kouさん

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S.R

13/02/25 コンテスト(テーマ):第二十四回 時空モノガタリ文学賞【 受験 】 コメント:0件 kou 閲覧数:1818

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 税理士受験生にとって真夏の大決戦が終わった。毎年、試験が連日猛暑を記録する夏に行われるのは、試験に受かる、受からない、は別として、その前段階である人間としての気力≠問われている、と税理士である相原大輔は思っている。会計士と並び税理士は会計℃相iの最高峰。全十一科目ある中から五科目を合格すればいいわけだが、一科目の勉強範囲は広く、深い。それ故に、数科目は合格するが気力が続かず、脱力する者が多い。結局は一握りのシビアな世界だ。だが、これだけは言える。諦めなければ、いや、努力すれば、継続すれば必ず合格する。まあ、受かってからが大変なわけだが。
 相原はデスクに座りコーヒーを啜った。
「ボ〜ス」と愛嬌抜群の絵美が相原を呼び、「これが面接リストです。ボスの空白の予定なんですけど、面接の都合上、空白無くしときましたから」と嫌みを放った。
 やれやれ、受験生は大変だ。次は就職面接を受けなければならない。試験と試練の連続。それを乗り越えて一人前になるのだが。
「イケメンがいいな〜」と絵美の陽気な口調が事務所に響いた。それは独り言というよりは、相原に向けて言っているようだった。
 相原は面接リストを眺め、ある名前に目が止まった。「やはり来たか、坂本隆太」
 かつての出来事を思い返し彼はもう一度、コーヒーを啜った。

 税理士試験『相続税』が始まった。試験の十五分前にトイレを済ました隆太は半ばリラックスと安堵を決め込んでいる。というのも、昨年で五科目合格するはずだった。が、昨年の『相続税』受験の際に膀胱が破裂しそうなぐらい危険な状態に陥った。その為に、思考回路は混濁し、理論問題は支離滅裂であり、計算問題は凡ミスの大量出荷状態だった。今年はその経験を活かした。試験問題の意図を理解し、学習することも大事だが、なにより、心体のバランス、というのを考えさせられた。緊張、興奮、焦燥、五科目リーチがかかれば尚更だ。
 二十五歳の隆太にとって、税理士を職業にするのは必然だった。いや、偶然?偶然と偶然の積み重ねが、今という必然を迎えているのかもしれない。中学生の時に、父親が経営していた小さい会社が倒産した。経営は事業プランだけを立てればいいわけじゃない。資金繰りがある。一年ほど取引があった会社から『現金から手形に切り替えて欲しい』と云われ父は独断で承諾。だが、取引先は倒産した。そして現金化できない手形が残され不渡り手形となった。大方の中小は取引先から今月入るお金を当てにする。そして手形で商品を仕入れる。なので取引先が倒産すれば、それは連鎖する。借金は税理士の相原さんがある程度整理してくれ、その手際のよさに隆太は尊敬の念を抱いた。父は、愚かだ。結局両親は離婚、隆太は母に引き取られた。
 相続税の試験が終わった。結果は十二月、全てを出し尽くした。後悔はない。来年また受ければいいや、という未来予測もない。今年で決める。それが隆太の決意だ。

 十二年前の相原は商店街が好きだった。活気、熱気、魅力ある惣菜と人情の詰まった料理、それらが好きだった。その日も、仕事帰りに小腹が空き商店街に寄った。その時だった。「この野郎、ふざけんなよ」
 相原は声のする方に目を向けた。少年二人が取っ組み合いの喧嘩をしていた。彼は駆け寄った。「おい、やめるんだ」
 二人を離した相原は一人の少年と目が合った。「相原さん」「隆太君」声が交錯した。もう一人の少年は「ふざけんな」と口元を拭い立ち去った。
「なにをしてるんだ」と相原。「金持ちから貧乏か、ざまあねえ≠チて言われてカッとなって。ムカつくしふざけんなって感じだよ。全ては父親が悪い」と隆太は涙声で言った。彼の頭髪は金に染まり、制服もだらしない。いわゆる不良化していた。
「隆太君はそれでいいのか。悔しいんだろ。暴力はよくない。それでは何も解決しない。悔しかったら、相応の実力をつけ、実績を積み上げろ」その後、相原は隆太と一緒に焼き鳥を食べた。しかし、そこに会話はなく隆太の涙の音だけがこだましていた。

「ボス、合格しました」と隆太は合格証書を掲げ、「おめでとう」と相原と抱擁を交わした。十二月の寒さは隆太にとって温かいもになった。
「終わりが始まり」と相原は真剣な眼差しをし、「試験は終わった。次は実務の底あげだ。なので『サイバーレヴォリューション』の担当を持ってもらう」とニヤッとした。
「ITですか?」と隆太は喜びを抑えいい、「うん。それを英語表記にしてみなさい」と相原。
「S・・・R、ですか?」
「君のイニシャルだ。それは君のお父さんの会社だ。始めたんだ。まだまだ小さい。君が力になってあげなさい」と相原は言った。
 隆太は天井を見上げ、複雑な心境になり、でも、なんだか目頭が熱くなるのを感じ、「はい」と相原を見つめ力強く応えた。


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