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希都さん

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孤独な戦いのその先に

13/02/10 コンテスト(テーマ):第二十四回 時空モノガタリ文学賞【 受験 】 コメント:0件 希都 閲覧数:1404

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 時計の針は夜の十一時を指している。
 マグカップに並々注いだコーヒーを啜りながら、私は机の上の数学の問題集の上にシャープペンシルを転がした。
 どれだけの時間机に向かっていても終わりの見えない、この孤独な戦いは、ふと気付けば自分よりも周りの大人たちの方が必死になっているようで。そう感じてしまった瞬間から、私のやる気は目減りしてしまっている。
 惰性で毎日何時間も机に向かってはみるものの、この先に何が待っているのだろうといつも考えるのだ。ひたすら頑張っても、この先には何も無いんじゃないかと。頑張れば頑張るほど、親や教師は喜ぶかもしれない。けれど私自身、本当に望む方向に進んでいるのか。これで良いのかと――……。
 ――ごくり、ごくり。
 すっかり冷めてしまっていたコーヒーを続けざまに喉の奥に流し込むことで、必然的に眠れない状況を作り上げていく。
 以前よりやる気が減ってしまっているとはいえ、受験生であるというこの立場上、やらなければならないような気がして。……だから――。
 ――ごくり。
 ギッ、と音を立てて、椅子の背もたれに体重を預けながら窓の外を見やる。ちょうど同じ高さの向かいの家の二階が、幼馴染の部屋だった。小・中・高と、ほとんど一緒のクラスだった彼を、実は密かにライバル視していたりする。
 その彼の部屋も、まだ明かりが点いていた。
(あの明かりが消えるまでは、眠れないな……)
 受験まで、あと数ヶ月というところだ。ここで気は抜けない。確かに先は不透明だが、もう前に進むしかないところまで来てしまっているのだから――。そう自分を納得させて、再びシャープペンシルに手を伸ばす。
 と、その時、
【――ヴー、ヴー、ヴー、ヴー】
 突然、机の上で、ここ最近無言を貫いていたケータイが震えた。もうそれは鳴るはずがないモノだと思っていたから、かなり驚いた。SNSが流行りだしてからはほとんど電話もメールもしなくなり、メールマガジンも全て解除してあるというのに。
(……メールだ)
 画面に表示されている送信者の名前は、向かいの家の幼馴染。そのメールを開いてみると、顔文字も何も使われていない素っ気ない文章が目に飛び込んできた。

  件名:ねみぃ
  本文:お前、まだ起きてんの? あんま頑張りすぎんなよ。

 たったそれだけの文章なのに、私はなぜだか泣きたくなった。窓から見える明かりの色が、急に温かみを増したような気がする。
 あぁ、そうか。
 このところずっと、「頑張れ」とは言われても、「頑張りすぎるな」という言葉は聞いていなかったんだ。
 それを、まさか同じ立場のヤツに言われるなんて……。

  件名:Re:ねみぃ

 私は少し微笑みながら、両手の親指を動かした。

  本文:もう寝るよ。おやすみ。そっちも頑張りすぎるなよ!

 もしかしたら、あいつもこの部屋の明かりと競争して勉強していたのかもしれない。そう思うと、今まで孤独な戦いでしかなかった時間さえ、彼と共に戦ってきた歴史のように感じられる。
 ふと、机の上の開きっぱなしの数学の問題が目に入って。さっきはどの公式に当てはめても解けなかった問題の解き方が、分かったような気がした。
 急いでノートにシャープペンシルを滑らせると、面白いくらい簡単に答えが導き出せる。解答を見てみると、完璧に合っていた。
【――ヴー、ヴー、ヴー、ヴー】
 また鳴ったケータイを手に、椅子から立ち上がる。部屋の電気を消して、布団に入るつもりで。ただ、さっきコーヒーをがぶ飲みしたせいで、とてもすぐには眠れそうにないのだけれど……。
 メールを開くと、やはり幼馴染からの返信だった。

  件名:Re:Re:ねみぃ
  本文:おう、おやすみ。

 蛍光灯のスイッチに手を伸ばして、カチリと電気を消した瞬間、幼馴染の部屋の電気も消える。テレパシーみたいだ、なんて考えながら、私はケータイを枕元に置いて布団に潜り込んだ。眠れないだろうなと考えつつ横になって目を閉じていれば、それでも、いつの間にか眠ってしまったようで……。
 そして、一つのビジョンを見た。
 私も彼もそれぞれ希望する大学に入学して、自信に満ち溢れた笑顔で意欲的に物事に取り組んでいる未来。それは、私がいつもこうありたいと願っている姿だった。
(あぁ、なんだ。私はちゃんと――……)
 夢見たものが現実になる日は、きっと、そう遠くない。

fin


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