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ちゃこさん

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見てみろ、未来は明るいじゃないか!

13/02/15 コンテスト(テーマ):第二十四回 時空モノガタリ文学賞【 受験 】 コメント:0件 ちゃこ 閲覧数:1652

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 携帯が机の上で振動する。硬い机の上から聞こえるそれは無機質で、ぽっかり空いた私の心の中と何も考えられない頭の中で響き渡る。しかし私は携帯を手に取ろうとすらしない。動くことも億劫なのだ。ぼんやりと見上げている空には飛行機が横断している。それに乗っているパイロットは想像し得ない努力を重ね、機体を動かす権利を手にし日々旅客を乗せ運んでいるのだ。パイロットが操作する機体の中で旅客たちの面倒を見ているCAだってそうだ。外来語を学び、作法を、緊急の際の対応を必死で学んで、それらの努力が実り今現在空の上で旅客を相手にしているのだろう。
 私以外の誰もいない部屋にまた響く、携帯電話の振動。メールボックスを開いたらどんな文面がそこに並んでいるかなんて簡単に想像つく。それらを振り払うように頭を振り、再び空を見上げた。今日の天気に感謝だ。こんなに真っ青で、何を考える必要もないと優しく包み込んでくれているようで、本当に空は偉大だと思う。その空にゆっくりと雲が流れてきた。それは突如表れたスケッチブックで、視界に入った瞬間真っ白なそこにつらつらと数字が左から右へ、段を変えてまた、左から右へ流れ記されていく。ああ、やめて。やめてくれ。記されていく数字の中に、私の求めているものはない。床に投げ出されている黄色い紙切れに記された数字の羅列、それがない。目を背けるなと言うのか。空にまで裏切られた気分だ。そのまま私は後ろに倒れる。すると次は天井に文字が羅列していく。受かっていたよ、そっちはどうだったの?
(煩い煩い煩い!!)
 腕を目に押し付け天井さえも見えないように。唇を噛み締め、浮かびそうな涙は裾に染み込ませてやる。現状なんか受け入れたくない。何も考えたくない。それなのに、同じ視線上にある床に落ちた紙切れが、ネットに掲載された数字の羅列が脳内にこびりついて離れなくて、生活の節々に浮かび上がる。突きつけてくる。お前は大学受験に不合格したのだ、と。
 パイロットとCAは、各々努力して認められてその職について働いている。努力は並大抵のものではなかったはずだ。見たこともない彼らの笑顔が想像上で綻んでいる。努力の末に職を得た時、嬉しかっただろうなあ。
 私にだって夢があった。望む学部があって、そこに向けて勉強して。大変だった受験生活の合間に何度も夢見たものだ。そこの学部に入ってどんな勉強をして、その経験を社会に出てどのように生かして、どんな職業に就こうか、何度考えたことか。そんな一連の過去の自分の行動すら今となっては笑えてくる。もう、叶わないのだ。私の努力は認められず、進学を求めていた大学は私を振り落とし、見下ろしてこう言い放つのだ。お前はお前の持つ夢に進む資格はない、と。
 水分を吸い続けた裾は本来の吸収量をオーバーし始めた。ああ、もうお先が真っ暗だ。これから何を励みに生きていけばいいの?また一からのスタートか。漏れそうな嗚咽を堪えていれば、ふっと顔に影がさした。腕をどけ、影を確認すれば、祖父が覗き込んでいた。あれ、確か十一月に死んじゃった、はず。
「なんで泣いとるんじゃ?)
腰を下ろし、私の髪を撫でながら独特の訛りでそう問いかける祖父に私は結果を見た時から一切口にしなかった言葉をとうとう吐露した。
「落ちちゃったぁ」
「私、頑張ったのにぃ」
「友達受かったのに、私、その子より努力したと思ってたのにぃ」
 泣きじゃくる私の髪を梳きながら祖父は目を細めた。思ってたより努力していなかったの?だから落とされたの?
「頑張っとったよ」
「なら何で?」
「神様がの?お前はそこに行くべきじゃないって思ったんじゃろう。そこじゃなくて、違う所に行ったほうがいいと思って、そこで新しい道を切り開いてほしいけえ落としたんよ」
 そう、だとしたら、ならば私の努力は無駄だったの?行くべきでない所に向けて頑張っていたなんて馬鹿みたいじゃない。
「違う違う。あんたは今までにないぐらいに努力したじゃろう?それだけ踏ん張れる人間だって分かったはずじゃ。これから壁にぶつかることが絶対に出てくる。その度にこの受験を思い出しんさい。そしたらそんな壁なんて低く感じるじゃろ」
 そうして壁を乗り越えて成長していきんさい。そう言ってくれる祖父はさっきまで見ていた空なんかよりも偉大な人間だと思った。
 目をゆっくり閉じ、一筋涙が頬を流れた。
 再び目を開ければ、そこに祖父の姿は無かった。私は体を起こし机にある携帯を手に取った。メールボックスを開き、返信の画面を開く。
 第一志望校じゃない所行くよ。大学生活楽しみ!
 ああ、受験生活で思い描いていたことと全く違うことに直面していくのだ。わくわくするじゃないか。両頬を叩き、私は座敷にある仏壇に向かって走り出した。
 とりあえず、じいちゃんに御礼言ってお線香をあげよう。


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