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泡沫恋歌さん

泡沫恋歌(うたかた れんか)と申します。

性別 女性
将来の夢 いろいろ有りますが、声優ソムリエになりたいかも。
座右の銘 楽しんで創作をすること。

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命の螺旋

13/02/15 コンテスト(テーマ):第一回 【 自由投稿スペース 】 コメント:15件 泡沫恋歌 閲覧数:2314

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「ああ、確か……この辺りだったわ」
 妙子は雑草に覆われた空き地に立って、敷石を探しながら玄関のあった場所を探っていた。
 こんな草ボウボウの空き地にかつて民家があったことなど誰も知らないだろう。
 そこには青々した柘植の垣根に囲われた、庭付きの二階家が建っていた。そこが紗子の生まれた家で両親や兄弟たちと暮らした場所だった。
 玄関の前の敷石がやっと見つかったので、そこに花を置いて線香を立てる。両手を合わせて祈れば――あの日のことが妙子の脳裏に浮かび上がってくる。

 昭和四十年代、小学校三年生だった紗子には中学一年生の姉と五年生の兄がいた。父は農協に勤めていて、母は専業主婦だった。
 どこにでもあるような平凡な家庭だったと思う。全て失くして、当時を振り返る写真もないが、父の実家に両親の結婚写真と兄弟のお宮参りの写真が残されていた。
 あの日、紗子は熱があって学校を休んでいた。季節の変わり目にはよく熱を出す脆弱な子どもだった。いつもは二階の子ども部屋で寝ているのだが、母が看病のため一階の寝室に寝かされていた。
 その日、お父さんの給料日なので夕飯はすき焼きだった。
 隣の部屋から美味しそうな匂いが漂ってくるが、紗子は熱があるので食べさせて貰えなかった。
 けれど、お母さんは林檎をすり潰してジュースを作ってくれたし、お姉ちゃんは図書館で借りた「小公女」を読んでくれた。いつもは乱暴なお兄ちゃんまで心配そうに覗いてキャラメルの箱を置いていった。お父さんは「また、紗子は熱出したんか? もっとご飯食べんと大きくなれんぞ」と、大きな掌でワシワシと撫でてくれた、温かい家族の愛がそこにあった。

「妙子、妙子起きて!」
 真夜中に叫ぶようなお母さんの声で妙子は目を覚ました。
 パチパチと弾けるような音がして、襖やカーテンが赤く燃えていた。寝ていた妙子を抱きかかえるようにして、母は広縁から外へ飛び出した。いったん、垣根の向うまで出ると妙子をそこへ横たえて「お父さんと子供たちがまだ中にいる」そう呟くと「妙子、ここを動くんじゃないよ。お前は残るんだ!」そう叫んで、再び家の中に母は飛び込んでいった。
「お母さーん! お母さーん!」
 燃え盛る家に向かって妙子は必死で叫び続けた。

 父はお酒を飲んで奥の部屋で熟睡中、二階の子ども部屋の兄弟は逃げ遅れ、家族を助けようと炎の中に戻った母も焼け死んだ。ほぼ、家が全焼してから消防車がやってきたが、保護された女の子は泣いてばかりで喋れない状態だった。
 一夜にして妙子は家族を失い独りぼっちになった。出火の原因は漏電だったという。戻らなければ母の命が助かったのに、なぜ? あの夜のことを思い出すと妙子は悔しくて悲しくて、やり場のない怒りを覚えた。
 その後、妙子は父の実家の伯父に引き取られた。伯父夫婦には子どもがいなかったので大事に育てられたが、どんなに楽しいことも妙子は心から楽しめない子どもになってしまった。自分一人生き残ったことに罪悪感があった。

 いつも考えていた、神様はなぜ妙子だけを生き残らせたんだろう? 
 
 答えが出ないまま、妙子は大人になり結婚して子どもを産んだ。初めて我が子をこの手に抱いた時、母が生きていたらなんて言うだろうと思うと涙が溢れた。自分は生きていたから再び家族を作ることができた。きっと神様は父や母の遺伝子を後世に残すために妙子を生き延びさせた。最後に母が言った「お前は残るんだ!」それはこういうことだったのだ。我が子を抱いてそのことを実感した。
 DNAの螺旋、遺伝子の情報が詰まっている。ひとつとして同じものはない。血は命で繋がっていく。

 妙子には二人の息子がいる。長男はアメリカで結婚して、年に一度、金髪の嫁と混血の二人の孫を連れて日本に帰ってくる。三十歳になる次男は自動車メーカーに勤めて、親と同居している。結婚しないのは心配だと思う反面、いつまでも傍に居て欲しいという親のエゴもある。
 いつもなら夫の運転で実家の供養に来るのだが、今日は次男の車に乗せて貰った。白いワゴン車に向かって妙子は歩き出す。

