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堀田実さん

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もしかしたら今日、私は死んだのかもしれない。

13/02/17 コンテスト(テーマ):第二十五回 時空モノガタリ文学賞【 雛祭り 】 コメント:0件 堀田実 閲覧数:1829

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『雛人形の起源は身代わり。平安時代には赤ちゃんはよく死んでいた。人形は災厄を引き受ける。災厄を引き受けた人形を流す「雛流し」という風習は今でも残っている』

高校時代のノートにそんな記述を見つけて彼と笑い合う。
「何これ、めっちゃ怖ぇじゃん。もっと優雅な由来だと思ってた笑」
「ホント。私もそんなこと書いた覚えないけど、古文の先生脱線ばっかりしてたからなぁ」
引越しの準備をしてるのに私たちも脱線ばっかりしてるから、いっこうに片付けが進まない。思い出は宝探しみたいに部屋のいたるところに散在してるのだ。それが良いものにしても悪いものにしても、忘れていた記憶を思い返すのは楽しい。彼と二人で語り合えるのならなおさらだ。
「あっ、これ成人式の時じゃない?」彼が言う「わぁ、朱美、やっぱ和服姿めっちゃ綺麗じゃん」
思わず頬が緩む。特に和装で結婚式をあげたいと思っていたわけじゃないけど、どうしても神前式でと言ってきたのは彼の方だった。
「そういえばどうしてそんなに和服が好きなの?」
私はなんとなく聞いていた。前から何かを濁すニュアンスがあったから、特に何も考えずに尋ねていた。
「話していいのかなぁ…?」
そう言いながら彼は語ってくれた。彼が言うには彼がまだ小さい頃、幼稚園の帰り道にたまたま白い衣に身を包んだ女性を見たことがあったそうだ。頭に白い太陽のような円のある白無垢を着て、参列者を引き連れて神社の境内を歩いていた。今まで一度も見たことがない情景に少年ながらに心を奪われてしばらく立ちすくんでしまったらしい。その様子に気づいた白塗りの女性は彼の方を振り向くと、ゆっくりと微笑んでくれたそうだ。あとあとそれが結婚式だったのだと知ると、将来はどうしても神前式をと思っていたらしい。
「なんか憧れなんだよなぁ。」
「そういうのあるかも〜。アヒルの雛がはじめて見たものを親だと思う感じだよね」
「なんだよそれw」

 3月3日。結婚式の当日はとても緊張した。まるで音楽祭でスポットライトを浴びた舞台に立つみたいに、今まで過ごしていた時間とか両親がいることとか今生きていることとか全部が光になって今日という日に集まっているような、そんな大切な日のように思えた。結婚式だから当たり前だけど、化粧師さんに水化粧をしてもらっている間、私は涙をこらえることができず白塗りが落ちないようにティッシュが必要になった。鏡に映った白い顔の私を見ると彼の言っていた情景が重なる。「私は誰?」おどけて言ってみる。「私は朱美?」
 神社での結婚式ということがあってすべてが神妙に進んでいった。ひたすらゆっくりとした時間の中に足をすすませる。神楽鈴の音が私の中に染み込んでくる。退殿する時には空は目を覆うほどに明るかった。
 集合写真を撮る段になって父は泣いていた。式中は泣いてなかった筈なのに、堪えていたんだろうか。こうして見ると父の涙ははじめて見た気がする。いったい嫁ぐということはどういうことなんだろう?これから私は彼のものになるんだろうか。今までは父に育ててもらっていたけど、私は今日から違う家に入るのだ。苗字も変わる。夢にまで見た日が今日なのだ。ブライダルプランナーの人には「結婚は終わりじゃなく、はじまりです」って言われたけど。
 「みんな笑って〜、撮るよ〜」叔父さんがおどけた調子でいう。「おっ、こうして見るとまるで雛祭りみたいだなぁ〜。新郎新婦を後ろに立たせようか?」
「それはアカンよ。主役が後ろじゃ肝心の二人が目立たないじゃねぇか」
彼のお父さんが少し怒ったような調子で言うとみんな笑った。こうして一人だけ違う顔で残る写真も一つの記念なのかもしれない。

高校時代のノートにはこう書かれていた。
『雛人形の起源は身代わり』
私たちが雛人形なら私は何の身代わりなんだろう?バカみたいなこと考えてみる。今日もし本当に雛人形になったのなら、私は災厄を引き受けて川に流されなくちゃいけないや。生まれてすぐ死んでいく運命にある赤ちゃんたちの代わりに、私は流されていく。二人そろって船に乗って流されていき、やがて海に漂流して沈んでいく。
 でもその代わりに赤ちゃんは生きるんだ。雛人形が災厄を引き受けてくれるから、赤ちゃんは元気に育つことができる。
「これってハッピーエンドかなぁ?」私は帰りの車の中でたわいもない妄想話を話すと彼は「うん、ハッピーエンド」と言いながら流れゆく景色を眺める。
「だって、そうやって父さんも、爺ちゃん婆ちゃんも、もっと前のご先祖様だってやってきたんじゃないか」彼は続ける。「俺たちの変わりに赤ちゃんが生きるんだから」
私は無意識にお腹をさすっていた。まだ妊娠もしていないのに。もしかしたら今日、私は死んだのかもしれない。


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