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藤代成実さん

性別 男性
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二十年越しの雛祭り

13/02/12 コンテスト(テーマ):第二十五回 時空モノガタリ文学賞【 雛祭り 】 コメント:0件 藤代成実 閲覧数:1600

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 もうそんな年ではない。
 十分わかってる。でも娘がお内裏様やお雛様を見ながら、無邪気に喜んでいる様子を見ていると、羨ましさと妬ましさが入り混じったような気分になった。
 窓の外には紅梅が咲いていてきれいだ。着物を着て、しっかりおめかしした娘も。
 私は小さいころ、雛人形を買ってもらえなかった。特別貧乏だったという訳ではないけれど、そういった「余分なもの」を買えるほど裕福な家庭でもなかったから、高価な雛人形を親にせがむことすら叶わなかった。雛祭りが近づくと、どこの家も雛人形を飾った。 梅が咲き始めるころになると、友達の家に遊びに行くのが嫌になった。もちろん友達を家に呼ぶことも。
 そういった過去もあり、娘には女の子として三月三日という日を、雛人形を前にして楽しんでほしかった。
一方で娘に対して激しいひがみもおぼえる。親として情けないことだけれど、このときばかりは私も少女に戻ってしまう。
雛祭りの飾り付けがあらかた終わったころ、夫が私を呼んだ。
「お前、着物持ってるか?」
「何でそんなこと訊くの?」
 私は怪訝に思って聞き返した。
「いいから着替えてこいよ」
 言われるがままタンスの奥から着物を引っ張り出し、慣れない手つきでそれを着た。着物を着るのは一人じゃまず無理だ。できないところは姑に手伝ってもらった。着物を着たのは結婚式以来だった。
 着付けが終わると、娘が私を迎えに来た。娘に手を引っ張られながら雛壇の前に連れてこられた。夫が笑顔でそこに立っていた。
「雛祭り、きちんとしたことないんだろ?しっかり楽しめ」
 困惑している私を尻目に、夫は「雛祭りできなかったってずっと愚痴るんだもんなー、おれに言われても困るって」と苦笑している。
「ママ、写真撮ろうよ、お雛様の前で」
 娘と私、二人で写真を撮った。カメラマンの夫に表情だけ見てるとどっちが子どもか分からんな、と笑われた。
 その後、生まれて初めて甘酒を飲んだ。今まで飲んだどんな飲み物よりも甘く感じた。二十年越しの私の思いが込められていたからかもしれない。


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