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櫻田 麻衣さん

小説を書くことが大好きです。なかなか上手には書けませんが、よろしくお願いいたします。

性別 女性
将来の夢 夢のまた夢ですが小説家になりたいです。
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大好きだから

13/02/11 コンテスト(テーマ):第二十四回 時空モノガタリ文学賞【 受験 】 コメント:0件 櫻田 麻衣 閲覧数:1849

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「もうさ、こんな問題いっぱい解いたからって、社会に出て何の役に立つんだっていう話だよね」
「あー、はいはい。わかったから、小学生みたいなこと言ってないでさっさと次の問題を解け」

 放課後の図書室。
 窓の外には寒空が広がり、勉強勉強で冷え切った心がさらにしんしんと冷えていくような気がした。
 もうすぐ国立大学の二次試験。
 センター試験の結果は思わしくなく、手元にはあまり行きたくない滑り止めのA大学の合格通知がひとつあるだけ。
 わたしは毎日いらいらした気持ちを抑えきれず、何かといえば幼なじみの修平にやつあたりしていた。

 修平の志望校はわたしと同じK大学。
 でも、修平はきっと余裕で合格できる。
 こんなに入試が差し迫った時期に、他人に勉強を教える余裕があるのがまた腹立たしい。

「修平、自分の勉強はいいの? わたしなんかさ、どうせ頑張ったって今年は無理なんだから」
「……そんなこというなよ。まあ、ひとに勉強教えてると、自然に自分の頭の中も整理されていくからな」
 問題集から視線を上げる。
 茶色の大きな瞳が、優しくわたしを見つめていた。
 なんとなく気まずくなって目をそらす。

「ふうん……そのわりには、教室でユカやミドリが『教えて』って言ってたとき断ってたじゃん」
「そりゃそうだよ、俺は別に……その、誰にでも教えたいわけじゃないからな」
「なんで? 一問や二問、教えてあげればよかったのに」
「そいつらに教えてる間、おまえに教えられなくなるから嫌なんだよ」

 修平に視線を戻す。
 野球部で3年間ずっと真っ黒に日焼けしていたのに、引退してからずいぶんと色白になった。
 その頬が少しだけ赤らんでいる。

「……なに赤くなってんの?」
「うるせえよ、ほら、続きやれ」
「怒らなくてもいいじゃない。委員長の保坂くんなんか、もっと優しく教えてくれたのに」
「えっ」

 修平が身を乗り出す。
 向かい合って座っていた長机がガタンと揺れ、参考書やペンケースが床に派手な音を立てて散らばった。
 まわりから一斉に突き刺さるような無言の抗議を受ける。

「ちょっとぉ……何やってんのよ。みんなうるさいって怒ってるし」
「待てよ、おまえ保坂とつきあってんの?」
 床に屈んで落ちたものを拾い集めていると、修平がわたしの腕を強くつかんだ。
 それはごつごつと骨ばっていて、いつのまにか大人の男の人の手になっていることにびっくりした。

「痛いなあ……はぁ? なんでそうなるのよ、あの子数学は得意じゃない。だから、ちょっとだけ教えてもらったの」
「なんで俺に聞かないんだよ。保坂はダメだ。あいつ、おまえのことちょっといいな、とか言ってたから」
「あのとき修平いなかったもん。じゃあ、上野くんとか谷崎くんならいいの?」
「だめだめ、あいつら女に飢えてるからだめ」
「……友達でしょ? そんな言い方ないんじゃない?」
「だから、俺が教えてやるから。な? それでいいだろ?」

 ものすごく必死で詰め寄ってくるのがおかしくて、わたしは少し笑った。

「もう、どうしたの? なんか必死すぎだよ」
「そりゃそうだろ。卒業まであと何日も無いんだぞ……同じ大学に行けるかどうかもわからないし……」
「そっか……そう思うとちょっと寂しいね」
「ちょっとじゃないって。一緒に帰ったり、昼飯食ったり、そういうのできなくなるんだぞ。おまえは平気なのか」

 胸がちくりと痛んだ。
 入学式の日も、体育祭の帰りも、気がつけばいつも修平が隣にいた。
 学校前の坂道を自転車に二人乗りして走り抜けたり、駅前にできたお店でソフトクリームを半分こしたり。
 友達と喧嘩して落ち込んだときは、いつもジュースおごってくれた。
 同い年なのにすごくしっかりしてて、クラスでもみんなの人気者で。
 卒業したら、もうあんまり会えなくなるのかなって思ったら……涙が出てきた。

「なんか……寂しいよう」
「な、泣くなよ。ごめんごめん……ていうか、ちゃんと合格してくれればいいんだよ。おまえが落ちたら俺が困るんだ」
「どうして修平が困るのよ」
「……一緒にいられなくなるのが、嫌なんだよ」

 他の男と話してるのを見るのも嫌だし、おまえが泣いてるのを見るのも嫌。
 修平は机の下でまくしたてた。
「なに、それ……それじゃあ、修平、わたしのこと好きみたいじゃない」
「ちょ、馬鹿。何言ってんだよ……」

 ずっと、好きだったに決まってるだろ。

 うつむいたまま、わたしの手を握って小さな声で呟く声に胸が震えた。
 
 わたしも大好き。
そう答えようとしたときには、もう唇が重なっていてうまく言えなかった。

 初めてのキスは、ひどくしょっぱい味がした。

(おわり)


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