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草愛やし美さん

時空文学コンテスト開催100回、おめでとうございます。思えば、初めて私が、こちらに投稿したのは2012年5月のこと、もう4年近く経ったのですね。時空モノガタリさまが、創作の場を与えてくださったお陰で楽しい時間を過ごすことができました。感謝の気持ちでいっぱいです。 また、拙い私の作品を読んでくださった方々に感謝しております。 やし美というのは本名です、母がつけてくれた名前、生まれた時にラジオから流れていた、島崎藤村作詞の「椰子の実」にちなんで……大好きな名前です。ツイッター:草藍やし美、https://twitter.com/cocosouai 

性別 女性
将来の夢 いっぱい食べて飲んでも痩せているっての、いいだろうなあ〜〜
座右の銘 今を生きる  

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恋人みかん

13/02/25 コンテスト(テーマ):第二十四回 時空モノガタリ文学賞【 受験 】 コメント:6件 草愛やし美 閲覧数:2184

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「大丈夫かな?」
「どんな試験だべ。それって、痛いのか? くすぐったいのだったらオイラ我慢するだんべ、だども痛いのはなあ……」
「駄目なんて言わせないぞ、俺らは絶対試験に受からなくちゃならないんだ。なにしろ俺らには、この実冠村の未来がかかってるんだからな」
「だよなあ、村のためにみんなで頑張って来たんだもん、絶対合格するよ」
「ところで、オイラまた忘れちまったよぉ、何て試験だべ」
「トウド、糖度試験だよ。それが終わったら晴れて村は救われるんだ」
「トウドだ、そうだべ、小難しいこと苦手だっぺ、けんど頑張るな」
「うん、みんな頑張ろうな。実冠村のためだ」

 みかんたちは、ドキドキしながら、糖度試験を受けるため行儀よく並んで順番を待っている。ここは、佐山農業試験場。ここでは、収穫された果実類の選定試験が行われているのだ。毎年、様々な農作物がこの試験場でテストを受け、華々しく市場に出ていく。試験場でお墨付きの評価が下されればブランド物として、販売することも可能なのだ。
 実冠村では、昔から段々畑で細々と蜜柑の木を育ててきた。何一つ産物と呼べるものがない田舎の村だったが、昨年から大プロジェクトが始まった。『村おこし』だ。――近年、あちこちの田舎の村で取り入れられるようになり、それによって村が驚異的に活気溢れるものに変われるかもしれないのだ。
 何か我が村でもできないかと秀一は、ずっと考えてきた。秀一は、都会からUターンで帰ってきたばかりの若者。ささやかな農園をしていた父親が病に倒れたのを期に、戻ってきたのだ。村は秀一が暮らしていた頃に比べ、相当寂れていた。そこで根を張って生きていこうと決めて戻ってきた秀一は、寂れた村を見て悲しいというより悔しくて涙が出た。自分が故郷を捨てたために、村がそんな風になったように思えてならなかった。
 村にある最大の宝といえば、蜜柑。それで勝負することを村民一致で決めたのも秀一だった。村民一致といっても村の人口は、減少する一方で、今では僅か数十軒になっている。どの家も農家だ。それでも海風を受ける棚田には、昔からの蜜柑の畑が広がっていた。蜜柑は温かい気候のお蔭でごく普通に育てても美味しい蜜柑に育ってくれた。

「だが、そんなんじゃ駄目だ! 糖度が日本一になるくらいのものを狙わなくては、村おこしなんて無理だ。実冠村のみかんたちを、ブランド蜜柑にするんだ」
 そう宣言した秀一は、蜜柑の販売路線を拡充するには、ブランドが大事だと、村民に説いて回り、栽培法を研究した。みかんたちにも、夢を話した。
「なあ、お前たちの頑張りが必要なんだ。この村を救えるのはお前たちみかんにかかっている。みんなで受験して欲しいんだ」
 みかんたちは、初めてんでバラバラにおしゃべりなどして秀一の話に耳を傾けようとしなかった。だけど、熱心に蜜柑畑を手入れする秀一にいつしかみかんたちの心も動いていき、やがて人とみかんたちは、その壁を超え、糖度試験を受験することを決めたのだ。そして、合格するという目標に向かってその心を一つにしていった。

