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クナリさん

小説が出版されました。 『黒手毬珈琲館に灯はともる 〜優しい雨と、オレンジ・カプチーノ〜』 マイナビ出版ファン文庫より発売中です(表紙:六七質 様)。 http://www.amazon.co.jp/dp/4839958211 twitterアカウント:@sawanokurakunar

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将来の夢 絵本作家
座右の銘 明日の自分がきっとがんばる。

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帯階段の家

13/02/05 コンテスト(テーマ):第一回 【 自由投稿スペース 】 コメント:8件 クナリ 閲覧数:2134

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地方にある高校の入試のため、私はある寂れた町の民宿に一人で泊まることになった。
木造二階建てのその家は戸も壁も全てが黒っぽく、日なたにあるのに影の中に沈んでいる様に見えた。
無理目な受験を控え、ただでさえ逃げ出したい気分だったのに、一層落ち込んでしまう。
たかだか一回の受験で自分の人生が決まってしまうのだと、両親からは散々プレッシャーをかけられ、逃避願望ばかりが肥大していた。
この世なんてなくなってしまえばいい。それが叶わないなら、せめて自分がこの世から消えてしまいたい。
そんなことを考えながら民宿の戸を開け、受付のおばあさんに名前を告げて宿泊の手続きをした。部屋へ案内され、荷物を降ろすと、おばあさんが言った。
「寝入ったら、夜中に起きてしまっても、目を開けてはいけないよ。特に、夜に上を見ちゃいけない」
そう言って天井を見る。
「なぜです?」
「古い家だから、色々起こるのさ」
おばあさんはそういって部屋から出て行った。追いかけて廊下へ出たけど、もうおばあさんの姿はなかった。

その夜、最後の勉強を終えて寝付いたけれど、緊張のせいか、夜中に目が覚めてしまった。
つい、まぶたを開ける。
すると暗闇の中、天井から垂れ下がっている赤い帯が目に入った。
寝入る前には、確かに無かった。
帯は梁か何かに掛かっているのだろうけど、上の方は暗すぎて見えない。ただ垂れているのではなく、私のすねくらいの高さで天井へ向かって折り返しており、U字を描いていた。
頭にもやが掛かった様になっていた私は何となく寝床を出て、そのU字の部分に右足を乗せ、次いで左足も乗せてみた。ブランコを立ち漕ぎする様な格好になる。
すると目の前に、同じ形をして、やはり私のひざくらいの高さに別の赤い帯がU字に垂れていた。私はそのまま右足を出し、新たに現れた帯に乗り移った。
すると、さらに目の前、少し高い位置に新たな帯が現れた。
その時の私には、それが、ここから別の場所へ導いてくれるレールの様に思えていたのかもしれない。
私は次々に現れる帯を、階段の様に上りながら渡っていった。
これではもう天井に着いてしまう、と思った頃、次の帯は私の顎の辺りの高さに現れた。
これでは足を掛けられない。
私はぼやけた頭で考えた末、自分の顎をそこに乗せた。足を乗せられる高さには足を、顎の高さならば顎を乗せるのが自然な気がした。
前傾したせいで足の裏が帯から外れ、体が宙に投げ出される。
首に食い込む帯に手で触れると、それはいつの間にか帯ではなく、一房の黒髪に変わっていた。
髪は容赦なく私の体重のままに首に食い込み、血の流れを止める。
そんな目に合っているというのに、私は、これは誰の髪なのだろうと考えながら天井の方を見た。
天井には、血の気のない、若い女の人の首が浮かんでいた。その髪が垂れ、私の首に巻き付いている。
私が女の人の方に手を伸ばすと、ちょうど指が女の人の首に届いた。
そのまま、絞める。女の人の顔が苦しそうに歪んだ。でも彼女は、そうされることを望んでいる様な気がした。何かに促される様にして、私は指に力をこめ続けた。
やがて、わずかな意識も消えてしまい、ああ、自分はこのまま死ぬんだな、と思った。

気が付いたのは、それからどれだけ時間がたった後のことなのか解らない。
夜の中、私はあの部屋の天井から、床を見下ろしていた。
U字に垂れたいくつもの帯の狭間、あのおばあさんが歪んだ表情で畳の上から私を見上げていた。
横にはあの天井の女の人が、古風な服を着て倒れていた。生きているのかも解らないその人を、おばあさんは引きずりながら出て行く。

