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海見みみみさん

はじめまして。 時空モノガタリで修行させていただいています。 焼き肉が大好物。

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怪獣ちゃんは見てる

19/06/25 コンテスト(テーマ):第170回 時空モノガタリ文学賞 【 庭 】 コメント:0件 海見みみみ 閲覧数:77

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「アタシ怪獣って言うの。よろしくねシヅカ」
 自称怪獣の女の子は、ハンカチで私の涙をぬぐってくれました。小学生くらいの元気そうな子。どう見ても怪獣には見えません。
 中学校の裏庭。放課後だからか、私たち以外に人の姿はありませんでした。
「シヅカ、がんばってるよね。中学に入ってから、ずっと陸上部で」
「私のこと知ってるんですか?」
「知ってるよ。ずっと見てたもん」
 女の子、怪獣ちゃんがニカッと歯を見せて笑います。でもその表情はすぐに曇りました。
「でも最近のシヅカ、辛そう。みんな酷いよ」
 怪獣ちゃんの言葉にドキッとします。怪獣ちゃんは怒ったように言葉を続けました。
「シヅカの陸上部、月に何日休める?」
「休みは……月三日ぐらいですね。その三日も自主練って名目の練習で潰れますし」
「でしょ? 休みがないなんて変だよ!」
 そう言われると、確かに変です。それに気づかないくらい、私は疲れてました。
「特にあの顧問の人。ろくに指導できないクセに、暴言ばっかり吐いて酷いよ!」
 水戸先生のことでしょうか。水戸先生はいつも機嫌が悪く、すぐ怒鳴り散らします。私も目をつけられ、よく酷い事を言われました。
「シヅカが怒られてても、周りの部員たちは見て見ぬ振り。みんな薄情だよ」
「自分に矛先が向かないようにしてるんですよ。仕方のないことです」
「それでシヅカはいいの? 悔しくないの?」
「……悔しくないわけ、ないじゃないですか」
 耐え切れなくなり、私は嗚咽をもらします。
「子どもの頃は走るのが大好きでした。それでせっかく陸上部に入ったのに、いつも部活の後は泣いてばかり。いつからか、あんなに好きだった走ることも辛くなって……」
「陸上部なんてやめちゃいなよ」
「無理、です。みんなの目があるし、部活を辞めたら進路だって」
 情けない理由に、子どものように泣く私。怪獣ちゃんはまたニカッと笑いました。
「全部壊しちゃおうか。中学も、部活も、キライな人たちみんな!」
「えっ?」
 私は目を疑いました。怪獣ちゃんの肌が黒くゴツゴツしたものに変わっていきます。口は大きく裂け、目がギョロリとします。体がムクムクと大きくなり、校舎よりも巨大に。
 怪獣、その名に相応しい存在に、怪獣ちゃんは変身しました。あたりに響く怪獣の咆哮。怪獣は地響きを鳴らしながら歩き始めました。
「すごい……」
 声を漏らすのが、私の精一杯でした。怪獣は校舎を踏み潰し、叩き壊し、熱線を吐き溶かします。校舎に残っていた生徒や先生たちが、慌てて逃げ出す声が聞こえました。
 さらに怪獣が前に進みます。先にあるのは校庭です。校庭には練習中の陸上部が。
「いけない!」
 ハッとなり、校庭に向け駆け出します。その間に怪獣は校庭へ向け、熱線を吐いていました。人々の悲鳴が響きます。
 全速力で駆け抜けると、校庭にはまだ顧問の水戸先生と、部員たちの姿がありました。みんなガクガクと恐怖に震えています。
「おまえたちがシヅカを苦しめたんだ。みんな死んじゃえ!」
 怪獣がみんなを踏みつぶそうとします。直前、私は怪獣の前に立ちふさがりました。
「殺しちゃダメ!」
「なんで?」
 怪獣から聞こえる、怪獣ちゃんの声。怪獣ちゃんは続けます。
「道徳的に間違っているから? シヅカはマジメ過ぎるよ! こんな奴らが死んだって!」
「ううん、違うの。殺して欲しくないのは、もっとワガママな理由」
 私は一度深呼吸すると、覚悟を決め、怪獣ちゃんへ向け語りかけます。
「怪獣ちゃんにこんな人たちを殺した罪、背負って欲しくないの! 怪獣ちゃんに罪を背負わせるくらいなら、私……部活やめる!」
「……なんだ、言えたじゃん」
 怪獣ちゃんがニカッと笑います。同時に世界は真っ暗になり、私は気を失いました。

 目覚めると、そこは中学の裏庭でした。校舎に壊れている所は一つもありません。私は夢でも見ていたのでしょうか。一緒に持っていたカバンに目がいきます。
 カエルのゆるキャラだと思っていた、ぬいぐるみのストラップ。でもこれ、今見ると怪獣ちゃんにそっくりです。ずっと見てた、怪獣ちゃんの言葉を思い出します。
「……退部届けの書き方、調べなきゃ」
 私は駆け出します。まっすぐ続く道。私は走ることが久しぶりに楽しく感じました。


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