1. トップページ
  2. 受け継がれるもの

名無さん

名無 ななと申します。よろしくお願いします。 スマホからの投稿なので、読みにくかったら申し訳ないです。

性別 女性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

受け継がれるもの

13/03/02 コンテスト(テーマ):第二十五回 時空モノガタリ文学賞【 雛祭り 】 コメント:0件 名無 閲覧数:1697

この作品を評価する

丁度あとひと月で、桃の節句である。

もうとっくに成人している私。未婚ながら、雛人形を飾るということはここ十年ほどすっかり絶えてしまった。小さな子供の為の行事という思いがあるせいか、はたまた人形を出す手間を惜しむようになったためか。高校卒業と同時に一人暮らしを始めた時、邪魔になるからといって断ったのに無理やり持たされた雛人形だが、結局押し入れにしまいこんでそのままだった。近頃は、幼い頃からの夢はなかなか叶わず、望んでいたのとは違う職場できつい上司に怒鳴り散らされる毎日で、3月も終わろうかという頃になって、漸くそういえば雛祭りだったわねと思い出すといった具合だ。

しかし、今年は人形を飾ろうと心に決めていた。きっかけは友人夫婦に女の子が産まれた事だ。初孫の初節句だからと祖父母が奮発して購入してくれたという雛人形は、豪華な七段飾り。狭いアパートなのに、と苦笑いを浮かべながらも、母親である友人は誇らしげにお雛様を見つめていた。

雛人形の箱はすっかり埃を被っている。箱にハタキをかけながら、友人夫婦の雛人形を思い出す。父母の愛を一身に受ける赤ん坊。その健やかな成長を誰もが祈っている、その証。私にもそんな、両親が買ってくれた雛人形がある。親にはつい虚勢を張ってしまい、「上手くやっている。毎日充実してるし、楽しくて仕方ない」なんて電話では話していたが、雛人形という親の愛情の記憶にすがろうとするほど、実際は心身共にボロボロだった。雑然とした部屋の一隅にスペースを作り、そっと箱の蓋を開いた。




ーーない。中身がどこにもない。
女雛と男雛、二体だけの小さな雛人形が入っているはずの箱は空っぽだった。呆然としながら箱の中を覗き込んでいると、中に紙切れが入っているのに気付いた。



「美幸へ。雛人形が見たいのなら帰ってらっしゃい。お雛様は、家に飾っています」
ーーあぁ、気付いていたのか母は。この時初めて分かった。
周りが次々に結婚し子供を産み、置いていかれるような寂しさや焦りを感じていたこと。夢を叶えることなどとうに諦めていること。仕事に疲れ果てる毎日に…気付いていたのだ、母は。この短い手紙に、全てを許された気がした。真正面に実家に帰って来いと言われても、きっと拒絶しただろう頑固な性格も、家族の反対を押し切って目指した夢を諦めることも。



それが四年前の雛祭りのことだ。
いま目の前にはあの時の雛人形と、今年初節句を迎えた娘がいる。結局あの出来事を切っ掛けに実家へ戻り、見合い結婚をした。そして今こんなにも幸せだ。
いつかこの子が大きくなって家を出たとき、この雛人形を持たせよう。 そしてこっそり中身を抜いておくのだ。いつまでも自分の幸せを祈ってくれる人がいることを、思い出してもらうために。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン