだけの覚悟を持っているのだろう。それは、まさしくプロの技と呼ぶにふさわしいものだった。
「何の真似だ」
「君ナラ、今ノ動キで分カッタデショ? 火ガツイタトシテモ、アノタイミング飛ンダラゼッタイニ安全ダッテ」
 ピエロはフラフープを拾い上げて、立ち去ろうとする。ハーツは「待て」とそれを止めた。
「なんでそれだけの腕があって、お前は失敗を重ねるんだ?」
 普段のピエロは失敗ばかりを重ねる。観客からは笑われ、団員からも馬鹿にされている。ルインだって、陰ではピエロのことを軽んじていることをハーツは知っていた。
 ハーツの言葉に、ピエロは満面の笑みを浮かべて言った。
「ソレガボクノ仕事ダカラダヨ。安全ニ失敗スルコトハ、ボクニシカデキナイ。ボクダケノ成功ナンダ。ボクガ失敗スルカラ、ミンナガ自信ヲ持ッテ演技ヲスルコトがデキル。観客ハドキドキシナガラミンナノ演技ヲミルコトガデキルンダ」
「……馬鹿げてる」
 ハーツは呟いていた。できることをごまかして、それで良いだと? プライドがないのか。
 ピエロはそれを聞いてさみしげに笑った後、
「ボクガ居ナイト、ルインガイナクナッチャウカラ。コレデイインダヨ」
と、呟くようにそう言った。


 会場には拍手の音が響いていた。
 ガオー!! とハーツがファンに答える。
 ソロモンの力を持つピエロは、ルインの隣で幸せそうに笑っていた。
 ハーツはそれを、さみしそうな瞳で眺めていた。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

13/03/14 そらの珊瑚

夜空さん、拝読しました。

ピエロの風貌っておかしいのに、どこか切ない。その切なさの出どころがこのお話にまさにあったような気がしました。
安全に失敗することは、ただ単に成功することよりも技術がいるのでしょう。それでもそんなことはおくびにも出さずに、日夜笑われることを仕事としている。その仕事に誇りを持って。
ソロモンの力とは、動物と言葉を交わせるという力かな?と思いましたが、そのことを人間のルインに言うことなく、ライオンのハーツだけが知っているというのも、切ないですね。

13/03/16 汐月夜空

そらの珊瑚さん、コメントありがとうございます。

今回のお話は短時間で書き上げることに集中していたので、いつも以上に擬音語擬声語が多く、読みづらくてすみません。
でも、書きたかったことは読み取っていただけたようで良かったです。
中々2000字で説明をするのって難しいですよね。
成功は人によって違うこと。人と違う力が合っても、それを伝えるかどうかはその人次第だということ。人は誰かに支えられて生きていること。
そんなことを言いたかった今作でした。ありがとうございました。

ログイン