1. トップページ
  2. 風師中級試験

そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
座右の銘 珊瑚の夢は夜ひらく

投稿済みの作品

5

風師中級試験

13/02/24 コンテスト(テーマ):第二十四回 時空モノガタリ文学賞【 受験 】 コメント:7件 そらの珊瑚 閲覧数:2794

この作品を評価する

ここは風師たちの住む丘。外の世界からは透明なシールドによって、隔離かつ保護されていた。あの時代の反省によって。
 今から数百年を遡った話である。貴重なレアアース資源をめぐって内戦が起きた。稲を育て、水を尊び、家畜を放牧し、野で歌を唄い、豊かな自然とともに質素に暮らしていた民の生活が一変してしまった。目先の金に目がくらんでしまった。
レアアースが産出される土地を奪おうと、民は歌を捨て、その代わりに武器を手にし、戦った。結果、たくさんの命が失われ、無計画に掘りつくされ、無限に金を産むと思われたレアアースはすぐに底をついた。あとには荒廃した世界だけが残った。
──風師(ふうし)。風を作り世界へ送り出す専門技能者。地球のあらゆる自然事象を把握し、最適な風を作り出すことを仕事とする。
 風師のほとんどが死んだことで、世界は無風になった。風が吹かない。それがどんなに恐ろしいことなのか、人々は知った。海も森も野も澱み、腐敗し、悪臭を放ち始める。
しかし奇跡的に生き残った一人の風師によって、かろうじて産み出された風によって、世界は踏みとどまった。人々は思った。風は目に見えぬ。けれど目に見えぬからこそ、もっと大切にしなくてはならない、と。風が吹くからこそ、今日が明日へとつながっているのだと。そしてその風師は、師範と呼ばれ、この丘で風師の卵たちを育てることとなった。
「ねえ、トーヤ。明日は風師中級試験だね」
 学科授業の帰り道、同級生のユエンが背中にくくりつけた百個ほどの風船を器用に操りながら言った。
「一応、ヤマはかけたんだけど、ね」
 ユエンの背中にもいくつもの風船がゆらいでいた。そのひとつひとつに、大切に育ててきた風の赤ん坊が入っている。
「去年はミストラルだったろう? あれは高難度の技が要る風だ。あいにく落第点だったけどさ」
「お互いにね」
「だから今年はその逆をいって、スプリング(春風)じゃないかと思うんだ」
「ちょっと易しすぎやしない?」
 いつもしかめっつらをしていて、にこりともしない、いや、たとえ笑ったとしても使い古されたモップのように伸びた髪でによって、その目はほぼおおい隠されてわからないのだけれども厳しい師範の顔をユエンは思い浮かべた。退屈な羅針方位の授業で居眠りをしてしまった時、とんできたチョークがものの見事にユエンの眉間に命中したことも。
「ウラのウラをかくのさ」
 トーヤはウインクした。ユエンはため息をついた。こんな調子でもう何回ともなく風師中級試験に落ちている。
 しばらく行くと、サイ少年に出会った。
「やあ、トーヤ。ユエン。ねえ、明日はどんな風が吹くのかな?」
「それは僕たちにもわからないよ」
「ちぇっ。びゅーびゅーの風、吹かないかなあ」
「なんで?」
「あさって、父ちゃんの船が出航するんだ。たぶん一年は帰ってこられないって。だから明日、凧揚げする約束なんだよ。凧が上がらなかったら、がっかりさぁ」
 サイ少年の父は遠洋漁業の船長だった。
「びゅーびゅーの風が吹くといいね、サイ」
「ちぇっ人ごとだと思って」
 三人は白いジャスミンの花が咲き始めた四辻で別れ、それぞれの帰途についた。
 家に帰ったユエンは、もしかしてと薄桃色の風船を取り出し、優しく磨いた。風の赤ん坊は気持ちよさそうに、きゅう、と鳴いた。それからおもむろに教科書を開き、スプリングのページを丁寧におさらいした。
 翌日、試験科目が発表された。
『リトルスプリング』
 春風の中でも最もセンシブルな性質を持つ風であった。
 ──やっぱり師範は一筋縄でいかないな。ユエンはひとりごちた。
 一方トーヤは小さくガッツポーズをし、ラクショーとつぶやいた。スプリングのページはくまなく見直してきたからだ。とんでもないヘマさえやらかさなければ、合格する自信があった。しかし、トーヤがスプリングの風船を最後に押し出す時、サイ少年の顔がふとよぎった。
『びゅーびゅーの風』
 そしてトーヤは、そのヘマをやらかしてしまった。ほんの少し力が入ってしまったため、その風はビックスプリングになってしまったのだった。もちろん結果は不合格だった。その時師範がかすかに笑ったのを誰も知らない。
『トーヤよ。まだまだ修行が足りぬな。だが少々時間はかかっても、おぬしはいい風師になるじゃろうて』
 
 その頃砂浜で、サイ少年の父が揚げる凧が強い風を受けて空高く舞っていった。
『びゅーびゅーの風だぁ!』
 おまけにサイ少年の被っていた麦わら帽子までも、その風はくるくると巻き上げていった。白いかもめが浮力によってさらに高い空へと翔んでいく。風には色もカタチもないし眼には見えない。しかし確かに存在する、と人々は知っていた。
 


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

13/02/24 そらの珊瑚

画像はGATAG Free Photo 2.0サイト様よりKat...B様の作品をお借りしました。

13/02/24 クナリ

奥行きがありそうな世界観が最小限に説明されて、魅力的なキャラクターたちがその上を軽やかに生きていく雰囲気がいいです。
掌編のファンタジーはよく設定を連ねるだけで終わってしまい、読んでいて疲労感を覚えることも多いのですが、この作品は無理なくストーリーに入り込んでいけました。

13/02/24 そらの珊瑚

クナリさん、ありがとうございます。

ファンタジーの世界を描く時、なるべく説明に頼らないよう(おっしゃるとおり読んでいてストレスを感じてしまう事がありますので)気をつけてはいるのですが、前半部分、やや長くなってしまったかなと思っています。
魅力的なキャラクターというこのうえなく嬉しいお言葉をいただきまして、感謝いたします。実はこの作品、結構な産みの苦しみがありました。

13/02/24 草愛やし美

そらの珊瑚さん、拝読しました。

独特の世界が広がっていて思わずのめりこみました。そして、とっても素敵な風師の卵さんたちの未来に期待しています。

そっか、風って大事なんですね、あまりにも身近すぎて私たちが気づいていないことがまだまだこの世にはあるのかもしれませんね。普段は、目にも留めていないようなことがとても大切なんだと気づかせていただきました。

13/02/25 泡沫恋歌

珊瑚さん、拝読しました。

風師という風を自在に扱う専門技能者の試験とは意外な発想でした。
不思議な世界感のファンタジーを可愛らしく味付けしているなあと
感心させられました。

楽しく読ませて頂きました。

13/02/27 そらの珊瑚

草藍さん、ありがとうございます。

風ってほんとに不思議です。どこから生まれてくるのでしょうか?
メッセージを受け止めていただき、嬉しいです。

13/02/27 そらの珊瑚

恋歌さん、ありがとうございます。

架空のお話の中で、日夜試験合格を目指して頑張っているこどもたちの
素朴なキャラクターを感じていただけたら嬉しいです。
現代日本社会では許されないゆるさかも(笑)

ログイン