「待たせてゴメン!」
「ああ、もう終わったの」
 車のシートをリクライニングさせて次男は音楽を聴いていたようだ。
「草ボウボウで家の跡が分からなかったよ。だけど、ここに母さんの家あった」
「母さん、俺さあ、今度結婚しようと思うんだ」
「えっ!」
 いきなりの次男の言葉に驚いた。
「彼女のお腹に俺の子どもが居るんだ。男としてケリをつけて結婚するよ」
 そういって照れ臭そうに笑った。
 ああ、家族が増えるのは本当に嬉しいことだ。
「おめでとう!」

 実家のあった草叢に向かって、妙子は呟いた《お父さん、お母さん、あなたたちの血を繋ぎましたよ》DNAの螺旋は新しい命へ繋がっていく。


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このストーリーに関するコメント

13/02/15 泡沫恋歌

以前に、テーマ【 兄弟 】を書いた時に、次は家族が来るかもと思って考えて置いたアイデアです。

【 自由投稿スペース 】がきたので、お蔵にするのも何だし・・・ここに投稿しました(笑)


写真はDNAの螺旋です。
ウィキペディアよりお借りしました。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%82%AA%E3%82%AD%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%9C%E6%A0%B8%E9%85%B8

13/02/15 草愛やし美

泡沫恋歌さん、拝読しました。

辛い生い立ちの妙子さんは、家族を誰よりも愛おしむ方でしょうね。

DNAの螺旋、そういえば、ヒトゲノムの塩基って螺旋状でしたね、そんなことを思い起こしました。

命というものを深く考えさせるよい作品だと思いました。

13/02/16 笹峰霧子

読み進むにつれ悲しい思い出の中に引きこまれて胸が傷みました。それを乗り越えて大人になり家族を持った妙子。力強いですね。
つながれていく生命の逞しさをつくづく感じました。

13/02/16 そらの珊瑚

恋歌さん、拝読しました。

最後に、自分の存在意義を見つけることが出来て良かったと思います。
私たちの中にある、命の螺旋についておもいをはせ、神聖な気持ちになりました。

13/02/16 こぐまじゅんこ

泡沫恋歌さま。

子どもたちが結婚して子供を授かっていく・・・、そういうことが
つながっていって今があるんですよね。
命のつながり を感じました。

13/02/17 泡沫恋歌

草藍さん、コメントありがとうございます。

この物語はDNAの螺旋を見た時にフッと浮かんだ物語でした。
人が生きる意味はいろいろあるだろうが、生物的にみたら、やはりDNAを
残すことなんだろうなあ〜と思いました。

死んだ人たちもDNAの中で生き続けるんですよ。

13/02/17 泡沫恋歌

笹峰霧子 様。

読んでくださりありがとうございます。

辛い運命を背負っていても生きていくことで、新しい人生や
自分の家族を持つことができます。

そうやって、命は繋がれていくんですね。

13/02/17 泡沫恋歌

そらの珊瑚さん、コメントありがとうございます。

この物語は、いつもの泡沫恋歌らしくない真面目なテーマでした(笑)
遺伝子を通じて私たちの魂は遥かご先祖さままで繋がっているんですよ。

そんな気がして書いた作品です。

13/02/17 泡沫恋歌

こぐまじゅんこ 様。

コメントありがとうございます。

私たちは子どもを産んだ母親なので、自らの身体に新しい生命を宿した
ことがあるので、この感じが分かり合えると思います。

身体に宿った生命は、原始から脈々と続いた遺伝子の流れなんですよ。

13/02/18 石蕗亮

泡沫恋歌さん
拝読いたしました。
生きることを望まれた存在
なんて羨ましいことでしょう。
命の連鎖が美しく感じました。

13/02/18 鮎風 遊

奥深い話しですね。

母の最後の言葉、よくわかります。
繋ぐということだったのだと。

13/02/18 泡沫恋歌

石蕗亮さん、コメントありがとうございます。

今回は少し真面目なテーマで書いてみました。
命を繋ぐ血を繋いでいくことは生物としての大事な役目ですからね。

13/02/18 泡沫恋歌

鮎風さん、コメントありがとうございます。

母親が最後に言った「お前は残るんだ!」はたとえ家族が死に絶えても
妙子だけは残って、家族の血を後世に残してくれという母の願い
だったのでしょう。

夫や子供を死なせて自分だけが生き延びることを
母は善しとしないで、死を覚悟して火の中に飛び込んだのだと
思います。

13/02/27 ドーナツ

拝読しました。

DNA,今、画像じっくり見て、そうか、DNAはつながっているんだとあらためて発見です。そうやって人も永遠につながっていくんだなと思います。

「男としてケリをつける」
このせりふ、かっこよくてしびれます。
辛い過去でも、良い家族ですね。、そしてこの先も素晴らしい家族を作って永遠につながっていくと思います。

13/03/05 泡沫恋歌

ドーナツさん、コメントありがとうございます。

子供が生まれることによって、命は次世代へと繋がっていきます。
DNAという命の情報も同時に受け継がれていくんですよね。
そう思うと命は永遠に繋がっていますよ。

ああ、そこの台詞ですが・・・
「男としてケジメをつける」にしたかったんですが、どうしても
「ケジメ」という言葉を思い出せなくて「ケリ」になったのです(笑)

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