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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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流し雛

13/02/11 コンテスト(テーマ):第二十五回 時空モノガタリ文学賞【 雛祭り 】 コメント:2件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:2222

時空モノガタリからの選評

最終選考

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 丘の上からクバの大群がおしよせてきた。
 丸い胴に何十本もの触手をはやした生き物で、その強力な脚力は2,30メートルを軽く跳躍することができた。
 すでに大勢の仲間が倒された。
 イヨは窓から顔をはなすと、力まかせに壁をなぐりつけた。
「そんなことして、手が傷つくわよ」
 イヨのやけ気味な態度をヤエはなじった。
「クバがあらわれたんだ」
 悲痛な表情でイヨは叫んだ。

 大気と豊富な水に恵まれた緑なす大地の惑星を発見し、喜びいさんで宇宙船を着陸させたのは、数日前のことだった。
 自分たちの惑星が死滅して久しく、宇宙空間にしか生活の場をもたない何千人という地球連盟の人間にとって、この惑星の発見に歓喜の声をあげないものはなかった。
 空からの観測で多くの生物の存在が確認でき、地上には建物らしいものもないところから、それらは野生生物とみてまちがいなく、したがって縄張り意識がつよく当然、我々に対して敵対意識をもつとみるべきだろう。
 はむかってきたら、ただちに射殺しろ。
 かれらのつよい征服への意志は、惑星の生き物にたいするはげしい敵意とかわった。
 地上は起伏がはげしく、隊員たちは徒歩で惑星征服の第一歩をふみださざるをえなかった。
 最初に穴からあらわれたのは、固い殻におおわれた巨大な昆虫のような生き物だった。 穴からぞろぞろと、とぎれることなく出現するムメカと名付けた生き物をはじめてみたときヤエは、
「まあ、かわいらしい生き物だこと」
 背中のあたりにならぶ二個の黒丸が、おどけた目のようにみえた。
 そのムメカが、奇妙な行動にでた。
 前方にずらりと一列にならぶと、くるりと反対むきになった。
「歓迎のダンスでもおどってくれるのかな」
 イヨがそんな軽口をたたいたとき、いきなりムメカの腹部の後ろから、緑色の光のようなものがふきだした。
 ちかくにいた隊員たちが、硫酸にふれたような激しい痛みと熱さをおぼえて、のけぞった。
 ムメカはさらに、第二、第三の波状攻撃をしかけてきた。
 反撃をこころみようとした隊員たちに、またべつの穴から出現してきた何対もの触手をもった生き物の群れ(クバ)が、なにやらふわふわしたものをいっせいに吐きかけてきた。
 隊員たちは自分たちのからだ一面に、なにやら細長い、粘り気をおびたヒモ状のものがからみつくのをみて、手ではがしとろうとした。そのヒモのなかに大量の、つぶ状のものがまじりこんでいて、それが盛んにうごめきながら、皮膚にかみついてきた。そのうちひとり、またひとりと、倒れだす隊員たちをみて、後方にいたイヨはとっさにそばにいたヤエをひっぱって逃げ出した。
 二人が丘の中腹に設置した避難所に、なんとかにげこむことができたのは、まさに奇跡にちかかった。
 大地には無数の穴があいていて、こちらが想像もできないような攻撃をしかけてくるさまざまな生き物がそこから、つきつぎに出現しては襲いかかってきた。
 イヨとヤエは、避難所のせまい一室に、身をよせあうようにして座っていた。この避難所も、やつらに攻撃されたら、ひとたまりもないだろう。
「なにをしているんだ?」
 さっきからなにやら、ごそごそしているヤエに、イヨは声をかけた。
 ヤエは、手にしたものを彼のまえにさしだした。
 それは、はがした床板を、細工したもののようだった。さっきから焦げ臭いにおいがしていたのは、彼女が切断用に使用した熱光線銃のせいだった。
「へたくそだけど、お雛様のつもり」
 イヨはもちろん、お雛さまの意味をしらなかったが、雑に切ったその板は、男と女をかたちつぐっていることがわかった。
「わたしのとおい祖先の日本人たちは、厄や災難をこれに託して、流したの」
 いまの絶体絶命のなかにあって、じぶんたちにできることはそれぐらいねと、彼女はいっているようだった。
「流してきてやるよ」
 避難所のそばに、小川があったことをイヨはおもいだした。
「わたしもいく」
 イヨは反対しなかった。
 もうどこにいても、やつらから逃れるすべなどなかったのだ。
 小川の岸に、二人はしゃがみこむと、雛人形を流れにうかべた。
 もはや助からないとおもうと、奇妙に気持ちがおちついてきた。ふたりの心からはすでに、かれらへの敵対心も消えていた。というより、ながれゆく雛がかれらから、厄と災難と、そして敵意もいっしょに、もちさっていったのかもしれなかった。
 それまで周囲をとりかこむようにしていたクバたちが、しだいにイヨたちからはなれはじめた。
 そしてその後も、ふたたび襲いかかってくることはなかった。

 この惑星の生物と接するには、敵愾心をすてて、心から愛情をしめすこと。
 イオとヤエは基地にもどると、すべての隊員たちにそのことを伝えると同時に、みんなに雛人形の作り方を教えた。


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このストーリーに関するコメント

13/02/14 草愛やし美

W・アーム・スープレックスさん、拝読しました。

短い2000文字という字数制限の話でありながら、内容がしっかりした力作だと、感心しました。

お雛様は、もともとこういう意味合いから生まれたものでしたね。敵愾心を、持たないということは、この国の侍道の気配を断つということに繋がると思います。

13/02/15 W・アーム・スープレックス

草藍さん、コメントありがとうございました。

私は男性ですので、お雛様をどう取り扱おうかと最初、少し迷ったのですが、迷った時は宇宙の彼方のモノガタリにと思い、この一作ができました。

自分の中ではまだ曖昧だったものが、草藍さんのコメントを拝読し、はっきりしてきた感があります。

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