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ゾンビ女

13/02/19 コンテスト(テーマ):第一回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 おでん 閲覧数:1714

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 今回は、人間としての生活に戻るまでに、それほど時間を要さなかった。
 その間、世の中では大きな地震が起きたことをきっかけに、めまぐるしい変化をみせていた。原発関連での記者会見で、テレビによく顔を出す人がちょっと好みだった。でもその人は、世間の多くの人からは嫌われているようであった。昔から、わたしが好きになる人はみんなから嫌われている。それとも、みんなから嫌われている人をわたしが好きになっているのだろうか。鶏が先か、卵が先かではないけれど。とりあえず人間にもどれた今、どうでもいいことだけれど。
 
 また暴れられると困るのか、退院してすぐに、母はパソコンと携帯を返してくれた。
 こうして久しぶりに文明の利器を手にしたわたしは、人間としての生活を取り戻した。
お気に入りからすぐにとべるようになっているあなたのブログは、壁紙が「草原」から「毛糸玉と猫」に変わっていた。わたしが入院している間もしっかりと更新はされており、内容は相変わらず、日常がつらつらと綴られているだけだ。
 他のブログを覗き見ることにも熱心なあなたは、他人の記事をコピーしてはりつけ、そのまま自分の日記として発表することがちょくちょくあった。加えてあなたは無職のくせに、有名スポーツ選手や作家の名言まで、さも自分の言葉のように平然と語ることもあるから凄いと思う。でも、個人や団体から訴えられる心配はない。カウンターとよばれる訪問者の数をカウントしている値を見る限り、あなたのブログを楽しみにしている読者は、たぶんこの世に一人だけだから。
 日曜日の深夜にアップされる日記は、前日の土曜日にナンパしてひっかけた女のことが主だった。そしてその女とどのような夜を過ごしたかというが、惜しげもなく書かれてある。おおよそ新宿辺りで繰り広げらるデートやセックスのコースがワンパターンなのは仕方のないことだった。わたしが知る限り、あなたはナンパなどできるような性質(たち)ではなかったし、玄人以外の相手と経験をもったことがあるのかさえ疑わしかった。あなたの日記は、女は全員キティちゃんと蜂蜜が好きだと信じこんでいる男と同じで、うんと薄っぺらい。当人を知っている者から見れば、自分の影にしか虚勢を張れない小型犬と、なんら変わりなく思えてしまう。
  
 月に一度、ナンパでひっかけた女とは別に、「S」というスチュワーデスの女が登場する。わたしはその「S」の正体を知ってした。高校のとき、わたしたちと同じクラスだった「S」はよくモテていた。胸が小さいということをのぞけば、他は全部手に入れてしまったかのような女で、将来はスチュワーデスになるのだと周りに公言していた。あなたは、そんな彼女を取り巻く親衛隊みたいな団体の、末端構成員として存在していた。でも、彼女からの恩恵を受けている様子はなかった。卒業式の日、勇気をだして彼女に声をかけて、誰だっけ? と辛辣な言葉で返されたあなたを見、わたしは思わず泣いてしまった。そして、ますますあなたを好きになった。想像上、わたしの胸のうちで泣くあなたの顔は、深夜の街灯に照らされた残雪みたいにいつもはかなくて危ういものだった。こちらの気持ちまで、危うくなってしまうほどに。
 
 高校を卒業してから数年後、あなたを見つけたときと同じやりかたで、わたしはネット上に「S」を発見した。彼女はスチュワーデスにこそなれなかったものの、空港で受付や案内を担当するグランドスタッフとして働いているようだった。日本に夜と朝とがあるように、いつわりだらけのあなたの日記が夜だとしたら、真新しいスウィーツと旅行レポが主な彼女の日記は間違いなく朝だった。わたしみたいな生と死を何度も行き来しているゾンビ女には、まだ前者に触れていた方が心地よい。わたしは匿名で、夜のブログにメッセージを送った。そのメッセージには朝のブログのURLを貼付けておいた。返信はなかった。だから、あなたが彼女のブログを読んでいるのかどうか定かではないけど、もし読んでいたとしたら、少しは優越感を覚えていることだろう。あなたのブログに一日百回以上おとずれている、このわたしのように。

 今年で共に二十八になる。心が病んでいるわたしは相変わらず入退院を繰り返し、十年前に「誰だっけ?」と好きな女に言われたあなたは、今でも職に就くことなく、嘘の日々をネット上にアップし続けている。
 お互いぎりぎりだ。
 限りなくアウトに近い。
 でも、一言も言葉をかわしたことのないあなたとわたしの間に終わりはない。そもそもなにもはじまっていないのだから、終わりを迎えることなど絶対にありえない。
 人間としていられる間は、あなたのもとへとんでいく。
 たとえ死んだとしても必ず蘇り、とんでいってみせるのだ。 (了)


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