私は、どうやらあの女の人と交代したのだ。
嫌だ。
この世から逃げ出したいとは思ったけど、こんな所に縛り付けられてしまうのは嫌だ。
やがて夜が明け、朝日の中で眼下の帯が消えた。
昼頃になると、部屋の中に、次の客らしい女の子が通された。
おばあさんがその子に、私にしたのと同じ注意を告げ、私の方を見上げる。目が合ったけれど、何ということもなく部屋を出て行った。
女の子には、私は見えていない様だった。

あの帯は何なのだろう。
なぜここに、私やあの女の人は縛り付けられてしまったのだろう。
あのおばあさんは知っているのかもしれない。
私は再びこの部屋へ降り立ち、生きてそれを訊くことができるのだろうか。
逃避を願ったがために落ち込んだ、この新たな束縛から逃れて。
嫌なことから逃げ出したくて行き着いた場所で、私はまた心から逃避を願っていた。
皮肉だな、と思った。

ともあれ私にできるのは、夜を待ち、私と入れ替わってくれ得る女の子が、うっかり夜中に目を覚ましてくれるのを待つことだけだった。
そして願わくば、彼女が今自分のいる場所から、逃げ出したくてたまらないと切望していることを。


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このストーリーに関するコメント

13/02/06 泡沫恋歌

クナリ 様。

拝読しました。

怖い・・・何故か昔読んだ「蟲師」を思い出した。

こういうホラー好きです。

13/02/06 そらの珊瑚

クナリさん、拝読しました。

古い木造家屋の天井には得体のしれないものが潜んでいそうです。
それを帯階段で表現されたことに、わくわくしました。
誰の心にもある現実逃避願望を軸にしたことで、ホラーだけれども、怖いだけでない深みのあるお話だったと思います。

13/02/06 草愛やし美

クナリさん、拝読しました。

ぞっとする終末ですね、そのうえ、この話の怖さは、ガタガタ震えるものでなく、ジワジワと押し寄せてくるものなので、読み終わって余計恐ろしく感じています。

淡々と書かれている文体がそれを助長しているのでしょう。

古い宿というのはこういった恐ろしい霊のような魔物が住んでいたりします。おぉコワ!! 決してこの世から逃げ出したいなんて考えてはいけないんですね。

13/02/07 クナリ

泡沫恋歌さん>
ありがとうございます。
「蟲師」、独特な感じのカバー絵で存じてますよッ。自分でホラーを書いているときは漫画っぽいビジュアルを思い浮かべて書くことが多いです。リアリティのない話ばかりだからかもしれませんが……(^^;)。
最近高橋葉介先生という(超ベテランらしいですが)怪奇な感じの漫画家さんにはまったりしているのですけど、独特の世界観のある漫画はいいですよね。


そらの珊瑚さん>
そうなんです、古い家の屋根裏だの天井だのは、「あの辺、何か潜んでるんじゃないですかーッ?」と思ってしまうのですが、その不気味さが好きなのです。
これはテーマ「受験」用に考えていた話だったんですが、先に別の話を投稿してしまったので、少し直して『逃避』を主眼にもって来たのでありました。
ホラープラスアルファの部分を楽しんでいただけたなら、よかったです。


草藍さん>
いつもコメントありがとうございますッ。
「わーこわーい!」よりも「やだなー不気味だなー気持ち悪いなー」を目指した話だったので、そういっていただけてうれしいです。
この世の中で何かから逃げ出しても、たいていもっとろくでもない目にあうんですから、あの世との境界なんぞへ逃げたらもっといやな目にあうんでしょうね。
せちがらいですね(?)。

13/02/13 石蕗亮

クナリさん
拝読いたしました。
実は私、似た経験があります(笑)
幽体離脱なんですが、天井に人の顔が見えたのでよくよく目を凝らして見ると、暗い天井に自分の顔がありました。
でもそれは天井に顔があるのではなく、天井から自分の顔を見下ろしていたのでした。
読んでいて懐かしくなりました。

13/02/15 クナリ

石蕗さん>
ありがとうございます。
いや、そんなさらりとトンデモ体験のお話されてもッ。
「ああそうそう、あの温泉いいお湯なんだよねー。わかるわかるー」みたいなノリじゃないですかッ。
クナリは自分が霊感ゼロですからね…。
死ぬまでに一回くらい心霊体験してみたいですね。

13/02/17 石蕗亮

クナリさん
なんか、あるある話になってスイマセン(笑)
では不思議体験ができるかもしれないお話でも書いてみますね。

13/02/21 クナリ

石蕗さん>
投稿乱れうちではありませんかッ。
続けて読んでいると、段々自分が過去に体験した話のように思えてきます。
ていうか色々経験しすぎです(^^;)。
登山で言えば、モンブラン登頂者のような経験地…!(?)

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