「村のため、一致団結、目指せ糖度日本一! 試験に合格だー」
 夢に向かって人もみかんも、精一杯努力する苦しい日々が続いていた。
「く・く・ぐるじいよぉ、水がほじいよ……」
「みんな、すまない、糖度を上げるために水を減らしているんだ、何とか堪えてくれ」
「だ・だ・大丈夫だよ、秀さん、俺らみかんも頑張るから、一緒に合格しような」
「あ・ありがとうみんな。この時期を超えたらお水たっぷり飲ませてあげるからね」
 秀一は、みかんたちの気持ちをわかるために、同じようにお茶を断ち、水分を控える日々を過ごした。

 ☆    ☆

 みかんたちは、緊張して黄色い顔をますます黄色く輝かせた。ピカッ! 糖度計のランプが光った。
「数字は?」
「糖度20、やったー、やったぞ、みんな」
「わーい、合格だ」
 秀一とみかんたちは、肩を組み涙を流し喜んでいる。
「いろいろあったべ、けんど、受験って気持ちいいだっぺ」
「よく言うよ、お前一番嫌だって言ってたじゃないの」
「オイラ知らねぇよぉ」
「俺、俺、何か顔が冷たいよ、どうなっちまったのかな?」
「お前、泣いてるんだよ、涙、涙出てるよ」
「だって、秀さんも泣いてるよ、ほら顔がくしゃくしゃになってる」
「ありがとう、みかんたち、苦労かけたけど、今日のこと忘れないよ。一つの夢をみんなで追いかけたこと素晴らしかった」
 試験会場に泣き笑いの顔が溢れている。実冠村の奇跡が起こした「恋人みかん」の誕生の瞬間だった。

 熱い想いを共に分かち合い、奇跡を生んだ恋人みかんは、二人一緒に食べると甘い恋が実ると噂されるようになり、小さな実冠村は、みかんたちに逢いにやって来る恋人たちで、大変賑わっている。


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このストーリーに関するコメント

13/02/26 泡沫恋歌

草藍さん、拝読しました。

すごく良いお話ですね。
みかんたちが「トウド」試験を受けるなんて奇抜な発想で驚いた。

みかんたちが可愛くて何だかほのぼのしながら読んでしまった。
「合格おめでとう!」頑張ったみかんたちと秀一に拍手です。

13/02/26 笹峰霧子

蜜柑の産地はうち(愛媛県)だべ……と思いながら読みました。笑
なるほど糖度を増すには日照りが必要なんですね。
私も甘い蜜柑の生産者のを買います。

恋人みかんはどんな味かな。
実冠村に恋人と行って食べてみたいな。

13/02/26 kotonoha

草藍さん 農家のことよくご存知ですね。
糖度を増すために人もみかんも一丸となって頑張るという発想は素晴らしいですね。
私の生れた里も農家ですのでよくわかります。
読ませていただいてありがとうございました。

13/02/27 そらの珊瑚

草藍さん、拝読しました。

実家で同じように段々畑で蜜柑栽培をしていましたので、その頃を思い出して懐かしく、蜜柑がますますカワイイ果物に思えてきました。
糖度20は驚異的な数値ですね♪ オメデトウ!

13/02/27 ドーナツ

拝読しました。
最初のセリフのやり取り、面白い。一体何が起こるのか、先が気になる始まりです。
コメディータッチだけど、人生で大事なこと教えてもらったような気がします。
一生懸命頑張って、始め甘くて良いものになるんですよね。最初から努力もせずにいたらダメなんだ。苦労して手に入れたもの、すごく嬉しい。泣き笑いという言葉から それすごく感じます。

13/03/10 ohmysky

何弁かは分かりませんけど、みかん達のセリフ回しが素晴らしく良いですね。まるで本当に聞こえてくるようでした。
絵本になったら良いと思います。

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